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飲めるあたたかさになるまで ――あなたの隣を歩きたい――  作者: 蒼宙 つむぎ


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2.My first café au lait(7)

本日2話目。

健太郎sideです。

7.飲むのには少し熱いコーヒー ~健太郎side~


「何かしら、久遠君」

 相手は同期の坂口裕子。

 坂口とは、大学が同じだった。

 ゼミも違えば、特別仲が良かったわけでもない。

 ただ、名前と顔を知っている程度の関係だ。

 それでも、会社に入って再会したとき、

 少しだけ懐かしさを覚えたのは確かだった。


「いや、ちょっと気になって。話、できたらいいなと思ったんだ」

 最近の彼女の行動や言動が気になっていた。

「わからなくて結構よ。もう仕事に戻るので、どいてくれるかしら」

 だが呆気なく玉砕した。なかなかうまくいかない。

 ため息をつき、近くの椅子に腰かけ、ふとカフェテリアの隅の方に目をやる。

 最近、彼女があそこで飲んでいる姿を見かけない。疲れた時、彼女が静かにコーヒーを飲んでいる姿を見るのが、密かな癒しだった。


 自席に戻ると先輩たちから声をかけられた。

「健太郎、おめでとう。3位だってな」

 プログラミングを主に行っている先輩たちは、自分のペースで仕事をしているので他人に深く干渉してこない。だから話しかけてきたのも驚きだし、褒めてもらえたことにもびっくりした。

「あ、りがとうございます」

「お前らの企画、なかなか面白かったぞ。まあ、山本瑞葵ちゃんのが一番興味深かったけどな」

「先輩方は、その、俺たちの企画を……」

「ああ、みんな知ってる。入社半年の評価は社員全員でするんだ」

「全員で……」

「哲平社長の方針。面白いものをきちんとみんなで評価するんだ」

 初めて知った。全員の意見をしっかりと汲み上げてくれている。社長はやっぱりすごい人だった。

「健太郎は大きすぎて趣旨から少し外れてたからな。もっと、クライアントの意見を汲み取れよ」

「はい!」

「企画のここなんだけどさ……」

 そこからは感想や意見をもらって、考えが付かなかったことをアドバイス受けた最高に楽しい時間だった。


 翌日、部署内のデスク移動をしている際、彼女の姿を見つけた。段ボールを抱えて社長室隣のブースへ向かっていた。そうだ、彼女は社長のチームに入るんだった。

「健太郎、瑞葵ちゃんのこと見すぎ」

 小山がからかい交じりで話しかけてきた。

「いや……。そんなことは……」

「あるから。みんな、お前が瑞葵ちゃんのことを目で追ってるの知ってる」

 ――ああ。ばれてたのか……。

 穴があったら入りたいという言葉の意味をしっかりと理解した。


「でも、瑞葵ちゃん、すごいよな。見た?今日、社内報で企画の開示と総評があがってるぞ」

 もう社内報で開示されているのだと知ったので、さっそく開いて内容を見た。

 言葉が出なかった。圧倒的なセンス、細やかな配慮。そしてデータ量の軽さ。すべてが桁違いだ。追いつけない、と感じたのに、不思議と悔しさよりも納得が先に来る。

「……」

 いつも控えめで、誰かの後ろに隠れている印象があったから、ここまでのセンスがあると思わなかった。失礼なことを思ったと反省した。

「瑞葵ちゃんのやつ、いろんなところで使えるんだ。だから、これからのこの会社で使うベースの一つになると思う。お前らもがんばれよ」

 先輩から発破をかけられ、落ち込みすぎていたのに気が付く。これから、もっと視野を広げて、もっと吸収しなくちゃいけない。


 そうしないと、彼女のそばに寄る資格もない――。


 顔を上げるとデスクの上にコーヒーが置かれていた。

 自分で買った覚えがない。きょろきょろと見回していると、先ほどの先輩が少年みたいな無邪気な顔で口を動かしている。


『餞別だ』


 ここの先輩たちには参った。

 本当に優しい。


 カップを持ち上げ、リッドを押し開ける。

 香しいコーヒーの香りが小さな穴から漏れてくるので軽く吸い込む。

 いい匂いだ。


 飲もうと口に近づけたところで一瞬躊躇した。

 思ったより熱そうだ。

 飲めるようになるのに、少し時間が必要みたいだ。


完全実力主義の会社だけど、温かい。

うらやましい限りです。


明日も2話更新予定です。

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