三
太陽は時に神聖な光をはなつ。
そこはいったい・・・。
雲の間から降り注ぐ日の光。
空気中の水蒸気なを反射しいくつもの光の筋が海に降る。
ときどき雲が動き光の筋が動き傾き。
今まで見たことのないその光景は神聖なものに思えた。
そこで僕は思いついた。
コウの告白が成功したらこの場所でふたりっきりにしてあげよう。
そう思って、僕は三年になることを待ち望んだ。
その後、僕はコウの家に戻りコウの母(姉)に料理を教えてもらったり、宿題をしたりした。
そして冬休みも終わりを迎えた。
あの光景を見て以来、暇があればあの小さな岬に行っている。
そして三学期が始まって数日がたったある日、その人はいた。
いつものように商店街の裏の林をぬけてあの岬にきた。
そこには一人の女の人がいた。
どうやら泣いているようだった。
なぜ泣いているのか気になったがなぜかそっとしておいた方がいいと思いその場をあとにした。
三学期は本当に退屈だった。
冬休みにコウの家に泊りに行ったのでこんどは僕の家に一泊二日泊まることになった。
この二日間はコウとチェスをしていた。コウは強かったが僕も負けていない。
二日で大体三千回やり千五百勝千五百敗。コウは最初にクイーンをつぶす先方だった。そして僕はビショップやポーンなどをキングから遠ざけてとことん追い詰める作戦だった。またそれがうまくいくこともあればいかないこともある。たとえうまくいっても、負けることもあった。
そして互角の勝敗にも飽きた頃、外には雪が降っていた。
今は二月、別に雪が降るのは珍しくはなかった。
翌日月曜日。
僕とコウはまたいつもと変わらない日常を送る。
春休みも終わりとうとう今日から三年生。
そしてコウにとっては重大な日だった。
「おはよ、ユウヤ。」
「ああ、おはよう。今日だろ、告白するの。」
「うん、そうだよ。」
「がんばれよ。」
「うん。」
今日はコウが金沢アキコに告白する日だった。
そして、成功したらあの岬に行くんだ、コウとアキコが二人で。
そして登校ルートの中にある、大きな十字路にきた。その十字路はこの時期には桜吹雪きがとても綺麗だ。
歩行者の信号が青に変わり横断歩道をわたる僕とコウ。
「あ、猫。」
コウが言い猫に近づく。
「おいコウ、先行くぞ。」
その時、僕は横断歩道を渡りおわっていた。
「今行くよ。」
「ああ、でも先に歩いているよ。」
と言い僕は後ろを向く。
バタッ!
後ろから何かが倒れる音がした。
僕は後ろをふりかえると、あたりの桜の花びらが突然赤く染まりあがった。
そこにはコウが横たわっていた。
「おいコウ、どうしたんだ。」
すると偶然にも向こうからアキコが来て。
「どうしたのコウ、ユウヤ。」
「知らん、突然倒れたんだ。」
「とにかく救急車を呼ばないと。」
そして電話してから二十分後、救急車が来てコウが病院に運ばれた。
コウが運ばれた病院はあの商店街よりもっと向こう側にある病院だった。
僕とアキコはコウの運ばれた救急車に乗せてもらい病院に行った。
コウは病院に入院することになった。原因は肺ガンによる発作だ。
医者は思ったよりガンが広がりすぎている。って言っていた。
手術をしても、成功する確立が低く、しかも成功したとしても何らかの障害が出るらしい。
病室は海の見える病室だった。
「いい病室じゃないか、コウ。」
ベッドには一命をとりとげたコウがいる。
「うん、たまに海を見たりすれば退屈じゃないよね。」
「そうだな。」
「一ヵ月。」
「ん?」
「手術をしなかった時の僕の寿命だよ。手術に成功すれば十年以上。失敗すれば・・・。」
「言わなくていい。」
「うん。」
「・・・。」
「・・・。」
沈黙する病室、窓の外を見るコウ、ただ立ちすくむ僕。
「手術、受けようかどうか迷っているんだ。」
「何言ってんだよ。受ければ、」
「恐いんだよ!死ぬのが。」
「・・・。」
思わず黙り込んだ。コウが怒鳴るところを始めてみたから。
「手術に成功する確立は八パーセント。」
「あ、山口先生。」
「友達か?」
「そうですよ。」
「桜井ユウヤです。」
「コウの担当医の山口トシヤだ、よろしく。」
「どうも。」
「コウ、よく考えることだ。これは一種のギャンブルと一緒だ。」
「先生、たとえが悪いですよ。」
「他にどうたとえればいいんだ?」
「宝くじとか。」
「ユウヤ、それもギャンブルだよ。」
「そうだ。しかも宝くじが当たるより成功確立が低い。」
「山口センセー、どこですかー?」
「じゃあ、俺はこれで失礼する。」
そういい、山口先生は病室を出ていった。
八パーセント、二十五人中二人前後の生存。
そんな過酷なとこをさまよっているのか、コウ。
コウの残りの寿命、三週間。
「ねえ、ユウヤ。コウの様子はどうなの?」
そこには金沢アキコがいた。
「今は大丈夫だけど。」
「そうなんだ、よかった。」
「手術をすれば寿命がのびるらしいけど成功する確立がかなり低い。」
「大変なんだね。」
「うん、そうだよ。」
「ごめんね、コウのお見舞いに行かなくて。」
「なぜ?」
「恐いんだよ、コウがいなくなるのが。もう会えなくなるのが。」
そのとき僕は感づいた。
「なら今日行こうよ、お見舞い。」
「だめだ、強制だ。絶対つれていく、コウは淋しいんだよ。窓から見るだけの景色は。」
「わかった。」
「コウ、見舞いにきたぞ。」
「うん、ありがとう。」
「こんにちわ。」
「あっ、アキコさん。」
「ちょっとトイレ行ってくるから二人でなんか話しててよ。」
病室に入ってすぐ退室した僕。とにかく二人きりにしてやりたかった。
病室を出てすぐ一階のロビーに行った。
この病院は四階建てだがなぜか四階は立入禁止になっている。看護士にきいてみると重病患者がカクリされてるらしい。そういえば前にそんな話を読んだことがあったな。確かあれは七階・・・、まあいいや。
それにしても退屈だ。なんもすることがない。
そして十分たち病院内が騒がしくなった。
胸騒ぎがした僕は急いでコウの病室に向かった。
コウの病室の前にはアキコが立っていた。
「どうしたんだよ。」
「コウの発作が突然おきたんだ。」
「突然ね。」
「発作が起きる前にコウに告白されたんだ。」
コウはやっぱりしたんだ。よかった。
「それで返事は?」
「もちろんYESだよ。」
「そっか、それはよかった。」
手術室前。
コウ、おまえ告白したんだってな。それでOK出してくれたんだよ。
だからかならず生きろよ。
コウの手術が始まってから三時間がたった。
でも一行に終わる気配はない。
僕は手術室の前でアキコと一緒に待っていた。
すべてが白黒に見えた。
色とりどりの雑誌も、蛍光灯の光も赤い本棚も、緑のラインも、すべてが白黒だった。
外から光も差し込まない頃、時間というものがわからなかった。
「そろそろ帰らない?」
「そうだな、まだ時間がかかりそうだし。」
外に出るともう日は沈み春の星空が広がっていた。
その中に浮かぶ満月、何かいやなことが起きなければいいけど。
翌日、コウの姿を見たのは病室ではなく、手術室でもなかった。
葬儀室だった。
コウの顔に白い布がかけられていた。
手術中に発作が起こったらしい。
コウの死、それは僕にとってもアキコにとっても大きな出来事だった。
コウの死を知った日の夕方、僕はあの岬で一人たそがれていた。
どうしてあの時、帰ってしまったのか、でも帰らないで待っていても変わらなかったであろう。
どうして、死ななきゃいけなかったのか。
たった十七年しか生きてないんだよ。
まだ、これからの人生だろ。
なんでつれていったんだよ、神様。
そんなに生きちゃいけなかったのかよ。
コウの命を返せよ。
僕はずっと泣いていた。
まだ日の上らない真っ暗な空に向かって、僕はいつまでも泣き続けていた。
完