3.American size coffee(1)
この話から健太郎主体の話となります。
1.行ってきます
「ロサンゼルス行き、まもなく搭乗を開始いたします。搭乗券をご準備ください。」
搭乗アナウンスを耳にし、ギュッとチケットを握りしめた。
きっとすぐには返ってこれないだろう。掲示板を確認し、搭乗口へと向かう。
哲平社長にアメリカ行きの了承を伝えた後、自宅に帰った。哲平社長と一緒に。
「久遠さん、夜分遅くに申し訳ございません。実はご子息の健太郎君にアメリカへ出向してほしく、許可いただけないかとお願いをしに参りました。社長の柳哲平と申します」
社長がとても礼儀正しく、斜め45度のお辞儀がきれいな直線だったのでじっと見てしまった。
「健太郎、見すぎだ。柳さん、頭を上げてください。まずこちらで話をしましょう」
そう言って居間に向かう。中では車いすの母が待っていた。
「こちらのレディはお姉さまですか?健太郎君」
「いいえ、母です」
「これは失礼いたしました。これほどの美しいお方が母君とは思いもせず。ご主人もこれほどのご婦人だと心配になることも多いのでは」
「ああ……。まあ……。」
(社長の言葉に照れが半端ない親父。ていうか、耳真っ赤だし)
今まで見たことのない父親の狼狽えぶりにかえってこっちが狼狽える。
「あら~いやだわ!本当のこと言われると照れるわね」
カラカラと明るく答える母はいつも通りだが。
「それでですね、先ほど、御父上には少しお話したのですが――」
社長は俺のアメリカ行きの了承を貰うために説明を始めた。
「ケンちゃんはどうしたいの?もう決めたの?」
社長の説明が終わると、母が俺に問いかけてきた。
「母ちゃん。……うん。アメリカに行くよ」
「そう。なら、いってらっしゃい。いいわよね、ソウ」
そう言って親父に話をふる。
「迷惑はかけるな。先輩たちを敬え。あと、無理はするな」
そう言って二人は了承してくれた。
社長の説明で、正直反対されると思ってた。だからこうもあっさりと快諾してくれたことにはびっくりしたが、社長の嘘偽りのない言葉に納得してくれたのだろう。
二人の子供に生まれてよかったと改めて感謝した。
「あと、しばらくはお二人も住まいをこちらで用意しますので移り住んでいただきたい。お二人の身の安全のために、お願いします」
社長は落ち着くまでは家族を要人として扱ってくれるという。母は車いすだし、日中何かあった時に対応できる人が身近にいないのでありがたい。
「俺は仕事に出ます。いいですよね?」
「はい。御父上には一人護衛を付けます。窮屈だと思われるでしょうが、お願いします」
「わかりました。柳社長、立派になられましたな。御父上も喜ばれておられるでしょう」
「あ~。聡一郎さん、お久しぶりです。照れますね。」
「親父、社長と知り合い?」
「ああ、ちょっとな」
そう言って俺以外はなぜか通じ合っている。
不思議な光景だったが、これだと家族も安全だと感じて胸をなでおろした。
「健太郎、お前には負担かける。だが、頼んだ」
空港には哲平社長だけが見送りに来てくれた。会社では何人かがこの件に関わるようで、忙しくしているのが目に見えてわかる。
「わかりました。向こうでたくさん学んできます」
「ああ。瑞葵と雪もこの件で今作業してくれている。一人じゃないから、何かあったら連絡をデニス経由でくれ」
哲平の言葉に俺は目を見開いた。
(彼女と総務の雪さんが、この件のサポートをしてくれているのか……)
渡米の挨拶はできなかった。でも、一緒に戦ってくれていると思うと胸が熱くなる。
大きく頷き、ゲートへと向かった。
もう、後戻りはできない。
でも、俺は一人じゃない。
拳を強く握り、空を見上げて独り言ちる。
「行ってきます」
明日は1話投稿予定です。
1/15(木)と1/16(金)は23:00に投稿したいと思います。
仕事でどうしても…。
予約投稿できるのですが、他も一緒に投稿したいので…。
たぶん、帰ってこれるはず。
早く帰りたい……。




