君のその笑顔が私の幸せだった
私の名前はハナ。4人家族の中でいちばんのおちびさん。家族全員私よりも背が高くて、立っていると顔がすごく遠くに見えて寂しいことだってある。でも大丈夫。家族のみんなは、私に話しかけるときはいつも私の顔を覗き込むようにしゃがんで頭をくしゃくしゃとなでてくれる。頭に置かれた手から、「大好きだよ」の気持ちが伝わってくる。私はスフごく幸せ者だ。
「おはよう、ハナ」
いつも朝一番に私に声をかけるのは、お母さんだ。お父さんやお姉ちゃんよりも早く起きて身支度を済ませ、みんなのために朝ごはんやお弁当を作ってくれる。
いつも家族に愛情を注ぎ続けてくれるお母さんのことを、私は尊敬している。
―ピピピピ
遠くで目覚ましが鳴っている。お父さんの目覚ましの音だ。お父さんはいつも、6時半に起きて7時に仕事に出かける。
「ハナ、行ってきます」
今日も予定通り。家族のために毎日働くお父さんは、すごくかっこいい。
―ドンドンドン
お父さんが家を出たすぐ後に会談をあわただしく降りてきたのは高校生のお姉ちゃんのみーちゃん。
「もう、なんで起こしてくれないの?」
今日も起きるのが少し遅くなってしまったみたいで、少しご機嫌斜めみたい。
朝ごはんをかきこみ、カバンをつかんで玄関を飛び出していくお姉ちゃんだけれど、家に帰ってきたら真っ先に私に「ただいま」を言ってくれる。そんなお姉ちゃんのことが、私は大好きだ。
お姉ちゃんと初めて出会ったのは、私は私みたいな小さい子どもがたくさん集まった場所だった。お姉ちゃんはまだ小学1年生くらいだったと思う。あの頃、私は毎日狭い部屋で同じ景色を壁の内側から見つめる生活を送っていた。面白いことなんてなくて、退屈だった。
お姉ちゃんが私を見たとき、私はびっくりした。こんなに楽しそうな顔をする子がいるんだな、ああ、私もこんな顔をして笑いたいな、と。そして、今その夢がかなっている。私はとっても幸せ者だ。
うとうとしていたら、あの日のことを思い出していた。私の生活は、あの日から大きく変わった。ああ、こんな生活が永遠に続きますように。
お姉ちゃんは高校を卒業し、都会で一人暮らしをするようになった。会える回数が少なくなったのは悲しいけれど、それでも帰ってきたときには真っ先に私のところに来てくれる。お姉ちゃんの顔が見られるだけで、私は十分幸せだった。
明日でお姉ちゃんは二十歳になるらしい。二十歳になったらお酒を飲むことができるようになるんだって。お父さんとお母さんは何年も前からその日を心待ちにしていて、1か月も前から誕生日に飲むお酒を買いに行っていた。2人の笑う顔は昔よりもしわくちゃだったけど、昔と同じくらい楽しそうだった。
ついにお姉ちゃんが返ってきた。いつものように真っ先に私に「ただいま」を言ってくれる。その顔を見た瞬間、その声を聴いた瞬間、私はすごく満ち足りた気持ちになる。私はこの瞬間が、世界で一番大好きだ。
夜になると、机には豪華な食事が並び、お母さんとお父さんはお姉ちゃんのコップに透明なお酒をとくとくと注いだ。3人で乾杯をして、楽しそうにおしゃべりしている。私はそれを見て笑いながら、幸せな気持ちであふれていた。ああ、私はずっと、この瞬間を心待ちにしていたんだな。そうしみじみと思いながら、私は目を閉じた。
目が覚めると、朝になっていた。いつもよりも遅い時間なのか、窓からは朝日が差し込んでいる。キッチンからは、お母さんが朝ごはんを作るにおいが漂ってくる。
ゆっくりと体を起こそうとしても、うまく体が動かない。まるで体が鉛になってしまったように、まったく持ち上がらない。
「ハナ?」
キッチンの反対側から、お姉ちゃんの声がした。
「お母さん、ハナが目を覚ましたよ」
高校生のころよりも早起きになったお姉ちゃんは、もうすでに服も着替えている。
お姉ちゃんがお母さんを呼んだ。その声を聴いたお父さんもやってくる。みんなに起こしてもらわなくても、私は自分で起きられるはずなのに。今日は何かがおかしい。
「ハナ、無理しなくてもいいんだよ。」
体を起こそうとする私に、お母さんが心配そうに声をかける。心なしか、目が少しうるんでいる。
「ハナ、ハナ」
お姉ちゃんが優しく頭をなでてくれる。気持ちがよくて、目がとろんと閉じてゆく。
「ハナ、大好きだよ。いつまでも大好きだからね」
お姉ちゃんの声が涙声だった。どうしてそんな悲しい顔をするのかわからなくて、お姉ちゃんを見つめ返した。
「ハナ、今までありがとう。いつでも帰っておいで」
「みんなでハナを待っているからね。大好きだよ」
お父さんとお母さんも言う。あれ、なんでみんなそんなことを言うのかな。そうか、もう、お別れなんだ。
私は精一杯、みんなに言った。
『ワン』




