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君に捧ぐ花  作者: ancco
自立への道
13/111

引っ越そう

杏子がフリーランスとなって、丸々一ヶ月が過ぎた2月初旬、杏子は、インスタント翻訳.comの納入実績のページを眺めていた。


一月の納入実績

件数:168件

報酬額:110,876円


杏子は、非常に焦っていた。フリーランスになったからには、就業時間などないのだから、収入が足りなければ足りるまで働けばよいのだと、そう安易に考えていた。

しかし、現実はそう上手くは行かないのだと、目の前のモニターに映る数字が杏子に説教をたれる。

それでも、杏子は、電子音には素早く反応し、処理可能なものであれば早押しでクリックして受注している。

この仕事は、一言で言えば、早い者勝ちなのである。電子音が鳴るまで、ひたすら画面の前で待機し、音がすれば概要を素早く確認し、行けると見込めば受注ボタンをクリック。この動作を、他の翻訳者よりも早く出来るかどうか、全てはそれに掛かっていた。


当初の杏子は、案件内容の確認に時間を掛けすぎていた。出来ると判断した案件も、出来ないと判断した案件も、杏子が心を決めるより先に、他の誰かに取られてしまうことが多かった。

やがてそのやり方を改め、案件の分野だけを見ておおよその見当をつけ、見切り発車で受注することを覚えた。例えば、医療や機械の分野ならスルー、逆にビジネス一般やITなら即決、という具合にである。


メンタルに大きく左右されるところは珠に傷であるが、元来要領の良い杏子は、一月度は惨憺たる結果ではあったものの、二月、三月と経験を積むにつれて、生きていくために必要な額ほどは稼げるようになっていた。


そうして杏子が悟ったことは、フリーランスになると、風邪をひく暇もないということである。コツを掴んできた杏子は、食事や睡眠の時間を十分とったとしても、最低限の収入を得ることができている。しかし、病気で数日寝込んでしまえば、直ちに数万円の損失である。当然ながら、今の杏子には、有給という労働者のための制度を享受する資格がないのだ。必要最低限の収入では足りないのだと思い知った杏子は、収入を増やすよりも支出を減らした方が良さそうだと考えた。


(よし、引っ越そう)


現在の杏子の住まいは、路線が複数重なる基幹駅まで徒歩10分という好立地にあり、女性の独り暮らしでも安心なオートロックと二重ディンプルキーのマンションだった。家賃は、以前の収入からすれば三割程度を占めるにすぎなかったが、現在の収入からすると、優に半分近くを占める額である。

今後ゆとりを持って生活するためには、現在の家賃の半額ほどが理想であった。その額であれば、杏子は風邪をひくことができる。


例の電子音が鳴るまでの待機時間、杏子は賃貸物件探しに励んだ。

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