閑話休題「月光之下」
とある深夜。いつもどおりの戦いをやっとこさ片付けた、そんな帰り道。
俺とあいつは暗闇の中を歩いていた。
ドラクールが前を歩き、俺が背中を追いかける。歩くたびに揺れるドラクールの艶やかな黒髪は、月光の光を淡くはね返して揺れる。夜の戦いの時、毎回俺はこれをぼんやりと見ながら帰るのがお決まりのパターンだった。
「……それにしても」
お互い声もなく静かにいると、不意に冬の冷たい空気にあいつの凛とした声が響いた。
「今日の戦いはギリギリだったな。私の言葉がなかったら今頃私たちの左腕は無かったぞ?」
……何を言うかと思えば今日の戦闘の文句か。
出会った時から変わらないこのやりとり。それはお互いの覚悟を確かめ合ったあの日からも変わっていない。
だが俺とて文句を言われて黙っているほど草食系じゃない。すかさず反撃の言葉を叩き込む。
「何言ってんだ。その前に俺があそこでお前の言葉を無視して飛んどかなきゃ左足飛んでたぞ」
同じ方向の前方を歩いているから顔は見えないが、あいつは十中八九ムスッとした顔をしているだろう。
「前々から思っていたが……お前はもう少し私に感謝するべきだ。戦闘の時に誰がダメージを負担していると思っているんだ?」
案の定、ジャブ代わりにいつもの言葉を言ってきた。
いつもならはいはい、と流しているところだがこの時の俺は少しばかり虫の居所が悪かった。
売り言葉に買い言葉をなんとやら。つい言い返してしまった。
「お前こそ、誰がお前の手足になって命掛けて戦っていると思っているんだ? 感謝して欲しいのはコッチの方だぜ」
俺はこの言葉で第三十五回口喧嘩大会野外の部のゴングを鳴らしたつもりだったが……
「それは…………」
それきりあいつは黙ってしまった。二人の間になんとも言えないぎこちなさが漂いはじめる。
……それにしても俺も大人げないことを言ったものだ。
最初の内こそ強制的であれ、今の俺は間違いなく自分の意志で戦っているというのに。
あの時の言葉を今更なしにするつもりなんかさらさら無い。結果はどうあれ、言ったことに責任は持たねえとな。
……やはり謝るか。
…………ちょっとだけ癪だけど。
そう思って口を開こうとした瞬間。
「私は言葉を飾るのが嫌いだ」
なんの脈絡もなく、唐突にアイツは言い放った。
俺が、は?と思う間もなく言葉を続ける。
「だが、何度も言うのも恥ずかしくてできない」
何が出来ないんだ?簡潔に二十文字程度で述べろ。
「だから一度しか言わん。よく聞け」
だから何を言うんだよ?それを言ってくr
――ありがとう
「……おい、いつまで惚けている。早く家に帰るぞ」
突然の言葉にポカンとしている頭にあいつの声が入ってきた。
「お、おう」
少し歩調が早まったあいつの背中をやや慌てながらも追いかける。
途中、乾いた風に混じって何処かから声が聞こえてくる。
――届いたか?
誰ともなく、その風に乗せるように呟く。
――届いたよ
今宵は十六夜。少し削れたまん丸の月が照らす下。
目の前の揺れる髪が心なしか落ち着き、二人の間が少し狭まった気がした。
久しぶりの投稿です。
今回は筆慣らしということで、以前書いたボツ原稿を加筆して載せてみました
情景描写にこだわってみたつもりですが、やはり難しい……
これからの練習あるのみといったところでしょうか