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君に捧ぐ花  作者: ancco
自立への道
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杏子という女

現在の家賃は、二十代のOLの一人暮らしの住まいとしては比較的高めであったとはいえ、その半額ともなると、良い物件はそう易々とは見つからなかった。杏子の住む都市は、東京を除けば関東でも一、二を争う規模の都市であった。そのような都市部で、杏子が探すような五万円を切るような物件など、とても未婚の女性が住めるようなものでは無かった。


杏子は、現在の住まいだけで無く、生まれも育ちも関東の都市部であった。一人っ子であるが、杏子がまだ学生のうちに両親は離婚しており、今では家族三人、それぞれが好きなように暮らしている。母親とは時折電話やメールで連絡をとることもあるが、父親からは何の音沙汰もない。それを寂しいと杏子が思い悩むことがないくらい、家族の間には最初から絆がなかったとも言える。


このような事情で、杏子は在学中は学生寮に住まい、卒業後は社員寮に入り、入社二年目には現在の住まいへと移った。関東では名の知れた文系専門の国立大学の出身であった杏子は、初任給こそ人並みであったものの、二年目以降は昇級や賞与において破格の待遇を受けられたために、現在のような住まいを持つことが出来たのだ。さらに、四年の在社中に、学費の支払いのために借りた奨学金を返還し終え、一年ほどは無給でも生活できる位の蓄えもあった。

というのも、早くから独り立ちをせざるを得なかった境遇のためか、杏子には節約癖があったのだ。流行の服や化粧には倣うものの、如何に安いもので如何に上等に見せるかを工夫するのが、杏子は好きだった。杏子は、身なりや髪型に頓着しない無気力な女ではなかったが、ブランド品や一時的な流行に振り回されて浪費することを良しとはしない、慎ましさと堅実さを持った女であった。


会社を辞めた今、杏子を関東に縛り付けるものは、何一つ無かった。もちろん、人並みに友人は居るものの、中には結婚や転勤で地方へ行った者もおり、そうでない友人にしても、お互いに仕事や家庭を持つ年齢になった今では、年に一度会えれば良い方である。

年末に結婚式に招待してくれた友人も同様で、この四月からの夫の転勤により、ベトナムへの引っ越しが決まっていると言っていた。


(思い切って地方に行ってみるのも良いかもしれない。住みやすい都市を調べてみようかな。)


こうして杏子の新居探しは、関東の域を出て、日本全国へとその範囲を広げた。

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