3.American size coffee(10)
今日もなんとか間に合いました。
10.ここからが勝負だ
「健太郎!しっかりしろ!」
あれからどれくらいの時間が経ったのだろう。デニスさんに揺さぶられて気が付く。
「……デニスさん」
「気が付いたか?どうしたんだ?」
「それは……」
ひどく枯れた声だ。叫んだから当たり前だが……。
「もしかして、日本の火災のことか?」
「……はい」
「友人、か?」
「……」
「そうか……」
何も言えず、沈黙で空気が重くなる。
チリリリリン……チリリリリン……
デニスさんのスマホに着信音が鳴る。
“TEPPEI”の表示があった。
「デニスさん!哲平さんから電話です!出てください!」
哲平さんなら何か知っているかもしれない。
「哲平!日本で何が起こった?」
『デニス、健太郎もいるならスピーカーにしてくれ』
「わかった」
そういってスマホを操作する。
『二人とも、落ち着いて聞いてくれ。例のファイルに位置情報ビーコンが仕込まれていた。樹と瑞葵の家が爆破された。その場に雪も一緒にいた。3人は……大けがを負っている。これ以上は、今は言えない』
「い、命に、別状は……」
『健太郎か。3人は生きてる。もう切るぞ。また連絡する』
と言って通話が切れた
「クソ!」
怒りが湧いてくる。
「……デニスさん。もう、説明。してくれますよね――」
叫ばず、ゆっくりと、丁寧に話しかける。
「健太郎……。ああ……」
そういって、ふらふらと立ち上がり、キッチンに向かった。
(なんでキッチンに行くんだ?)
不思議に思っていたら、食品棚に手をかけ、手前に引っ張る。奥には隠し部屋があった。
シェルターのようなものだろうか。
「健太郎、悪いが急を要する。通信してから話す」
「通信?ですか」
「ああ……」
と言って黒電話の受話器を上げた。
「デニスです。被害が出ました。こちらと日本です。招集願います」
そういってデニスさんは受話器を置いて、ゆっくりと振り返って話し出す。
「健太郎、巻き込んで済まない。今、お前が携わっているのは、国際機関のシステムだ」
そういって一束の資料を手渡してきた。
KYT:Hazard Prediction Training(危険予測トレーニング)
「事故を防ぐための訓練、ですね」
最近はよく耳にするものだが――それだけで済む話じゃない。
俺は眉間に皺を寄せてしまった。
「気が付いた?そう、これはどこが一番の弱点になるのかを見つけるものだ」
その言葉を受け、更に皺を寄せてため息をつき。
「弱点を探すんですよね」
無感情の声を発した。
デニスさんは柔らかく笑みを浮かべるだけで、何も答えなかった。
「日本の件は、なぜ?」
「哲平と樹もこのシステムに関与してる。樹にはデータも提供してもらってるし、今は手伝ってもらってる。送ったファイルにビーコンが仕掛けられていた……ってとこだな」
「そんな簡単に言えますね。そもそも!情報漏洩が原因でしょう!」
出国前に哲平から聞いた時にもイラついたことを叫んでしまった。
「それは……すまない。――実は、機関の中に裏切り者がいる。あと、会社の中にもな」
「サラッと言いますが、多くの人が――!」
瑞葵のことを考えるとどうしても苛立ちが抑えられなくなる。
声が大きくなっているだろうが、そんなことどうでもいい。
「それで、どうするんですか?日本の情報って、逐一もらえますよね!」
一歩、じわりと詰め寄る。
デニスさんは半歩後ずさる。
「あと、いろいろとこちらのお願い、聞いてもらえますよね?」
また一歩、詰め寄る。
「け、健太郎。怖いわ。顔、怖すぎるから。ちょっと待って」
声を震わせながら半歩後ずさり、壁にぶつかり後がない。
「あ~。アメリカは契約書?念書?書かないといけないんですよね?」
“言った、言わない”などの裁判が多いと聞いたことがある。
「今は非常事態ってことで……」
デニスさんの視線がせわしなく動き回る。
「そう言いながら、俺には書かせましたよね。あ、ここに紙とペンがあります。さ、どうぞ」
無表情で突きつけると顔を引きつらせながら受け取るデニスさん。観念したようだ。
「では、こちらの要望は――」
俺はA4用紙に小さい文字で3枚の念書を書かせた。
日本の状況を隠さず知らせること。俺のこれからの安全。そして、彼女たちの治療や生活を保障すること。
まだ足りないと感じたが、おいおい追加すればいいだろう。
俺はこの紙を4つに折り、常に持ち歩くと決めた。
髪をかき上げ、深く息を吐く。
――さて、ここからが勝負だ。
明日も20:00に投稿予定です。




