3.American size coffee(9)
段々とミステリアスな感じが濃くなります。
9.誰か違うと言ってくれ
午後からもひたすら仕様書とモニターをにらめっこする作業を続けた。
大して問題もなくサクサクと進んでいたのにまた違和感を見つけてしまった。
(ここも前と同じ?条件に対して足りない?)
思いっきり足りないのではなく、ゆるく感じる。なくてもいいかもと思ってしまいがちだが、後々ないことでバグが生じるようになっている。
(設計ミス?でも、ほかはちゃんとできてるし。なんというか、この不足したところが気持ち悪く感じる)
今までなら違和感あるところを素直にデニスさんに伝えて終わりにしていたが――。
(何かが起きたのは俺がミスを見つけた後だ。いつもならしないデリバリーを頼もうとしたから。カフェテリアのものは問題なかったのだから。俺が頼まなければ、もしかしたら問題は起きなかったのだろうか……)
ふと自分が悪かったという自責の念に駆られそうになり思いとどまった。
(それより、俺は一体何をチェックしてるんだ?人数とパーセントが毎回出てくる。何を選択したら何パーセントになるというものだ。何の人数なんだ――)
嫌な予感がする。考えたくない。だが、ほかの仕様書を見てもやはり気になるのはここだ。
自分の考えが突拍子もないものだと笑ってくれたらいい。そう願いたい。
健太郎は静かに決意し、音を立てず、仕様書をクルクルと巻いて持っているのが見えないようにして席を立つ。
誰にも気づかれず、デニスさんと話しがしたい。
ゆっくりとフロアを見渡し、デニスさんがトイレに向かうのが見えた。
(ラッキー!今がチャンスだ!)
逸る気持ちを抑え、自然に見えるようにトイレに向かった。
キィ……
扉を開け、デニスさん以外に誰かいるか確認する。
(よかった。一人だ)
後から誰か来るかも確認するが、問題ない。
「デニスさん、トイレですみません。後で誰にも見つからずに話しがしたいんです」
「健太郎……。話しをするなら今日は泊まらずに家に帰ろうかな……」
ため息交じりで返事をくれた。
「そうですね……。ではこれをデニスさんが持って帰ってくれませんか?気になるところをチェック入れてます」
「わかった。とりあえず預かる」
そういって会話を終え、時間をずらして席に戻った。
帰宅後、夕飯を食べずデニスさんの帰宅を待つ。1分が10分にも感じるくらいで、何度も時計を確認する。
(デニスさん、まだかな。昨日は泊まりこみだったみたいだし……)
しばらく考えて、21:00を過ぎたらご飯を食べることにする。
(それまではテレビでも観るかな)
何気なくつけた液晶画面からニュースが流れていた。日本で火災があったという。
(ビルかな?ん?民家だ)
“東京の郊外にある民家から火の手が上がり、全焼したもようです。この家に住む山本樹さん27歳と山本瑞葵さん22歳の行方が分かっておりません……”
ガシャン!
目を見開き、手にしていたリモコンを床に落とした。
(瑞葵?え?瑞葵ちゃん?)
目の前が真っ白になる。何も考えられなくなり、その場に膝をついた。
「ちょっ!なんで?人違い……だよな?」
誰もいないのに違うと言って欲しかった。
パッと画面が変わり、瑞葵ちゃんの顔写真が映る。
「うわあ!!!」
叫ぶしかなかった。涙があふれて目の前が見えなくてもどうでもよかった。
俺は頭を抱え、その場にうずくまり、ひとり泣き叫び続けた。
テレビから流れるアナウンスは、もう耳に入ってこなかった。
明日も20:00に投稿予定です。




