2.My first café au lait(25)
何とか2話目、間に合いました。
健太郎の決意、です。
25.決意 ~健太郎side~
「健太郎、ちょっといいか?」
哲平社長から声をかけられた。普段は明るい声なのに今日は重い声だ。
「はい!」
何かあったのかと思い、返事をしてすぐに駆け寄る。
「あ~、コーヒーでも飲みながら話そうか」
やはりいつもと違う。時間を大事にする人なので、基本はお茶を飲みながら話をすることはないのだ。
今から起こることに不安を感じ、ごくりと息を飲む。
コーヒーを入れた哲平社長と俺はテラスへと向かった。
奥へと進み、大きい植木鉢の近くで足を止める。上垣の向こう側を少し除いた後でため息をつき、近くの椅子に座った。俺は目線で座れと言われたので隣に腰を下ろす。
「……」
一口、二口……。熱いコーヒーを口に含むが哲平からの言葉がない。
(俺、何かやらかしたのかな……)
哲平の言葉を発しないというこの空気が、重すぎて辛い。
これは本当にやばいのだと確信し、頭を下げた。
「社長、すみません」
とにかく、謝ろう!
「は?お前何かしたのか?」
キョトンとする哲平。叱られるわけではなさそうで緊張が解けた。
「何もしてません!ですが、空気が重くて何かしたのかと……」
「ああ……。悪い、なんていえばいいのかわからなくてな」
そう言って、苦笑いをする顔には疲労が見受けられる。もしかすると徹夜しているかもしれない。
(この人の助けになれることあればいいのにな……)
恩人の一人である哲平のために、もっと自分ができる人間にならないと、と焦る。
「健太郎。お前、アメリカに行かないか?」
「アメリカ、ですか?俺が?」
急なアメリカ行きを打診されてびっくりする。今の俺が海外で通用するとも思えない。
「ああ、向こうで欠員が出て困ってるらしい。俺も今動けないし、ほかの奴らも動かしにくいし、スキル的にもメンタル的にもお前が適任だと感じた。勿論、決定じゃない。考えてくれないか」
「欠員、ですか。スキルはまだまだですが……、メンタルなら、確かに」
「スキルも向こうで学べると思う。まずはサブとしてやってみないか?」
サブと聞いて少しホッとする。だが、行きますと即答はできなかった。
「社長、少し考えていいですか?いつまでに返事をすれば?」
「今週中には向こうに行ってほしい。だから時間は、あまりない。悪いな」
よっぽど急ぎなのだろう。返事は明日明後日にはしないといけなさそうだ。
「わかりました。親にも話します」
「ああ、悪いな」
そういって哲平が少し冷めたコーヒーを飲んで社内に入っていった。
アメリカ行き。それは多くの人が望むことだろう。哲平の友人の一人がアメリカで会社を起こしており、世界でも注目されている。
ただ、いまの俺はスキルが足りていると感じていないし、彼女のそばから離れたくないと思っている。
「どうしたらいいのかな……」
ふう……と大きくため息をつき、残っていたコーヒーを一気に飲み干した。
自席に戻りモニターを確認していると、とあるフォルダーに目が留まった。たまたま目についただけだが、ちょっと気になるところがあり引っかかる。
“更新者 山本瑞葵”
彼女が作業しているようだ。
「……」
どうしようか迷う。声をかけようか……どうしようか。
そこで、俺が彼女の立場なら?彼女が俺の立場なら?と考えを改める。
きっと、声をかけられた方がうれしいだろう。
気を決し、彼女の席に向かうことにした。
「瑞葵ちゃん、いいかな?」
やんわりと声をかける。近づきすぎない、適切な距離で。
びっくりした彼女は目を見開き、コクリと頷く。
「これ、日付が一日ずれてる、ね」
そう、顧客に渡すファイルの日付がずれていたのだ。大したことではないが、少しのことでも気になる顧客もいるし、第一彼女がこれに気が付いた時に落ち込むに違いない。
「……えっと……、ちょっと待って。えっと、どこ、だろう……」
そう言う彼女の声と手が震えている。きっとパニックになっているだろう。
キーボードを打つもミス打ちしてる。
「落ち着いて。一個ずつ、見ていこう」
声をかけ、隣の席に座る。そっと見ていると、だんだん落ち着いて修正が進んでくる。自己チェックも目視ではなく指さし確認していて無駄がない。もう大丈夫だろう。
終わった様子の彼女。息を吐いて背筋が伸びた。俺もモニターを確認する。
ずれ始めたところから順番に見ていき、問題ないことを確認した。彼女に向き直り頷くと感謝の言葉を返された。
なんて返事すればいいのかわからず、休憩しないかと誘ってしまった。初めての二人きりのお茶タイムだ。
俺は喉が渇いていたのでミネラルウォーターを一気に飲んでしまう。彼女はいつものカフェオレだ。窓越しに見る彼女は少し目が泳いでおり、何か言いたそうにしている。
(言いたくなるまで待っていよう。何も言わなくても、この時間を噛みしめよう)
アメリカ行きを打診されたからかもしれない。今の時間を忘れたくないと感じた。
「私、誰かの役に立てたらと……。その、迷惑は、全然かけたくなくて」
ぽつりぽつり、彼女は自身のことを話し始めた。
聞いていると、「大丈夫」とか「そんなことない」なんて言葉をかけるのは安っぽく感じられ、何も言えなかった。彼女のこれまでを否定したくなかったのだ。だから、今は何も言わず傍にいたいと思った。
そして、ある決意をした。
彼女の真面目な性格は仕事にも表れている。そして、圧倒的なセンスの持ち主であることも何度も目にしている。
それじゃ、俺はどうなんだろう?
真面目な性格とは言い切れないところもあり、瑞葵ほどのセンスを持ち合わせていない。
(今の俺が彼女の隣に立ちたいって、おこがましいよな)
何もかもが彼女に追いついていないから。
このままでいいのか?
嫌だ!初めて好きになった人を諦めたくない。彼女の笑顔を俺だけに向けてほしいんだ。
そう思ったら、アメリカ行きに”YES”と返事するしかないと思った。
(この後、哲平社長に返事しよう。親には何とかして了承もらうしかない)
そっと彼女を見る。
両手でカフェオレを持ち飲む仕草を目に焼き付ける。
コンコン
彼女とカフェテラスで別れて、まっすぐに哲平の元を訪ねる。
社長室に入り、アメリカ行きを了承したことを告げ背筋を伸ばす。
哲平は明後日のアメリカ行きのチケットをさっそく手配してくれた。
彼女には伝えずに向こうに行こう。
俺の気持ちがブレないように。
彼女の時間を止めないように。
健太郎も前に進むことにしました。
明日も2話投稿しようと思います。




