4.Cafe Latte(10)
21:00投稿予定でしたが、所要が出来たので18:00投稿します。
10.空回り
「はあ……」
最近、ため息をつくことが多くなった。――しかも特大の物を。
理由は、わかっている。
(自分が弱いから)
PCの画面を見ながら、もう一度大きく息を吐いた。
「はあ……」
PCの右端の時間が、もうすぐランチタイムに届きそうだとアラートが連絡してくれる。
私はミニバックとスマホを手に取り、こっそりと席を離れる。
(大丈夫。誰にも見つかっていない)
急ぎテラスへ向かい、いつもの安息地へと身を沈める。
(ここは私にとってのオアシスね)
やっと息ができたような気がして、柔らかい息を吐いた。
あのランチタイムから数日、ランチタイムにフライングで席を離れて、この場所に来てお昼を取るようになった。
たまに自分に視線を送ってくる人がいる気がしたし、食欲がないので誰かと一緒にご飯を食べるのが辛かったのだ。
ミニバックには、おにぎりが一つと水筒のお茶、小ぶりのヨーグルトが入っている。
「……」
おにぎりとにらめっこをする。
(好きな“もち麦シラス高菜”なのに、食べれそうにないな)
そう思い、お茶を一口飲む。最近は、Café Latteも受け付けていない。
ふうっと小さく長い嘆息をする。
食べないと体がもたないと頭ではわかっているが、胃が受け付けない。
食べないから元気が出ない。
悪循環だとわかっているのに、体が悲鳴を上げる。
「だめだな……。頑張るって決めたのに」
小さな声でつぶやく。
――勿論誰の耳にも聞こえていないが。
「ただいま~」
「あ、お帰り!」
樹が元気に返事をしてくれる。
2日前に退院し、自宅療養中の樹はいつも笑顔で迎えてくれる。
「瑞葵ちゃん、お帰りなさい」
「雪ちゃん!今日も来てくれてありがとう!」
樹が退院してから毎日のように遊びに来てくれている。
話し相手がいるとやはり楽しいのだろう。
二人の笑顔は、瑞葵の心をさらに落ち込ませたが、そんなことを気取らせないためにも努めて明るく振る舞っている。
「瑞葵ちゃん、今日も一緒にご飯食べよう!もう用意はできているから。手洗いうがいしてきて」
そう言って、キッチンに向かう雪。
杖をついてゆっくりと歩みを進めている。
「あ、う、うん」
雪ちゃんが作ってくれたんだから、頑張って食べないと。
洗面所の鏡に映る顔色の悪い自分の顔を見て叱責する。
(なんて顔!こんなのを二人に見せちゃダメ!)
両手で“パンッ”っと小さく気合を入れて笑顔を作った。
「わあ!美味しそう!雪ちゃんありがとう!」
雪の作るご飯は体に優しそうなものばかりだった。
「お味噌汁のいい匂い……」
「お豆腐とキノコたっぷりだよ。瑞葵ちゃん好きでしょ」
「うん。……ありがとう」
(お味噌汁なら、きっと大丈夫)
席について、椀とお箸を手に取る。
一口すすり、飲み込む。
(優しい味。ほっとする)
食卓には揚げ物など、消化しにくいものは無く、煮物や和え物が並んでいた。
(雪ちゃん……。きっと私が食欲ないこと、気が付いている、かな)
今の自分には、この気遣いが、少し重く感じる。
(ありがたいけど、うれしいけど、泣きそうになって辛いな……)
下唇をキュッと噛んでほんの少しうつむいた。
(大丈夫)
自分に言い聞かせ、肉じゃがに手を伸ばす。
そしてジャガイモを口にして咀嚼する。
「っ!!!」
急に吐き気がこみ上げ、トイレへ駆け込む。
(気持ち悪い。ちょっと食べただけなのに)
こみ上げる吐き気が苦しくて、涙がこぼれる
「瑞葵!」
兄が遠くから自分を呼ぶ声がする。
「瑞葵ちゃん!」
雪も、杖を突いてこちらに向かってこようとする。
でも、今は来ないで欲しい。
吐きながら、
泣きながら、
それだけを願った。
「瑞葵様、御前失礼いたします。雪様の付きの者です。私が介助いたしますね」
そう言って黒服の女性が背中をさすってくれる。
私はただ苦しくて返事もできないが、そもそも彼女は私の返事を聞くつもりはないのだろう。
「雪様、瑞葵様のお世話は私がいたします。そちらでお待ちください」
振り返り少し大きめの声で歩みを止めさせる。
その後、耳元で優しく語りかけてきた。
「瑞葵様、少し、無理をなさっているように見受けます。胃が荒れている兆候もありますので……。寝室で休みましょう」
「はい。……ごめんなさい」
「私には謝罪はいりませんよ。雪様と樹様には、お話をしてくださいね」
そう言って吐き気が落ち着いた私を、寝室に支え連れて行ってくれた。
「重湯と経口飲料水をお持ちしますね」
「あの、できたら、二人をよんでくれます、か?」
「……かしこまりました」
黒服さんは礼を取り、退室していった。
コンコン
寝室のドアをノックする音が聞こえた。
樹と雪だろう。
「はい」
かすれた声で返事をする。
入ってくる二人の顔は、心配して泣きそうになっている。
「瑞葵、無理しなくていいんだ。社会復帰は今でなくてもいいんだ」
「お兄ちゃん。心配かけてごめんね。久しぶりの仕事で疲れただけなんだ」
そう言って苦笑いをする。
「でも――」
「本当に、大丈夫。すぐになれるから。心配してくれて、ありがとう」
精一杯の笑顔を、二人に向けた。
大丈夫、大丈夫。
これまでと変わりない仕事だから
きっとすぐ慣れる。
私は仕事に生きるって、
1人でも生きていけるようになるって、
決めたの。
だから、お願い。
私をそんな目で、見ないで――。
明日は21:00の予定です。




