4.Cafe Latte(4)
本日1話目です。
4.安全圏
不穏な空気を誰も変えられずにいた時、一刀両断してくれた勇者が現れた。
「皆さん、いい加減自席に戻りなさい。始業時間になります。サボりだとみなして、給料から引きましょうか?」
淡々と話しながら眼鏡を中指で上げている石川さん。本当に神です。
「お、石川、いい所に来た。瑞葵と一緒に部屋に来てくれ」
哲平さんはすぐに仕事モードに切り替えている。
(このオン・オフの速さが哲平さんらしいのよね)
雪ちゃんへの甘々モードからは切り替えが遅いが、仕事モードは鬼レベルなので、流石としか言いようがない。
「山本さん、お帰りなさい。もう体は大丈夫ですか?無理はせず」
「石川さん。ありがとうございます。もう大丈夫です。体力が落ちちゃったので疲れやすいですけど」
そう言うと、石川さんがふんわりと微笑んでくれた。
「ちゃんと頼ってください」
((うわあ!ギャップがすごい!いつも無表情な人の笑顔って!))
そう思っているであろう女性陣。目がハートになっているようにしか見えない瑞葵は、思わずクスっと笑ってしまった。
「山本さん?何かありましたか?」
「何もないです。変わらないなって、安心したんです」
「変わりませんよ。これからもね。さて、行きましょう。哲平の顔が“早く来い”って煩いです」
「はい。行きましょう。そういえば、新しいゲームが――」
私たちは話しながら哲平さんの元へと向かった。
「本当に……。なんなのよ」
(ムカつく!これまでは、みんなが私を丁寧に扱ってくれたのに。なんでパパはここで働けというのよ!)
私は納得していなかった。勿論、哲平君と一緒にいられるのはうれしい。だから仕方なくここに来た。でも、私は働かなくてもいい存在なはずなのに、働けという。
「God… this is so fucking annoying.(あーもう、これマジでイライラする)」
誰にも聞き取れない英語で、ゆいは小さく吐き捨てた。
そう思い込んでいた。
「——なるほど」
背後から、淡々とした声が落ちてくる。
「“ものすごくムカつく”って意味だよね、それ」
ゆいの肩が、ぴくりと跳ねた。
「発音も文法も、かなり綺麗だった。
――感情も、無駄にね」
彼は眼鏡の位置を直し、少しだけ口角を上げる。
「……英語で言えば、誰にも分からないと思った?」
その一言で、ゆいの中の“安全圏”が、音を立てて崩れた。
「残念だったね」
そう言ってゆいを冷たい目で見下ろす同期、山口絢人。
「貴方の好き勝手にはさせませんから」
そう言い放ち立ち去る。
度のきつい眼鏡をかけ、もっさりとした前髪。
いつもぼそぼそと話す口調。
大きめの服でだらしなく見える佇まい。
山口絢人はゆいの嫌いなタイプだ。
(マジであり得ない!)
ゆいはもう、英語という“安全圏”を失ったのだと悟り、
心の中で叫ぶしかなかった。
22:00に投稿できたら…と思っています。




