4. 剣士とヤンキーと
文章中に御堂が人を見下すような呼び方をしていますが作者が偏見を持っているとかそういう理由では無いのでご理解お願いします。後いつもより長めです。
昨晩に先生がやってきて、お互いに疲れているだろうから御堂くんの事は時間を見て今日連れてくると言ってくれた。ゆっくり休むように言われたけど…やっぱり心配で寝てもたっても居られず朝日が昇るとともに御堂くんの元へと走った。勇者様はあちらの部屋でまだお休みの様ですと教えてくれた守衛に礼を言って扉を勢いよく開けた。守衛が止めに入ろうとしたのは無視した。
「御堂くん!」
御堂くんはまだベッドの中にいたけど、そんな事は構わず彼に近づいた。
「御堂くん…本当にごめんなさい…!いきなりこんな異世界に呼び出したりして…って、意味わかんないよね、異世界とか。でも信じて!信じられないかもしれないけど、ここ地球じゃないの。壮大なドッキリとかそういうのじゃなくて…」
「…んだよ、朝っぱらから。うるせぇな…。」
御堂くんが寝返りを打つとギシリとベッドが音立てた。
「御堂くんっ!寝ぼけてないでちゃんと、聞いて!」
寝に入っている御堂くんの腕を引っ張ってベッドから引きずりだそうと頑張る。
「みーどーうーくーんー…って、きゃっ!」
御堂くんに逆に腕を引っ張られて、反動でベッドに身体ごとダイブしてしまった。ダイブしたと思ったらあっという間にシーツの中で抱き枕にされていた。ってどんな状況よ!
「み、御堂くんっ!ちょっ、ちょっと!寝ぼけないで!」
「ねみぃ…おまえもねてろ。な?」
眠そうに瞼をこすってまた寝だした御堂くん。そして私は抵抗中の抱き枕状態。一体なんの冗談で…どういうつもりで、どうしてこうなったの⁉︎御堂くんって金髪ヤンキーだったけど…外ではめちゃめちゃ遊んでるって噂はあったけど、学校の子には手出さないんじゃなかったっけ⁉︎って、あ…。でも私、異世界にいるしもう学校の子じゃないな。って違う!違う!
…チャキリ
後ろから金属音が聞こえたので振り返ると、赤いウェーブのかかった髪の男が剣を御堂くんに向けていた。
「…神巫女様から離れろ。勇者であろうと彼女に不埒な真似をするなら容赦しない。」
「んだよ…ったく。まだ何にもしてねぇよ。」
両手を頭の横にあげた御堂くんを、金の瞳で睨み続けたままのウォルグスには、護衛をしてもらっていた。普段は無口だけどしっかりとした頼りになる人だった。でも何か殺気がスゴイよ、ウォルグス…。
「ちょ、ちょっとウォルグス。待って。何にもされてないし大丈夫だから剣…下ろして。」
「…。」
「ウォルグス。」
不満そうな顔ではあったもののウォルグスは剣を納めてくれた。
「と、とりあえず…彼と話したいことがあるから、外で控えてて?」
「…危険です。」
ジッと御堂くんを睨んで微動だしないウォルグスが言いたいことは分かるけど…とりあえず御堂くんと話さないといけない。
「ウォルグス、大丈夫だから。話をするだけだから。」
チラリと先ほどベッドに連れ込まれた相手を見るとシッシと手でウォルグスを追い払う仕草をしていた。
引かない私を見て彼は軽く溜息をついて退室した。
シーンと静まり返った部屋の中、早く御堂くんに事実を伝えないと…そう思ってはいるものの何て伝えればいいのか分からない…。でも伝えなければ何も始まらないし、世界が滅ぶと知らないままその日まで黙っているわけにはいかない…。
「あ、あのね、御堂くん…」
「あ、わり。便所行くわ。」
「へっ?あ…どうぞ?」
「つか、風呂も入るからそこで座って待ってろ。な?」
「あ、うん。」
何だか拍子抜け...ソファに身体を預けて天井を見上げる。勇者召喚に失敗した私を大臣は午後辺りから責めにやって来るだろう。先生は昨日部屋に来た時『大丈夫ですよ、』と慰めてくれたけど…。でも、先生が落ち着いてたって事は何か策があるのかもしれない。
静かな部屋にシャワーの音が響く。そういや、ここって異世界なのにシャワーとかも普通に有るんだよね。1年住んでわかったけど、生活様式が殆ど変わらない。車とかは無いけど移動魔法の方が便利で早く着くし。食べ物も基本洋風だけど和風っぽいのもあるし。あー、御堂くんにあったせいか元の世界のご飯が恋しくなってきたかも。料理長に頼んで和食作ってもらおう。本当はラーメン食べたいけど…ラーメンは前作ってもらったけど何かやっぱり違ったからなぁ…あぁ、ラーメン恋しい。あの味はきっと日本でしか無理よね。あぁ、やばい、すごい食べたい…。
「あー、サッパリした。ってわり、待たせたか?」
でかけたヨダレを慌てて引っ込めた。これから真面目な話をするんだからラーメンから離れないと…。軽くため息をついて御堂くんの方を見る。
「あ、ううん。大丈夫。」
「にしても、あんま異世界って感じがしねぇな。」
「そうだね、でも、そういう服だと異世界っぽいよ?
「あぁ、そうかもな。」
膝ほどまである紺色の丈の服にストンとしたズボンはこの国の男性がよく着る物だったが、御堂くんのものには銀糸で豪華な刺繍がされていた。コスプレっぽいかと思いきや…意外と似合ってるかも。
「似合ってるね?」
「そうか?お前は、」
そう言ってジーッと御堂くんは私を観察した。
「服装含めてオタクどもが好きそうだな。」
「…。」
予想通りの答えが返ってきた。私自身今着ている服を着てまずそう思ったもんなぁ…。白を基調とした長袖のドレスは胸下で切り替わっていて幾重かになった滑らかな布が足首辺りまである。こう説明すると普通っぽいんだけど、何というかまぁ胸元が強調されてたり袖の広がり方だったり、形だったりがどうもコスプレっぽい。アニメに出てきそう。そんな感じなのだ。
「ま、金髪含めて似合ってるから良いんじゃねーの?つーか、何で金髪なんだよ。」
「あ、うん。なんか、何でだろうね、でも異世界から召喚した人はみんなこうなるらしいんだけど…。」
御堂くんの頭を見つめる。うん、どう見ても真っ黒。
「御堂くんは、黒髪だと…へ…えっと、違和感あるね…?」
「おい…お前今ヘンって言おうとしたよな?つか俺だって生まれた時は黒髪だかんな?」
御堂くんが、ちょっと睨みを利かせてこっちを見た。背景にゴゴゴゴゴゴとか聞こえてきそうだけど…こ、怖くなんか無いんだからね!
「…まぁ良い。俺の頭はさておき、何であの時謝ってたんだ?」
「あ、うん。えっとね、ちょっと長くなるんだけど…」
「長いのかよ…メンドクセェな。」
「もう!えっと、とりあえずこの国には人と魔物が住んでるの。普段は魔物も魔の森にいて人里には降りてこないんだけど、何だか最近は小さな町で被害が起きてるみたいで…。」
「何だ、魔物を退治できるやつはいねぇのか?」
「ううん、いるよ。レンジャーって呼ばれる人たちが普段は魔の森に行って退治?っていうのも変だけど、ダンジョンを攻略したり素材を採ってきたりするし。」
「ゲームみてぇだな…。」
「アハハ…本当そうだよね…。」
乾いた声で笑ってしまう。これだけじゃ無い。何のファンタジー小説なのか、ゲームなのか…更に王道な事が起ころうとしている。
「で、俺が呼び出された理由は何だ?勇者とか言ってたから魔王でも出たか?」
「えっと…うん。」
「…マジかよ。」
「…うん、マジで。」
「で、俺に討伐に行けってか?それで謝ってたのか?」
御堂くんはメンドクセェな…と呟きながら濡れたままの前髪をかきあげた。
「ううん、行かなくて良いと思う。」
「あ?そうなのかよ。」
「うん…。」
「じゃなにすりゃ良いんだよ。」
「…何も。」
「はぁ?んじゃ、何で呼びつけたんだよ。」
御堂くんが呆れたように言った。はぁ…答えたくない。おちゃらけたりしてたけど、やっぱり言いたくない。軽いノリで言いたいけど言えないから今すぐにでも逃げ出したい…。
「…ま…たの。」
小さな声で答えた。
「…わり、なんて?」
聞き返さないで欲しいと思ったけど、やっぱり聞き返された。
「ま、まちがえたの。」
「はぁ?」
御堂くんはよくわからないといった顔をしたけどそんな顔で見ないで欲しい。
「だ、だから!間違えたの!勇者を呼び出すつもりが間違えて御堂くんを呼び出しちゃったの!ついでに、だからこの世界ももうすぐ滅びちゃうの。ごめんなさい!」
一気にまくし立てた。
「はぁ!?お前、今ついでにとか言ってすげーふざけた事ぬかしただろ?」
「ふ、ふざけてない!魔王を倒さないと世界が滅んじゃうの!そういう決まりなの!」
「決まりって…。ったく…何だよそれ…メンドクセェな。」
御堂くんは溜め息を文字通り大きくついてブツブツと言った。泣きそうだ。本当にふざけた面倒な状況だと思う。
「…オイ。んな顔すんなよ。」
「…。」
「まだ、世界は滅んじゃいねぇし、魔王を倒せば丸く収まるんだろ?」
無言で首を横に振る。勇者じゃないと魔王は倒せない…そう言い伝えがある。
足下の床がぼやけて見える…けど泣いちゃいけない。きっと泣きたいのは御堂くんの方だ。世界が滅ぶ日は明日か明後日か、一ヶ月後か数ヶ月後なのか具体的にはわからない…。でもその日が来たら御堂くんも、私も…先生もウォルグスも…お世話になったみんなが…。
「ったく…しょうがねぇな。」
涙がこぼれ落ちたと同時に身体に温かい温度を感じた。背中に回った手がぽんぽんと、やさしく頭を撫でる。
「大丈夫だから…おれが何とかしてやるから。だから泣くな、な?」
「…な、なんとかって?」
聞き返した声は自分が思ったよりも鼻にかかった声だった。
「これから証明してやるよ。」
何か策があるのか御堂くんはニヤリと笑った。
あ。あれ…?タイトルにあるのに(タイトルはいつも適当)剣士の存在感なさげ。というかウォルグスどこ行った???