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飲めるあたたかさになるまで ――あなたの隣を歩きたい――  作者: 蒼宙 つむぎ


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2.My first café au lait(22)

今日は2話投稿予定です。

22. 言葉のいらない、場所


「これ、日付が一日ずれてる、ね」

 データの整理をしていると、健太郎からの言葉で一瞬時間が止まり、次に視線が揺れた。モニターに出ているのはとあるゲーム制作のフォルダーだ。

「……えっと……、ちょっと待って。えっと、どこ、だろう……」

 ずれていると言っていたということは、“ミス”したということ。“ミス”したということは、迷惑をかけているに違いない。焦る気持ちが強くなり右に左にと視線の揺れが大きくなる。

(どこ?どこ?どうしよう)

 焦りは強くなるばかり。口の中が渇いてしかたない。

「ここから、だね」

 指さされたところを見ると指摘された通り一日ずれているのを見つけた。“ミス”している。その事実に血の気が引いて指先が冷たくなっている。

(どうしよう)

 “何か言わないと”と思うものの開いた口からなかなか言葉が出てこず、ただハクハクと口を開閉するだけ。何とか一呼吸息を飲み、ようやくかすれた声を発する。

「すみません」

 何とか謝罪したが、そのあとの言葉が見つからず俯いてしまう。

 健太郎は何も言わず石川さんの席に座りこちらを見ている。

 きっとあきれたに違いない。こんな単純なこともできない。社会人として失格だ。

(ああ……。消えてしまいたい)

 膝の上で握った拳は力が入りすぎて白くなっていた。


「今、ミスよりつらいこと考えてない?」

 健太郎の言葉に目を見開いて顔を向ける。

(なんで……。)

 思っていても声にはなっていなかったはずだ。

 何かの答えを探したくて、健太郎の瞳を見つめるが、健太郎は何も言わず、“トントン”とモニターをタップする。

(あ、そうだ。今はそこより、“ミス”を何とかしないと)

 ハッとした瑞葵はさっきの“人間失格”思考を落ち着かせ、このミスを何とかしようとPCに向き合う。


 まず、“ミス”し始めたところを確認する。おおよそ半分くらいのところからというのがわかった。一つ一つ修正をするが道のりは長い。焦る気持ちからテンキーを間違って打ってしまうが確定はしていない。

(よかった。でも手が震えてしまう)

 更に間違ってデータがごちゃついてしまうと取り返しがつかなくなる。もう一度テンキーを打つが小指が引っかかってしまう。

(ああ。うまく指が動かない)

 焦れば焦るほど指が震える。怖くて思わず目をギュッと瞑ってしまう。

「落ち着いて。一個ずつ、見ていこう」

 健太郎の声はとても穏やかだ。

「はい」

 小さく頷いてもう一度モニターを見つめる。まだ、ここで修正ができる。

 焦らず、確実に。

 今ならできる。


 キーボードにゆっくりと手を持っていき、小さく息を吐く。


 カチャカチャ


 日付を確認する。

 一つずつ修正する。


 タタンッ


 最後の修正を確定し、ゆっくりと息を吐く。

(終わった)

 指さし確認もしたので問題ないはず。

 健太郎を見ると、画面をしっかりとみて確認している。

 そしてこちらを見て頷いた。

「あの、ありがとう、ございました」

 健太郎に向き合い、きちんと例を述べた。指摘してくれなかったらどうなっていただろう。感謝の言葉しかない。

「のど乾かない?休憩しよう」

 そういって立ち上がった健太郎の顔はいつもの爽やかな青年というより大人の顔に見えた。


 カフェテラスでいつものカフェオレを入れる。

 窓際のカウンターテーブル。並んで座る健太郎は、常温のミネラルウォーターにしたらしい。

「本当にありがとうございました。指摘してもらえなかったら、どうなっていたか……」

「たまたま目にしたから。それだけ」

 そういってゴクゴクと水を飲む健太郎の耳はほんのり赤く見えた。

(健太郎君は本当に優しいのね)

 こんな私に離れず最後まで寄り添ってくれた。

 ただ、それがうれしかった。私は存在してもいいと思ってもらえたような気がして鼻がツンとした。

 目線をカフェオレに移し、蓋の淵をなぞる。

 何度か口を開けたりしめたりした後、ぽつりと本音をこぼした。

「私、誰かの役に立てたらと……。その、迷惑は、全然かけたくなくて」

「ん……」

「でも、今日はすごく焦って、結局は迷惑かけて、何やってるんだろうって。――こんな単純なこともできないのかって」

 ほんの少しだけ気持ちを聞いてもらいたいと思っただけだったのに、気持ちが音をまとわせて出てくる。

「少しは、みんなと同じように、できるようになったと思っていたの。でも、まだ努力足りなかったのかも」

 ――瑞葵は自分の気持ちを吐き出していた。

 これまで誰にも本音を言えず、“大丈夫”って笑っていたのに。

 健太郎にはなぜか聞いてほしかった。

 慰めてほしいとは思っていない。

 ただ話したかった。


 ゆっくりとカフェオレを飲む。

 彼は何も言わず、

 私が飲み終わるまで隣にいてくれた。


 窓に小さな雨粒が付き始める。

 今夜から天気が崩れるのだろう。


次は22:00の予定です。

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