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飲めるあたたかさになるまで ――あなたの隣を歩きたい――  作者: 蒼宙 つむぎ


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4.Cafe Latte(1)

今日から新しい章になります。

基本は瑞葵視点となります。

1.頑張ろう


 あれから数か月が経ちました。

 雪ちゃんの左目には仮の義眼が入っているけれど、

 私に向けてくれる笑顔は変わらず柔らかい。

 世界は……というと、国が一つ消えました。

 それも、びっくりするくらい静かに――まるで、前からなかったかのように。


「お兄ちゃん、明日は夜に来るね」

「いいよ。明日から復帰だろ?まっすぐ帰りな」

「つれないこと言わないでよ。私が来たいの」

 そう言って洗濯物を回収して帰宅の準備をする。

「疲れていたら、こっちに来ずにまっすぐ帰るならいいよ」

 相変わらず妹に優しい兄の樹は、来週退院できる。

(やっと普通の生活ができるようになるんだ)


 住んでいた家は焼けてもうないが、哲平さんのお父さんが所有するマンションに住まわせてもらうことになった。

 家具なども全て用意されているのを見て、ありがたいけど……できるだけ早く部屋を探そうと思った。食器は高級品のカタログを持ってこられたので、丁重に辞退させていただいた。

(今の時代、100円均一もかわいいのがたくさんあるからね)

 そしてうれしいことに、雪ちゃんも同じマンションに哲平さんと住んでいる。哲平さんは社畜の働き方を改めて、できるだけ早く帰るようになったらしい。


 今までなら、「お言葉に甘えて」なんて言わなかった。

 まして、「お願いできますか」なんて口が裂けても言えないワードだった。

 でも、初めて家族以外の人に「おねだり」をしてみた。


「あ、あの!哲平さんのお父さん!お、お、お願いがあるでごじゃる」

(いや!!!ごじゃるって!噛んでいるし、そもそも言葉がいつの時代よ!)

 頭を抱えて悶絶していると、哲平さんのお父さんの巌さんが真剣な顔で覗き込んできた。

「お願いは何だろうか」

(突っ込みなし。スルーなのね)

 いっそのこと、笑ってくれたらよかったのに……なんて思ってしまった。

「あの、コーヒーマシンが、欲しい、です。カフェラテを自宅で飲めたら……と思いまして」

「そんなものでいいのか?ほかにも遠慮なくいってくれ」

「ありがとうございます。考えておきます」

 この会話で、かなりのHPが消耗されてしまった。


 その後、巌さんの秘書さんが来て、“好きなものを得たんでください”とタブレットを渡された。何がいいのかわからなかったので、雪ちゃんと一緒に比較検討して用意してもらった。


 2時間後、秘書さんから受け取ったカフェマシンは、クリーム色のコンパクトなもので、本格的なエスプレッソマシンだ。

 早速、梱包から出し、フィルターホルダーやスチームノズルなどのパーツを洗ってカフェラテを入れてみた。

 高圧スチームは音が大きくてびっくりしたが、防音のマンションなのでご近所に迷惑かもと心配しなくてもいい。

 そして、比較的簡単にカフェラテを入れられたのが感動だった。


 部屋にエスプレッソの香りがふわりと漂う。

「いい匂い」

 気持ちが言の葉になり、唇から紡がれる。

 カフェラテの注がれたマグカップを持ち、リビングに移動する。

 窓ガラスに近づくのは、まだ少し怖い。

 でも、時間が経てば気にならなくなるだろう。

 入れたてのカフェラテは熱いので、息を何度も吹きかける。

(やっぱり熱くて、すぐに飲めそうにないな)


 明日から、仕事に復帰する。

 戦力になるのかわからなくて、不安になるが、前に進まないと始まらない。

 それでも、ちゃんと働いて自分の足で立っていたい。


 持っていたマグカップを両手でしっかり持ち直す。

「うん。一から始める気持ちで頑張ろう」

 自分に言い聞かせた感じはあるけど、嘘偽りのない本音でもある。


 ミルクの泡がきめ細かくてふわふわ。

 口をつけて、ゆっくりとカップを傾ける。

(熱いけど、うん、本当に美味しい)


 初めて自分で入れたカフェラテは、ほろ苦くて大人の味だった。


明日も21:00に投稿予定です。

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