続、ラグノとエミル
短編 ラグノとエミル の続きです。エミルの恋の話です。前作を読んでいた方が内容がわかるかと思います。
「ぶっちゃけ、メイさんて魔女様のこと好きですよね?」
メイは飲んでいた紅茶がのどでひっかかり、盛大に咳き込んだ。
ラグノが二重人格になってはや6年の月日がたち、ラグノとエミルは16歳になっていた。人格の出る時間帯は、ラグノが朝6時から昼の2時まで、エミルが昼の2時から夜の10時までとなっており、それ以外の時間は、どちらの人格かでているのかは聞かないとわからない。メイはこの6年間、精神的にラグノたちを支えるのに大きな役割をはたしていた。そして生活能力のあまりない魔女さまの生活面(食事や掃除など)もベテラン家政婦のごとく支え続けていた。
「えっと、今はエミルちゃんよね、その、私そんな風にみえる?」
「うん、見える。ラグノもそう見えるって言ってたよ。魔女様が家にいるとメイさんなんか嬉しそうだもん。若干声のトーンも上がる感じしてるし」
「うそお、、、無意識だった、どうしよう」
メイは赤い顔をして冷や汗をかいている。
エミルとラグノはお互いに、自分の人格が表に出ていないときのことは記憶がない。なので交換日記のようなものをつけて、その日にあったことを報告しあっていた。
「あんな性別も年齢も不詳なのに…なんで…名前だって、サーシャって名乗ったりデュラハスって名乗ったり使い分けてて、わが師匠ながら得たいがしれないってゆーか胡散臭いってゆーか」
「そ、そーいうエミルちゃんも好きな人できたでしょ?人形師のアクタルさん!アクタルさんとしゃべってるエミルちゃんはちょっとでっかい猫被ってるよね!ね!?」
「あー、そういえば今日はアクタルさんと打ち合わせがあるんだった、行ってきまーす!」
そういってエミルはあわてて転移用魔法陣を発動させた。
今現在、人格と魂をラグノから分離させる魔法はまだ完成していない。研究の内容もエミルには細かいところまではわからない。だが、完成したらすぐエミルの人格と魂を移せるよう、精巧な魔力を動力とする人形を人形師のアクタルと相談して作っている最中だった。
アクタルは褐色の肌と黒髪の、快活な若者である。もともと人形工房で働いていたのだが今は独立して町で店を構えていた。呪術用の人形作成だとかで、以前から魔女様と交流があったらしい。
「こんにちはー」
アクタルの店の扉を遠慮がちに開けて声をかける。扉についたベルがリーーん、と軽やかになった。店内はまだ灯かりもつけておらず薄暗い。狭い店内にところ狭しと人形が並んでいる。高級そうなビスクドールも何体かある。
「アクタルさん?」
歩を進めると、店の奥から女性のクスクス笑う声と、アクタルさんの低い話し声が聞こえてきた。奥の扉が半開きになり、明かりが漏れている。
ノックしようとドアに手を伸ばした時、扉があいて、アクタルさんと同じ、褐色の肌に黒髪で、胸の大きく開いた服をきた美女がでてきた。その美女はエミルをみると「あら」と言って、足元から顔までをじろじろと眺めた。
「ああ、ええと、ラグノ?悪い、もう時間だったか」美女の後ろから顔を出したアクタルは、いつもはきれいに整えている髪もぼさぼさのまま部屋着で、なんだか起き抜けのような風情である。
(アクタルさんの恋人だ)
そう思った一瞬でエミルは大きな瞳からぼろぼろと大粒の涙をこぼした。
踵を返して店から飛び出し、やみくもに走って町の広場にたどり着くと、木の植わっている目立たない広場の隅でしゃがみこむ。
身体もラグノ(男)だし、人格と魂の存在も不安定。そもそもこんな状態で恋愛なんてできっこないのだ。猫を被ったところで、いくら見た目が中性的だったとしても、はたから見ればラグノがアクタルさんと話しているだけなのだ。人形に人格と魂を無事移せたとしても、それでも体は人形でしかなくて。
「うー」
しくしくないていると、エミルの上に影が差した。追いかけて探しにきてくれたアクタルだった。
「見つけた、エミル。さっきは悪かった。打ち合わせの時間だったのに寝坊した。ほんとすまない。昨日は悪友の結婚式で、ずいぶん飲まされて、二日酔いだったんだ。」
「私を、ラ、ラグノって言った。」
「そうだよな、でも知らない人の前でエミルって言ったら変に思われると思って」
「おんなのひとと一緒だった…」
「あれは姉貴だ。昨日さんざん新郎に飲まされたのを知ってたから様子を見に来たんだ」
涙が一瞬で止まった。
「ほんと?お姉さん、なの?」
「本当」
「え、えへ、よかったぁ」
エミルはアクタルにぎゅううとしがみつく。エミルがアクタルをどう思っているかなんてアクタルにもバレバレである。
「まいったな…」
心は女の子の男に抱き疲れて複雑な心境になりながら、周囲の目を気にして、アクタルはきょろきょろとあたりを見まわした。幸いじぶんたちに注目している人はいない。
(ラグノ、許せ)と思いながらぎゅう、と一度しがみつくエミルを抱きしめたあと、頭をぽんぽんとたたいてエミルを落ち着かせ、二人でアクタルの店へ戻ったのだった。
そして、次の日の朝、エミルからの報告書(交換日記)に、
[早く魔法を完成させてくれないと、今のままで私はアクタルさんのお嫁さんになるからね!]
と書かれているのを見て、ラグノは1人震撼したのだった。




