4.Cafe Latte(5)
本日2話目です。
5.フルーツタルト
「瑞葵、改めて、お帰り。そして、巻き込んで済まなかった」
社長室に入るなり、哲平さんから謝罪される。
「哲平さん。それは何度も聞きましたし、もう終わったことです。それより、これからの話をしましょう。ね、石川さん」
「山本さんはできた人ですね。社長、始めましょう」
石川さんも流石です。仕事の鬼です。
「ああ。瑞葵、樹が退院するだろ。週に2日はリモートにする。その時に、雪のリハビリにも付き合ってくれないか。父からもお願いされているから、頼む」
「私はいいのですが、それでお給料をいただくのは……」
「父からの依頼だ。父にも請求している」
「そうなんですね。では、お言葉に甘えます」
巌さんは雪ちゃんとは会っていないが、すごく心配をしているのはよくわかる。二人には二人の事情があるのだろう。
「業務は石川から指示を貰ってくれ。瑞葵の仕事ぶりは評価が高い。期待している」
「ハードル上げないでください。普通のことしかしていないので」
「山本さんは自己評価が低すぎます。自分のこと、ちゃんと認めなさい」
眉間に皺を寄せて言われる。
「あ、えっと。……はい」
否定をするともっと威圧感たっぷりにいろいろ言われそうなので、あいまいに答える。
(どうしたら自身が持てるのか、誰か教えて欲しいわ)
心の中で大きくため息をつく。
「それから、樹に諸外国からいくつか依頼が来ている。環境設定は父と樹が話すようだ。部屋に人が出入りする。騒がしくする。悪い」
「わかりました……」
静かな生活は、もうできないのか……と遠い目をしてしまったのは、許してほしい。
哲平さんのお父様はきちんと契約書を作成していたようで、そこそこの分厚さの書類を手渡された。パラパラと軽く確認をする。書類の中には英語のものもあり、これからの仕事が以前のものとかかわりがあるのがうかがえる。
「……」
書類の重さより――
書類の重要さが、重い。
カリ カリ
ペンの滑りが悪く感じてしまう。
カリ……カリ…… 。
英文の書類に思わずサインする手が止まってしまった。
「瑞葵、気が進まないなら無理はしなくていい」
哲平さんが心配して優しく声をかけてくれる。
「いいえ。この書類の内容は、私達兄妹を守るためですよね」
「――そうだな」
力ない言葉が全てを語っていた。
カリカリカリッ
迷いなく、しっかりとした筆跡でサインをした。
“護衛承諾書”
息が詰まってしまうかもしれない。
それでも今は、兄の安全を優先したい。
全ての書類にサインをし終わった後、ペンを置いて息を吐いた。
まだ出社してそんなに時間が経っていない。
なのに、数時間仕事をしたかのような疲れが体にのしかかる。
(今日はお兄ちゃんとケーキが食べたいな)
フルーツいっぱいのタルト
思い出の味
一緒にコーヒーも買って帰ろう。
今日も読んでくださりありがとうございます。
明日も2話投稿予定です。




