5. 国王
次の日先生に連れられた御堂くんと私も一緒に謁見の間へと向かった。謁見の間の控え室で御堂くんに言い聞かせる。
「御堂くん。これから会うの一応この国で一番偉い王様だから。王様って言っても若いんだけど、ちゃんと礼儀正しくしてね?」
「へーへー。」
「へーへーじゃなくて!クビが飛ぶから。文字通り首飛んじゃうんだからね!ここで御堂くんが怪しく無いって認めて貰わないと牢獄行きとか監禁とかそういう事になっちゃうんだからね⁉︎」
「ったく、心配すんなって。な?」
気楽そうに笑ったその態度…それが心配なんだけど。
「さ、二人共入りますよ?」
ウォーカー先生に促されて赤い絨毯の敷かれたホールへ入る。ピンと張りつめた独特の空気が全身にまとわりつく。この雰囲気…ドキドキしちゃって苦手なんだよなぁ…。
入り口と壇上のちょうど間ほどで立ち止まり、鎮座する国王に礼を取る。
「やぁ、くるみ。よく来たね。さて、話は聞いてるけど彼が君が召喚した勇者、ミドウアラタ?」
まだ声変わりもしていないであろう声の持ち主を見る。今年14になるあどけなさの残る少年は紛れもなくこの国の王、ルドルフ=ルナ=ラージュ陛下だ。
「いえ…申し訳ありません。彼は私が勇者と間違えて召喚してしまった異世界人です。」
「へぇ?面白いね?でも僕は彼は勇者だと思うよ?」
「…そ、そうでしょうか?」
「くるみは疑り深いなぁ…。じゃ、試してみようか。」
そう言うと陛下の側近が水晶玉を持って御堂くんに近づいた。
「じゃあ、早速。それに触ってみようか?」
御堂くんを見ると一瞬目が合った。
心配すんなよ。
そう視線で言われた気がしたと同時に御堂くんは平然と水晶に触れた。触れた途端に透明だった水晶が金色に光りだす。
「ほら、やっぱり勇者じゃないか。くるみ、良かったね?君は失敗なんかしてないよ?」
「は…い。」
良かった…これで御堂くんが軟禁されたり処分されることは無くなった…けど…。
「じゃあ、えーっと、アラタ。早速だけど君には魔王討伐に行ってもらうね?」
来た…勇者に認定されたからにはやっぱり魔王の討伐に行かないといけないのか。
「陛下っ…彼はまだこちらに来て間もな…」
日を延ばして貰わないと…そう思って進言しようとしたら御堂くんの言葉が重なった。
「いつ行きゃいいんだ?」
「あぁ、そうだね。うん、今すぐというわけじゃない。そうだなぁ、三ヶ月以内に行ってくれたらいいよ。」
「そうか。」
「うん。宜しくね?」
「あぁ。」
あっさりと陛下との話が終わって御堂くんはさっと私の腕を取って謁見の間を出た。長い廊下を呆然と歩きながら、いや引っ張られながら意識がハッキリとしてきた。
「ねぇ…御堂くん、普通過ぎない?魔王だよ?」
「あ?だから何だよ。」
「魔王だよ⁉︎魔の王と書いて魔王。魔物の頂点に君臨するあの魔王!ファンタジーの世界じゃ悪どいボスキャラ魔王!」
「んだよ…魔王魔王ってうるせぇな。」
「だって!理不尽だと思わないの⁉︎いきなりこんな訳のわからない世界に連れてこられて、魔王退治してこいとか!」
「ま、倒しゃ済む話しだしな。それで終わりだ。」
あっさりしてる。あっさりしすぎだよ…御堂くん。
「で、でも…魔王って呼ばれるからには強いだろうし。その…危ない目に合うかもしれないのに…。」
「ん?心配してんのか?」
御堂くんが立ち止まってこちらを振り返る。覗き込まれるように見られて慌てて視線を逸らすと掴まれたままの腕が目に入る。
「そ、そりゃあ…そうだよ…。」
「へぇー?」
どこか悪戯めいた声色で御堂くんは視線を合わせようとしてくる。逃げきれなくて、視線が絡むと顔が熱くなるのがわかる。
「ク、クラスメイトだもんっ!心配して、当然でしょっ⁉︎」
「ブハッ!ハハハっ!そうだな。あー、お前可愛いいなぁ?」
「かっ!可愛くないもん!」
「あー、おもしれぇ…。ま、なんだ。心配すんな、な?」
そう言って御堂くんは頭をグリグリっと撫でてまた腕を取って歩き出した。
「頭…グチャグチャになっちゃったじゃん…。」