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飲めるあたたかさになるまで ――あなたの隣を歩きたい――  作者: 蒼宙 つむぎ


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2.My first café au lait(8)

瑞葵sideになります。

前後編です。

8.久しぶりに飲むcafé au lait(1)


 今日から社長直属のチームで仕事が始まる。私は段ボールに入れた私物を抱えデスクを移動する。

「えっと……私のデスクって、どこだろう……」

 空いている席は三つ。私は無意識に端を探していた。

「一番端っこ……でいいのかな?」

 一人ごちていると後ろから話しかけられた。

「瑞葵ちゃんは真ん中。こっちだよ」

(真ん中……かあ……)

「教えてくれてありがとうございます、えっと……」

「私は笹川、笹川カレン。こんな言葉使いだが一応女だ。よろしくな」

 後ろを振り向くと、スレンダーでウルフヘアーのかっこいい女性だった。

「よ、よろしくお願いします!」

「うん。やっぱりかわいいね、君は。さすが樹殿の大切な妹君だな」

 そういって瑞葵の顎をクイッと指で持ち上げた。

(うう~!かっこよすぎて困ります!女性だけど、女性っぽくなくて!)

 顔を真っ赤にし、あたふたしていると横からも声がかかる。

「カレン、それくらいにしておけ、樹さんに怒られるぞ」

 石川聡一さん、社長秘書とSEを兼任している“仕事の鬼”と呼ばれている人。いつも無表情であり得ない早さで仕事をこなしてらっしゃる。尊敬する先輩の一人です。

「山本さん、席は真ん中、それは本当。俺の席の隣だ。よろしく」

 手を出して握手を求めてきた石川さんの口の端が一瞬少しだけ上がった……ような気がした。

「よ、よろしくお願いいたします」


 挨拶後、案内されたデスクに荷物を置き、使いやすいようにPCの配置を変えたりしていると哲平社長が石川さんを訪ねてきた。

「石川、あとで進捗の報告を。あと、瑞葵を少し借りる。瑞葵、社長室に来い」

「は、はい!」

 慌てて席を立ち、後を追う。

「失礼します」

 戸を閉め、哲平に向き合うと昔からよく知っている“哲平お兄ちゃん”の無邪気な顔を向けられたが、すぐに真剣な面持ちに変わる。

「瑞葵、元気そうでよかった!心配したんだぞ!あと、残業時間、多すぎだ」

「すみません!」

 慌てて頭を下げる。新入社員は基本残業してはいけないのだ。勿論、残業するつもりはなかったが……。

「瑞葵だけの仕事なら問題なかったと知ってる。人の仕事を押し付けられたのもな。だが、断るのも大事だ。ちゃんと次からは気を付けること。あと、相談すること。一人で抱えるなよ」

「は、はい。すみません」

「ん。俺も経営者だから、言いたくないことも言わないといけない。みんなを守るためだ。悪いな」

「いいえ、当たり前です」

 そう、彼は経営者だ。大人数の社員を抱えているわけではないがそれでも社員とその家族を守る義務がある。だから、労務局から苦言を言われたり目を付けられるわけにはいかない。自分が良かれと思っていたとしても、してはいけないこともあるから相談するべきだった。本当に申し訳ないことをしてしまった。

「本当に、すみませんでした」

 もう一度、深く頭を下げた。下げたところで何もなかったことにはならないが。

「これから気を付けてくれたらいい。樹も心配していたぞ。最近遊んでくれない~って」

 そういって“哲平お兄ちゃん”は爽やかな笑顔を向けてくれた。


 柳哲平、“アースプロジェクト”の経営者。彼との最初の出会いは私がまだ11歳のころだ。7歳年上の兄、樹がよく友人を家に連れてきていた。その中の一人が哲平だった。哲平はアメフトでセーフティとして活躍していたが、スポーツ推薦で大学進学するのをやめ、ほぼ毎日わが家へやってきた。そしていつも妹のようにかわいがってくれた。その後、いろいろな経緯の末、哲平は“アースプロジェクト”を設立し、日本以外からも注目される人となった。


 ふと、昔のことを思い出していたが哲平の声に意識が現実に戻る。

「瑞葵、お前が立てた企画、これからこの会社で作るゲームの基本設定に組み込む予定だ。石川にチェックしてもらって第一段階の完成に仕上げてくれ。改良は都度していこう」

「はい。わかりました。ですが、私の考えたものが……どうして?」

「今、求められている“クラフト”系を補填することができるんだ。いい案だから自信持て」

 課題として作った企画は、自身がしたかったことを簡易にしたものだ。“クラフト”系といえばサンドボックス型を思いつくが“サバイバル”系の中での“クラフト”を、もっと楽しくしたかった。

 それを、少し形にしてみようと思っただけだった。


「わかりました」

 そう答えながら、胸の奥がほんの少しだけ動く。

 理解はできる。

 けれど、どこか置いていかれたような気もする。

 それが期待なのか、不安なのか。

 まだ、自分でもうまく掴めなかった。


 自席に戻ろうとすると、カレンさんに手を引かれどこかへ向かう。

「瑞葵ちゃん、カフェオレ好きでしょ?私、休憩したいから付き合って」

(このちょっと強引な誘い方、かっこよすぎる!)

 ドキドキしながらお茶に誘われ、カウンターで飲みたいものを自分で入れる。

 全て会社の福利厚生で、本当にありがたい。

「瑞葵ちゃん、あっちで飲もう」

 今度は優しく手を出してエスコートしてくれる。

(これは……王子様だわ!)

 ドキドキしながらバルコニーに出る。ここは始めてくる。

「この時間は人がいないから落ち着くだろ」

「はい。いつもお昼は人が多くて来れなくて……」

「そうだね。今の時間は独占できるから、また来よう」

「はい」


 あの時からカフェテリアに来るのを避けていた。

 健太郎が坂口裕子と会っているかもしれないと思って……。

(でも、ここなら来てもいいよね)


 バルコニーの椅子に座り、リッドを上げて恐る恐る口を付ける。

 秋めいてきたこの時期、冷めるのも早くなってきたのだろう。

 少し熱いが飲めなくない。

「おいしい……」

 久しぶりに飲むこの味に、ほっとした。


「君はよく頑張ってるよ。少し力を抜いて、私たちを頼ってくれ」


 そう言って頭をなでるカレンの顔は、少し微笑んでいるように見えた。


 ふっと、肩の力が抜ける。

 それと同時に、目頭が熱くなり、鼻の奥がツンとした。


瑞葵の決意、後編を読んでください。

22:00予定です。

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