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飲めるあたたかさになるまで ――あなたの隣を歩きたい――  作者: 蒼宙 つむぎ


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2.My first café au lait(16)

何とか投稿、できました。

16.スパイスが効いていただけ


「瑞葵。ちょっといいか?」

 カレンさんとカフェテラスから戻ってきた時、哲平社長から声をかけられた。

 頷き、すぐにメモとペンを掴み、社長室へ向かう。

「失礼します……って、兄さん?!」

 瑞葵は、樹の姿を見た瞬間、無意識に背筋を伸ばした。

「ただいま、瑞葵」

 3か月ほど前から渡米し、SNSでは連絡とっていたものの、帰国の話は聞いていなかったので驚いてしまった。


「瑞葵、留守にしててごめんね」

「ううん。しばらくは日本にいるの?」

 カフェテラスにもう一度戻り、兄と話をすることになった。

 カフェオレにシナモンパウダーをふりかけ、スプーンでかき混ぜる。

「そうだね、ちょっと今していることの経過を見ないといけないからね」

「そっか。じゃあ、お兄ちゃんの好きなオムライスと唐揚げ、頑張って作るね!」

「いいねえ!今日食べたいから早く仕事済ませて帰ろう!」

 よかった。久しぶりに家族水入らず、ご飯食べれそうだ。好きなものをたくさん食べてもらいたい。

「うん!あ、実はねちょっと気になるというか、教えてほしいというか……行き詰ってるの」

「ふーん。それは次のゲームの件かな?俺が見ていい……か。俺もメンバーだから」

「え?お兄ちゃんも?」

 兄がチームメンバーになっていたことを初めて知った。確か、初期メンバーには入っていなかったはずだ。

「急遽ね。他と掛け持ちだからサポートに徹するんだけど」

「そうなんだ!一緒に仕事ができるのね」

 目標の一つ、兄と一緒に仕事をする。これが叶うなんて思っていなかった。

 うれしさで体が震える。

「そしたらね、――」

 私は勉強を見てもらっていた頃のように、無邪気に質問攻めにしてしまった。


 昔から人と話をするのが苦手で、うまく伝えたいことを言えず周りから孤立することが多かった。どもったり声が小さくてイラつかせてしまったことも原因の一つ。

 わかっている。

(もっと胸を張って、堂々としないと)

 そう思うと余計に空回り、また周りをイラつかせた。頑張っても頑張っても、うまくいかない……。

 上手くいかないことが度重なると、頑張ることを諦めてしまう人は多い。家族や友人に恵まれ支えてくれていたから、その時までは頑張れた。でも、私の家族が兄だけになった時に心が折れてしまった。



 それは不慮の事故だった。家族旅行で山道を車で抜けているときだった。落石があったのだ。


「瑞葵!瑞葵!しっかりしろ!目を開けてくれ!」

 お兄ちゃんの声がする。

「瑞葵!頼む!起きてくれ!」

 お兄ちゃんが叫んでいる。

 薄っすらとしていた意識がだんだんはっきりしてくる。


 パチッパチッ


 周りが熱く、何かがはじけるような音がする。

 だけど、よくないことだけはわかる。


「瑞葵!目が覚めたんだな!よかった。

 ――瑞葵、逃げろ!たぶん、爆発が起こる!お前だけでも逃げろ!」

 え?逃げる?爆発って何のこと?


「瑞葵!早く!逃げろ!」

 兄が叫んでいる。

 どこから?

 どこにいるの?


「瑞葵!」

 声のする方を見渡し、驚愕した。

 車の後部ドアは半開きになっており、手を伸ばした兄の顔が見えた。

 頭から血が流れている。


 車の前部分は

 ――岩でつぶれていた。


「いや!!!!」

 私は叫んでいた。声が今までにないくらいの大声になっていたと思う。でも、大声とかそんなこと、どうでもよかった。今の現状を理解したくなかったから、叫ぶしかなかった。


「瑞葵!俺は足が挟まって動けない。お前だけでも逃げてくれ!」

 お兄ちゃんが動けない?

 私だけ逃げる?

 なんで?

 家族を見捨てるなんて、できないよ。


 自分の体を確認すると、ガラスでいろいろ傷ついている。膝とか、顔とか擦り傷があって、ジンジンする。全身が血まみれだけど、まだ動ける。

(お兄ちゃんを助けないと!)

 そう思った瞬間、車に無我夢中で駆け寄り、兄の手を引っ張る。

 足とか背中とか、痛みは感じなかった。

 必死だった。

 今助けないとだめなのだと本能が叫ぶ。


「お兄ちゃん、足、挟まってるって、どこ?!」

 引っ張っても無理だと瞬時に判断し、兄に問いかけながら社内を覗く。

「瑞葵……。左足。圧迫されてるだけだと思う」

 兄の左足が挟まっているところを確認した。確かに圧迫だけのように見えた。

 これだったら何かで持ち上げたら何とかできる。

 

 車の周りを見ると、トランクに積んでいたジャッキが外に投げ出されているのが見えた。

 火の手も上がっていて、オイルのにおいも充満している。

 一刻の猶予もない。

 ジャッキを取りに行き、テレビで見た断片を頼りに隙間を少しずつ開けていった。


 カチャリカチャリカチャリ……


「!!抜けた!瑞葵、ありがとう!逃げよう!」


 兄が車から抜け出て、私の手を引いて走った。

 そして、少し離れたところで二人、並んで燃える炎を眺めていた。

(お父さん、お母さん。助けられなくて、ごめんなさい)

 心で謝罪しながら、声を上げずに涙を流した。


 その後、私は家から出られず。毎日何もせずに空ばかり眺めていた。

 兄はずっと寄り添ってくれて、高校を通信制に切り替えて、勉強を見てくれた。

 今みたいに。

 根気よく、しっかりと話を聞いてくれた。


 話に夢中で飲み忘れていたカフェオレに口を付けた

 スパイスの香りが鼻を駆け上がり

 ツンとした


 鼻と目

 ちょっと

 痛いなあ。


明日からは仕事があるので20:00のみの投稿です。

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