4.Cafe Latte(6)
本日1話目です。
6.私は完璧なの
「はあ……」
私は自席に座り、ため息をついた。
そもそも、なんで私がこんな気分にならないといけないのだろう。
(納得いかないわ)
事の起こりはパパからの一言からだった――。
「ゆい。哲平君と婚約したいと思わないかい?」
チータイム中に、満面の笑みでパパが問いかける。
今日はお気に入りのセイロンティの特級茶葉を用意したのに、カップに口をつける直前だった私は動きが止まる。
「急に、どうしたの」
目線だけを父親に向け、ぼそりと尋ね、一口含む。
「ゆいは哲平君と親密な関係を望んでいただろう?」
「ええ。哲平君なら私は結婚してもいいです」
(哲平君は世界各国から縁談の申し込みがあると聞いている。だけど、婚約者はまだいないって言っていた。そして、哲平君のお父様の会社が注目を浴びていると耳にしている)
「……なるほど。そう言うことね。わかったわ」
ソーサーにカップを乗せ、テーブルに置き、満面の笑みを父に返した。
3日後、日本に到着したが、空港に迎えに来る者はいなかった。それどころか、会うことすらできなかった。
「なんで会えないのよ!」
パパの秘書の一人に怒鳴りつけた。
「申し訳ございません。現在、仕事で手が離せないとか……」
「はあ?!私がわざわざ会いに来たのに?仕事で手が離せないから会えないって?あり得ない!」
(世界資産家ランキングで50位以内のパパの娘よ!私のために時間が取れないだなんて!ばかにされたものね!)
ムカつきを抑えられず、スマホで父に電話をかける。
ワンコールで出たのは父ではなかった。
『ゆい様。御父上はただいま商談中です。ご用件をお伺いいたします』
(チッ。第一秘書か。面倒な奴)
苦手なクソ真面目な秘書が出て心の中で悪態をつく。
「パパに、哲平君に会えないからどうにかするように言って」
『……ご自身で、ご対応を』
小声で否の返事をした後、小さく舌打ちもされたような気がする。
「お前!今舌打ちしたな!ただの秘書ごときが!」
『ゆい様。気のせいでは』
「嘘おっしゃい!聞こえたわよ!お前なんかクビよ!」
『……私の主人は御父上です。あなた様ではありません。ご用件がそれだけなら切ります。では』
そう言って、ブチっと切られる。
「Fucking hell! (クソッ!/ふざけんな!)」
ホテルのスイートルーム、持っていたスマホを壁に投げつける。
秘書は涼しい顔で大破したスマホを即座に拾い上げ、予備のスマホにSIMを入れ替えてテーブルに戻した。
(どいつもこいつも!すべてがムカつくのよ!)
ゆいは憤慨したが、物に当たるのをやめてソファに腰かける。
物を投げつけて壊したとしても、皆無視をして片付けるだけ。誰も自分の相手をしてくれない。さらに空しくなるだけだった。
(哲平君が仕事で会えないというなら、私が哲平君の会社で働けば会える、よね)
姫川ゆいという人間は、強かった。諦めという言葉が頭にないのかもしれないが。
テーブルに戻されたスマホを手に取り、メッセージアプリを開く。
“パパへ
哲平君の会社で働きます。手筈を整えて。
ゆい“
手短に自分の要望を送信し、立ち上がる。
「買い物に行くわ。車を出して」
「わかりました。どちらまで?」
「日本で言うところの、百貨店?かしら。私、働くからそれっぽい服が必要なの」
「……かしこまりました」
いつも無表情な秘書の顔が一瞬引きつる。
(使えない秘書ね)
ゆいは侮蔑の表情を浮かべ、バックを手に部屋を出た。
私はなんでもできる。
なんでも手に入れてきた。
だから、哲平君は私を選ぶに違いない。
——だって私は、完璧なのだから。
でも、私がほかの人を好きになるなんて、
その時は思っていなかった。
2話目は22:00を予定してます。




