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飲めるあたたかさになるまで ――あなたの隣を歩きたい――  作者: 蒼宙 つむぎ


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2.My first café au lait(26)

瑞葵のお話です。

いつも瑞葵の時は”side”刃付けませんが、健太郎とのタイトルを一緒にしたのであえて付けました。

26.決意 ~瑞葵side~


「瑞葵ちゃん……」

 雪ちゃんから声をかけられてハッとする。モニターはスリープモードになり真っ暗になっていた。

「……雪ちゃん。あの、アメリカの出向の話って……」

 あ、ダメ。哲平さんから聞いているかなんて聞いてはいけない。人事のこと発表があるまでは誰にも漏らしてはいけないのだから。

「ごめん、聞かなかったことにして。本当にごめんね」

「瑞葵ちゃん……。うん。実は私も知らなかったことなんだけどね……。でも、なんで久遠君なんだろ……」

(雪ちゃんにも言わなかったって、珍しい。どうして……)

 二人して事の成り行きに言葉が出ずにいると、樹のスマホに電話がかかってきた。

「もしもし。あ、哲平。うん、今確認した。決定?うん。俺から説明しとくね」

 哲平からの連絡だったらしい。

 樹はスマホをテーブルに置き、話し始めた。

「アメリカ行きの件、見たよね?これ、急遽決まったことで、瑞葵にも手伝ってもらう件にも関係するから、聞いてほしい」

 そう言って、樹のノートPCを私たちに見せてくれた。

 アメリカのニュース記事だ。とあるゲーム会社で、“画期的なAIツール開発”を発表と書かれていた。見出しを見る限りは「すごいな」という感想なのだが、内容を読むと苛立ちに変わった。

 樹と哲平、二人の友人のデニスさんが何年もかけて積み上げてきた開発がなぜか違う会社が発表しているのだ。ほかの会社が同時に手掛けていたなら仕方ないことだが、それはあり得ないのだ。膨大なデータを世界各国から集めてAIで学習させるもので、私も手伝ったのだ。これを数か月で完成と書かれているのがあり得ない。

「お兄ちゃん、これって」

「うん。欠員が出たってあったと思う。ある日出勤しなくなって連絡取れなくなった奴がいてね、まあいわゆる情報漏洩ね。やられたよ」

 そういう樹の顔は無表情だ。“怒鳴りたい”を超えた、本当の怒りだ。

「そう……。だから、健太郎君はアメリカに行くのね。わかったわ……」

「瑞葵ちゃん、確かこれって……」

「うん。お父さんとお母さんの事故のデータを、――提供したわ」

「ゆ、許せない!こんなのって!」

 雪ちゃんが顔を真っ赤にさせて怒ってくれている。

 強く握った拳がふっと緩んだ。

「健太郎君には悪いんだけど、このままやられて終わりにさせられないからね。彼に頑張ってもらって、さらに上のものに昇華させて、取り返しに行ってもらう。かなりしんどいはずだけど、健太郎君ならやれるはずだ」

 そう言って冷めてしまったコーヒーを飲む。

「……そうね。健太郎君なら、きっと、できるはず。頑張って、ほしい」

 怒りや悲しみ、いろんな感情が混じって気持ちの整理がつかないが、それでも、立ち止まる気はなかった。彼には頑張ってきてほしいと素直に思った。

 きっと、健太郎の成長にもなることだと、そう思った。


「というわけで、今日は瑞葵と雪ちゃんにはアメリカから手伝いの要請が来てるものの振り分けと整理をしてもらいたい。しばらく会社には出勤しなくて、ここで作業してほしい」

「ここで、ですか?樹さん」

「うん、雪ちゃん。うちのサーバ、セキュリティを強化してあるから。哲平のとこの社員も信用してるけどね、新しい子たちもいるからさ……。信用を崩したくないからこそここでしてほしい」

「あ、なるほどです。哲平義兄さん、もし社員に裏切られたら……どうなることか……」

「雪ちゃん……。おにいさんって……」

「あ、うん。腹違いの兄妹、なの。内緒にしていて、ごめんね」

「ううん。いいの。深く聞かないし、誰にも言わない。安心して」

「うん」

 そう言って雪ちゃんは小さく笑った。


 そのあと、樹は瑞葵と雪のノートPCのセキュリティを触り、外部からのアクセスをシャットダウンさせた。私たちも外部へアクセスするのをやめることにした。

「会社の掲示板も今からアクセスしないでね。SNSもしばらくなし。哲平が午後になったら使えるスマホを持ってきてくれるから。ちょっと窮屈になるけど、協力して」

「「はい」」

「雪ちゃん、しばらくここで寝泊まりしてね。荷物は哲平が持ってくる。あと、買い物も現金のみ。カードもコード決済もなし。安全確認とれるまでは哲平に貢がせることにしよう!」

 そう言って樹が笑うので、目途は立っているのだろう。悲観することもない。

 早速、鰻の出前を頼もうかと3人で笑いあった。


 午後3時を過ぎたころ、哲平社長がやってきた。

「遅くなった!悪い!」

 目の下にくっきりと隈を作り、来ていたシャツもよれよれだった。

「哲平さん、ご飯食べましたか?食べてませんよね」

 私は手を引いて無理やりリビングのソファに座らせ、キッチンに向かった。

(冷凍庫に豚バラ肉があった。夕飯に食べようと思っていた厚揚げもある。肉巻きにして甘辛く味付けしたらご飯も進むと思う)

 頭の中で冷蔵庫の中をリスト化し、哲平への最適なご飯を思い浮かべた。

 昔からよく食べていたので山盛りご飯、いいや丼にご飯を盛ったほうがよさそうだ。

 急ぎ冷凍された豚肉を解凍し、沸かしたお湯で厚揚げの油抜きの下ごしらえをする。

(よくお母さんと一緒にご飯を作ったな)

 ふと昔を思い出し、こんな時なのに鼻歌を歌ってしまう。


 お盆にご飯を乗せてリビングに向かうと3人でいろいろと話をしていたようで、みんな眉間に皺をよせていた。

「はいはい。哲平さん、まずご飯食べて。話しながらでもいいから」

 そう言って配膳すると哲平の腹の虫が“待ってました!”と鳴った。

「悪い。ペコペコだわ。食べながらで行儀悪いけど、時間ないから話を進める。まずは――」

 その後、2時間これからのことと何をするのかを話し合った。

 ――ここからが勝負だ。



 正直、この1か月はきつかった。外出もほとんどできず、家事は哲平さんのご実家のメイドさんが2人派遣されてすべてを行ってくれた。

 とにかくデータを確認して振り分ける。ただひたすらと繰り返すこの作業。

 終わりが見えた時は雪ちゃんと抱き合って喜んだ。


 本当にかっちり1か月後。

 私たちは次の作業の人たちへバトンを渡した――。


22:00に投稿できるように…頑張ります。

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