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飲めるあたたかさになるまで ――あなたの隣を歩きたい――  作者: 蒼宙 つむぎ


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2.My first café au lait(21)

瑞葵の穏やかだけど心が揺れるエピソードです。

21.妖精さん


 いつからだっただろう。気が付いたらデスクのコースターの近くに小さな「贈り物」があったのは。気が付いたら、“あったらいいな”と思うものがそこにあった。


 お気に入りのマグカップに大好きなカフェオレを入れて席に戻ると、コースター横にいつも使ってるペンの替え芯が置かれていた。

「?」

 そろそろインク切れそうだなって思っていた赤の0.38mm。意外にチェック作業の時に使うから引き出しにストックを置いていたが、会社の備品置き場でもそれほど置いていないし、コンビニでも良く品切れとなっている。

(誰かな?もしかしたら総務の雪ちゃんかな?この前欲しいって話していたし)

 数日前に用事があり総務に行った際、仲良しの雪ちゃんと替え芯について話していたことを思い出す。

 よくわからないけど、“妖精さん”からの「贈り物」だと思うことにした。


 コホコホ……

 季節の変わり目、必ず喉が痛くなる。風邪というほどのことではないが、喉の調子が悪く、飲み物をよく口にしている。だが、そうなるとトイレによく通ってしまうので忙しいときは控えたくなる。

 この微妙な感じはどうしたものかとふと手が止まった。

「……」

 集中が途切れて外の空気を吸いにテラスに出た。マスクを取り、深呼吸する。ちょっと息苦しく感じていたのか、外の空気がおいしく感じた。どこかでのど飴を買って来ればよかったと思いながら席に戻ると、またコースター横に「贈り物」が置いてあった。

「のど飴だ……」

 ビタミンCのど飴が3つ。瑞葵がいつも買っているものだ。

(誰……だろ?でも、助かる。石川さんは出張でいないし、カレンさんかな?でも忙しそうだし、声かけづらいからあとでお礼を言おう)

 “妖精さん”はもしかしたらカレンかもしれないと思い、さっそくのど飴をなめた。

(やっぱりこの飴が一番好きだな)

 そう思って微笑んだ。


 喉の調子が悪かった週末。“妖精さん”からの「贈り物」ののど飴の効果もあったのか、週明けには咳をすることもなく仕事に打ち込めていた。

 ただ不思議なのは、“妖精さん”がカレンさんや総務の雪ちゃんでもないことが分かった。

(誰?なのかな?お礼を言いたいのにな……)

 ほんの少し心がざわつくが、気のせいだと思い仕様書をチェックし始めた。

「山本さん、申し訳ないのですが、経理に書類を届けてもらえますか?」

 石川さんが声をかけてきた。そろそろ経費の締めがあり、早めの提出をお願いするメールがとどいていたので、各部署でまとめて提出すると言っていた。

「はい。今から届けてきます」

 そういってファイルケースを持って階下の経理へと向かった。経理部にはたくさんのファイルが置かれており、瑞葵もファイルを置いて提出チェックリストに記入する。リストには健太郎の名前が書かれており、ほんの少し頬が熱くなった。

「よろしくお願いします」

 小さく声をかけ自席に戻ると、今日も“妖精さん”から「贈り物」が届いていた。

 カフェオレだった。

 今日は、付箋が貼られていた。


 “お疲れ様です”


 名前もなく、たった一言。

 だが、この字に見覚えがある。

 引き出しの“大事なものを入れる缶”にそっとしまっている付箋。

 右肩上がりのその文字と同じだ。

(過度な期待はだめ。いつも同じ人だとは限らないもの)

 深く考えるのをやめることにした。


 彼からの「贈り物」のカフェオレを手に取る。

 あったかい。

 猫舌だから飲むために蓋を取る。

 コーヒーとミルクの合わさったやさしい香りが瑞葵を包み込む。


 瑞葵は“大事なものを入れる缶”にそっと付箋をしまった。


明日は2話投稿予定です。

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