4.Cafe Latte(8)
いつも、読んでいただきありがとうございます。
8.苦い再会
翌日、石川さんから仕事の指示をいただいた。
「山本さん、昨日話した仕事の中の一つ、今日WEB会議をします。一緒に参加してください」
「はい。わかりました」
社内メールを見ると“会議に招待”の表示がある。
スクロールし、“参加者”欄に“久遠健太郎”の文字を見つけ、指が止まった。
(健太郎君も参加なのね)
ほっこりした気分が次の石川さんからの言葉に緊張に変わる。
「WEB会議はカンファレンスルームの画面を使って行います。あと10分後ですね。移動しましょう」
「は、はい!」
10分後からということに、心の準備が整っていなくて焦る。
「飲み物、持っていきましょう。ちょっと長くなる可能性があります」
「はい」と言ってノートPC片手にカフェテラスへと向かった。
カウンターには新しいマシンが入っている。
(私が買ってもらったマシンと一緒だ)
「それ、哲平が昨日持ってきましたよ。ミルクは冷蔵庫にあります」
そう言って石川さんはミネラルウォーターを持って去っていく。
WEB会議まで時間がないので、自分も同じものを持って後に続いた。
カンファレンスルームに着くと、思ったより席数が多かったので、びっくりする。
先ほどの社内メールを確認すると、意外な人の名前もあった。
(社長とカレンさん、そして……姫川ゆい、さん、も参加するのね)
マウスを持つ手に、少し力が入った。
(気にしない。仕事、だもん)
なぜだか心がそわそわし、呼吸が浅くなった。
(緊張、しすぎているわ。落ち着かなくちゃ)
そう思えば思うほど、息をするのが難しく感じた。
「山本さん、緊張していますね。ゆっくりでいいので、深呼吸しましょう」
石川さんに背中をさすられ、ゆっくりと深呼吸する。
段々と落ち着いていき、途端に恥ずかしくなった。
「ありがとうございます」
感謝の言葉を告げると石川さんは優しく微笑んでくれた。
「俺にも頼ってください」
こんなに優しく笑える人なんだ。などと失礼なことを一瞬思ってしまった。
口を開くと余計なことを言ってしまいそうなので、微笑み返した。
「石川~。瑞葵とイチャイチャし過ぎ。樹にチクるぞ」
哲平さんがニヤニヤと笑いながら何やらおかしなことを口にしている。
(イチャイチャ?とは?)
よくわからず、首を左に少し傾げる。変に何も言わない方が、いいような気がして何も言わない。
「社長、それ以上は何も言わないでください。いろいろと、かなり、面倒なことになるので」
カレンさんが圧強めの言葉を哲平さんにかけた。
(いろいろ……?)
更に私の首は左に傾く。
「まあ、面白いからいいだろ」
そう言って哲平さんが真ん中の席に座る。
カレンさんが隣に座ろうとすると、ゆいさんが割り込んできた。
「ゆい、哲平君の隣がいいです」
そう言って、有無を言わせず座ってしまう。
(わあ……。それは……)
何とも言えず、ほかの人を見る。が、みんなため息をついて何もなかったかのように振る舞う。
(みんなさん、流石だわ。大人な対応が完璧だわ)
瑞葵だけが、落ち着かない気持ちを抱えていた。
『あの、そろそろ始めていただいて、いいでしょうか』
スピーカーから、聞きなれたけど、懐かしい声が聞こえてきた。
ドキ ドキ
大画面に視線を向ける。健太郎君が、そこにいた。
久しぶりに見る健太郎君は、以前より大人っぽくなっていた。
頬が熱くなっているのが、自分でもわかる。
恥ずかしくなり思わず、うつむいてしまった。
「悪いな、健太郎。ほかの人たちも、申し訳ない」
『いえいえ。哲平社長にはお世話になりっぱなしなので、お気になさらず』
(健太郎君の同僚の人かな?外見は外国人だけど、日本語が流暢だわ)
ぼーっとそんなことを思っていると、健太郎君の後ろの方が何かざわついているように見えた。
『aqua……?No way?』
(ん?水がどうかしたのかな?)
英語が堪能ではない瑞葵は何が起きているか、わからなかった。
「あ~。今日からこのチームに参加する、山本瑞葵だ。瑞葵、日本語でいいから挨拶を」
「あ、はい。山本瑞葵です。本日よりよろしくお願いいたします」
日本語で挨拶をした。
丁寧に。
ちゃんと頭も下げた。
なのに、画面の向こう側では泣いている人や倒れた人がいるようだった。
「えっと……」
(私の存在が、受け入れられない……のかな)
そう思うと、胃が痛くなった。そして、うつむいてしまった。
「瑞葵。気にしなくていい。堂々としていたらいい」
哲平さんが声をかけてくれる。
「はい」
小さく返事をする。
ゆっくりと顔を上げて画面を見ると、
――健太郎君と目が合った、気がした。
まっすぐな視線を、向けてもらった、気がした。
『瑞葵ちゃん、お久しぶり。それから、お帰り』
柔らかい、笑顔だった。
入社式の時と同じ笑顔が、そこにあった。
「お久しぶり、です」
震える声だった。小さかった。聞こえていないかもしれないと思ったが、彼が頷いてくれた。
それだけで、胸がいっぱいになった。
でも、次の瞬間、
心が壊れそうな言葉を耳にする。
「健太郎君は優しいのね。でも、いつもみたいに私にだけ笑顔を向けてくれたらいいのよ。勘違いする人もいるみたいだから、間違わないで」
ゆいさんは、横目で私を見ながら健太郎君に話しかける。
ああ、そうなんだ。
健太郎君は、彼女と恋仲なのだろう。
1人で浮かれていた。
優しく微笑んでくれたから、勘違いしてしまった。
私はその後、みんなが何を話していたのか、全く聞こえなくなり、
ただ、自分の手を、自分の指をうつむいて触るしかなかった。
今日はもう、何も口にしたくない、な――
明日も21:00の投稿予定です。




