貴方に告げなかった別れた理由
一途な女性の切ない恋を目指して作成してみました。
敢えて主人公にも相手の男性にも名前は付けていません。
ご感想やアドバイス等頂けたら幸いです。
貴方が私を見ていないのに気がついたのはいつだったでしょうか?
いえ、本当は最初からわかっていました、貴方があの人を忘れるはずがないって。
でも、少しだけ夢を見てしまった・・・本当はそれだけ。
それでも、私は貴方にとって少しでも心に残る存在になれていたのでしょうか。
・・・少しだけ気になるけれど、もうそれも知ることはないのでしょう。
「な~に、黄昏てるのよ?」
「あ、みーちゃん」
あの人が好きだった冬晴れの空を眺めていると、みーちゃんが私に声をかけてきました。みーちゃんは大学で出来た友人で、今では講義がないときとかいつも一緒に遊んでいる大親友です。
「ま~た、最低彼氏のこと思い出してたわけ?」
「最低彼氏って・・・」
眉間に皺を寄せたみーちゃんの一言に苦笑を一つ。
「最低でしょうか!好きな女がいるのに、他の女を恋人にしてあまつさえ、その好きな女と浮気するなんて男!」
「そ、そう言うと身も蓋もないな~」
みーちゃんの言葉には嘘が一つもないから、私はやっぱり苦笑するしかありませんでした。
彼と出会ったのは、全国中学ピアノコンクール。
私は彼の弾くピアノの音に一目惚れならぬ一聴き惚れをしてしまったのです。
でも、その時はいきなり声をかけるなんてできなくて、彼の名前を覚えるだけで精一杯でした。だけど、なんの悪戯か・・・そんな私に彼との再会という名の運命が降ってきました。
私の入学した高校に彼も入学してきたのです。しかも、クラスも一緒、席も隣。
私はもちろんその偶然に運命だと歓喜しました。
だから、本当は人に話しかけるのが苦手な私だったけど、頑張って彼に声を掛けました。
本当はピアノのことを言うつもりだったんだけど、私の一聴き惚れまで知られてしまうのが怖くて、そのことはその時には言いませんでした。
だから、「どこの中学だったの?」とか「これからよろしく」的なことを話したような気がします。あの時は緊張していたから何を話したのかあんまり覚えていないのです。
その後、彼とはよく話すようになり、彼と話す度に私の恋心は膨れ上がっていきました。思えば、その時が一番幸せだったのかもしれません。・・・なにも、知らなかった時でしたから。
夏のある日、彼が家でピアノの練習をしていることを知りました。それまで、帰宅部なのは知っていたので漠然とどこかで練習しているのかな・・・と思っていましたから、その謎が解けた瞬間でした。そして、話の流れで彼が私にピアノを聴かせてくれるということになったのです!
その時の私の気持ちは、まさに天にも昇る気持ちというものでした。
でも、思えばこの時にあそこに行かなければ、彼の思いに気がつかなくてすんだのかもしれません・・・。
彼の家はピアノ教室で、それで彼もピアノを始めたそうです。
そんな彼の原点であるピアノを前にして私は有頂天でした。
でも、そこに彼女が彼のお兄さんと共に現れました。その時から、彼の様子が変わりました。
その女性は彼のお兄さんの恋人でした。
私たちと同じ学校で2つ上の先輩でした。お兄さんが彼女の肩に腕を回しながら、彼に「彼女を連れてくるなんて」とからかうと彼はそれを「ただの友達だ」と大きな声で否定しました。その時、彼の瞳に映ったのは憎悪と嫉妬であることに私は気がつき、そして、気がつきたくないことにも気がついてしまいました。
彼はお兄さんの彼女さんが好きなのだと・・・。
その日、どうやって家に帰ったかはわかりません。ただ、家に帰ったあとずっと泣いて親に心配させてしまったことだけは覚えています。
次の日、彼と会うのが嫌でしたが泣きすぎで休めるはずも無く、学校に行きました。そうすると、彼が「変なところ見せてごめん」と謝ってきたので、私は首を横に振り「気にしていない」というようなことを言ったはずです。
それから彼の家に行くことはありませんでした。
それでも、なんだかんだとずっと同じクラスで彼と友人関係を続けていた3年の夏、青天の霹靂と言われる事態が起こりました・・・彼に「付き合ってほしい」と言われたのです。
驚きました。当然です、だって彼には好きな人がいたのを知っていたのですから。
だから、聞いたのです・・・お兄さんの彼女さんのこと。
すると彼は「知っていたのか・・・」と驚いたように呟いた後、真剣な目をして私に「確かにずっとあの人と付き合いたいと思ってたけど、今は君と付き合いたんだ」と言ってくれたのです!・・・嬉しかった。
ずっとずっと好きだった人、最初はピアノの音だったけれど、話をするにつれ、ピアノ以外のところもどんどん好きになっていった人。そんな人にそんな風に言われて嬉しくない訳がありません。
だから、私はすぐに「はい」と応えました。
でも、馬鹿な私は気がついていなかったのです・・・その時、彼が私のことを「好き」と言っていないことに。
その後は受験勉強会という名のデートを何回かしました。
彼は音大を目指していたので、多くはできませんでしたが、それでも私は幸せでした・・・本当は少しだけ、ほんの少しだけ、彼が私を見ていないような不安を感じていましたが、それでも幸せでした。
不安が現実のものとなる・・・あの日までは。
その日は12/24、クリスマスイヴでした。私は彼との待ち合わせ場所で彼を待っていましたが、彼は時間になっても現れずメールをしても返信が来ず、電話もつながりませんでした。
待ち合わせ時間から1時間が過ぎた時、遠くで彼に似た人がいることに気がつきました。でも、その人は待ち合わせ場所とは違う方向に向かっていました。
私は胸騒ぎを覚え、その人のもとへ向かいました。
結果的に、その人物は彼でしたが、彼だけではありませんでした・・・お兄さんの彼女さんと一緒だったのです。
私はそれに気が付くと二人から見えないように隠れてしまいました。
二人は言い合いをしており、内容は、お兄さんが今日彼女さんのデートの約束を反故にして、他の人とデートをしているというもの。そして彼はお兄さんではなく自分を見て欲しいとお兄さんの彼女さんに言っていました。彼女さんは首を横に振り、彼に私のことはどうするのかと問うていました。彼は「貴方を忘れるために付き合ったけれど、どうしても貴方が忘れられないんだ。貴方が好きなんだ!」と言って彼女を抱きしめました。
その時、私は気がついたのです。
私は彼に「好き」と言ったことはあるけれど、彼に「好き」と言われたことはない、ということに。
私はそれ以上そこにいることは出来ず、走って家に帰りました。その後、彼から今日の待ち合わせにいけなかったことに対する謝罪のメールをもらいましたが、返信できませんでした。
次の日、彼とは学校で会いました。彼は待ち合わせに行けなかったことをもう一度謝ってくれました。私は笑って許しました。そして、あの日に見たことは口にしませんでした。
きっと、言ってしまったら彼との日々が終わりになってしまうと思ったからです。私にとって彼との日々が何よりも大切だったのです。
それから受験勉強の日々が続きましたが、彼とは受験勉強会をするか、少し会ってお茶をするというような手を握ることさえしないデートを繰り返しました、それでもよかったのです、幸せでした。
もし、何事もなくずっとこんな日々が続いていたなら、私は彼から離れなかったのでしょうね。
受験も最終局面を迎える2月、私は彼にどうしてもバレンタインのチョコレートを渡したくてお兄さんの彼女さんと初めてあったあの日以来、初めて彼の家に足を運びました。サプライズで驚かせたくて、内緒で彼の家に向かったのです。
彼の家が私の眼に入り、走り出そうとした瞬間でした。
彼の家から、お兄さんの彼女さんが出てきたのです。それだけなら、私は今でも彼の彼女でいられたのでしょう・・・でも、見てしまったのです。
彼と彼女がキスをしているところを。
目の前が真っ白になりました、いえ、真っ暗でしょうか、よく覚えていません。それでも、二人に気がつかれずにその場を去れたことは覚えていますし、今でもそれでよかったと思っています。
私はそれまで、二人に関係はないと思っていました・・・私と彼の関係と同じだと思っていたのです。でも、違いました。
私は彼と抱きしめ合ったことも、ましてやキスなんてしたことがありません・・・決定打だと思いました。
次の日、彼にバレンタインのチョコレートを渡すと彼は嬉しそうに受け取ってくれました。けれど、私の心はそれを見ても心躍ることはなく、ただ乾いた笑みが出るばかり。彼はそんな私を気にかけてくれたけれど、どうしても心から笑うことはできなくて、風邪気味だと誤魔化しました。
そして、卒業式当日。私は彼に第二ボタンが欲しいとお願いしました。彼は「こんなものがなくても、ずっと一緒にいるだろう?」と言いながらボタンを渡してくれました。正直、とても嬉しい一言でした。夢のような一言。でも、それは一時の夢に過ぎないと知っている私はその言葉に何も言えず微笑みだけを返しました。
彼は東京の音大に、私は東京の大学に合格していたので、一緒に上京する約束をしていました。同じ新幹線のチケットを取って、駅で待ち合わせをしていましたが・・・私は行きませんでした。
私はその時には地元を離れ北海道に来ていましたから。気になる教授の講義があるからと、いえ、もしかしたらこんなことがあるかもしれないと・・・北海道の大学も受けていて正解だったと今でも思います。
彼にはメールで今、北海道にいることと「別れよう」ということを伝えました。メール送信後すぐに彼から着信がありましたが、出ませんでした・・・出られませんでした。だって、きっと電話に出てしまったら全部吐き出してしまうから・・・それはしたくありませんでした。
だって、振られるよりも振る方がかっこいいでしょう?ずっとずっと彼に振られ続けた私の最後の女の意地でした。
その後、すぐに携帯を変えてしまったので、彼から連絡が来ることはありません。これからも来ないでしょう。
この話は親友のみーちゃんにしか話していません。きっと生涯彼女以外に話すことはないでしょう。
きっと私はこれからも恋をせずに生きていくのではないかなと思っています。みーちゃんは「そんなことはない」と言ってくれますが、彼以上に好きな人ができるなんて未だに想像がつかないのです。
実は、彼は音大在学中にピアニストとしてデビューを果たし、今や人気ピアニストなのです。そして、今回北海道でもコンサートがあるとのことで、彼にもらった第二ボタンを持って見に行こうと思っています。実はみーちゃんがチケットをとってくれたのです。いつも最低彼氏と言って毛嫌いしているので、これには驚きました。未練タラタラ感ばっちりですが、これを機にもう一度彼と・・・なんてことは微塵も思っていません。
ただ、彼に恋をしたきっかけにもう一度・・・触れてみたいだけなのです。
このときの私は知りませんでした。
彼がこの大学まで足を運んでくれていたことも、そこで彼がみーちゃんと出会い、私が彼の元から去った理由を知ったことも・・・そして、彼が私と再会するためにみーちゃんにこのコンサートのチケットを渡していたことも。
コンサートの日に彼に土下座をされて初めて知ったのです。
彼視点のもの作ろうか今迷い中です。
もし作ったらまた短編で投稿しようと思います。