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飲めるあたたかさになるまで ――あなたの隣を歩きたい――  作者: 蒼宙 つむぎ


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2.My first café au lait(14)【閑話】

ちょっと空気が重い話が続いていたので、2話目は閑話です。

健太郎のことを知ることになると思います。

14.神よ、感謝します ~健太郎side~


 一つの目標にしていた“アースプロジェクト”の入社式。とうとうこの日が来た。

「ケン!早く出ないと遅刻するぞ!ネクタイは!ちゃんと結べよ!」

「わかってるよ!母ちゃん!ちゃんとするって!」

「Dann mach hin!(ダン マッ ヒン!)」

 ――ドイツ語での「早くしなさい」が飛んできた。

「わかったって!」

 そう叫び返し、ネクタイを結ばず急いで家を出た。

 母はスイス人で、感情が先に立つとドイツ語になる。

 朝から付き合っていられないので、逃げるが勝ちだ。


 入社式は会社の大会議室で行われる。思ったより早く着いたのでトイレでネクタイと格闘していた。

「これ、どこまで巻いたらいいんだよ……」

「健太郎、ネクタイ結べないのか?」

 鏡越しで自分の背後を見ると社長の哲平が腕を組んでニヤついている。

「そういうわけでは……ないんですけどね……。苦手で」

「ああ、親父さんもあまりネクタイしてないもんな。貸してみな」

「すみません」

 素直にネクタイを手渡す。

 この時の哲平の言葉に違和感を持ったが、深く考えず入社式のことに意識がシフトした。

「哲平さん。あ、社長。入社式の新入社員代表挨拶……俺じゃなくてほかの人の方が良かったんじゃ……」

「あ~。お前が適任。いざという時、緊張してても何とかできるだろ」

(何とかって……。結構適当なこと言うんだよな。でも、この人についていっちゃうんだよな)

 何とも言えない気持ちになりながらも、ネクタイを結んでくれる恩人には感謝しかない。

「頑張ります」


 大会議室がある2階へ向かうため、階段を上っていくと入り口付近で人だかりができていた。扉が開いていないのかと思ったが開いている。

(みんな、恥ずかしくて入れないのかな?)

「あの、どうしたんですか?」近くにいた男性に声をかける。

「あ~、ちょっと中にすごい人がいるとかでなかなか入れないみたいなんですよ」

「すごい人、ですか?社長とか?」

「いやいや、社長はあとで入ってくるみたいですよ」

「そうだよな……。ちょっと見てきます」

「あ、俺も一緒に行きます。俺、新入社員の小山駿太。よろしくです」

「俺も新入社員の久遠健太郎。タメでいいよな、小山」

「だな。早く見に行こうぜ」

 そう言って人だかりをかき分け、先頭までたどり着いた。

「なんで入らないんだ?入れないとか?」

「い、いえ。その、中に、あの、……天使様がいらっしゃってですね」

「天使?何それ?」

 小山が食いついた。少し優しくしてやってくれないかな。でもまあ、天使は……違う。

「ちょっと中に入ってみますから。できるだけ皆さんも続いて入ってきてください」

「わかりました」

 とりあえず、俺たちは入っていくことにした。


 中には数人の女性がいたようだ。一人は同じ大学だったような気がする。

 別段何も問題なさそうだと思ったその時、俺は見てしまった。

「Nymphe (ニンフェ)?妖精?……あれは……」

「久遠?妖精?にんふぇ?ってなに?」

「いや……まさか、そんな……」

 そんなはずはないと思った。俺の目の錯覚はないか?昨日も見たと思うんだ。でも、そんなはずはないと思う。でも、声に出して言ってしまいたい。

「……アクたん……」

「「「……」」」

「久遠?アクたん?って?」

「小山氏、黙っていてくれたまえ!久遠氏、君は彼女を存じているのだな?」

 先ほどのおどおどした口調が鳴りを潜め、饒舌で早口な口調でまくし立ててくる。

「あ、ああ。その、“楽しく学ぼうITチャンネル”のアクアちゃん……だよね?」

「左様でござる!まさしく、彼女はアクアちゃん改めアクたんの生き写しだ。同志よ!そのお名前を最初に口にした久遠氏は賢者だ!しばしこの件で相談がござる!」

 先頭に立っていた一人が俺にそういって、集団で扉の外に連れ出された。


「ちょ、ちょっと待って。え?俺、賢者になったの?」

「左様!われらはお名前を口にはできなかった軟弱者たちだ。同志たちよ、あの天使然のお姿、我らはついている!是非アクたんのファンクラブを結成しようではないか!勿論、会長は久遠氏だ!」

「「「そうだ!結成しよう!」」」

「あの、ファンクラブはいいと思うのですが、会長はちょっと、荷が重いです」

「では、ファンクラブ結成の狼煙を上げてくれた田中氏が会長を、久遠氏は副会長でよいのでは?」

「そうだ!田中氏、ぜひ受けて欲しい。我らで支える!」

「「「支える!」」」

「皆さんがそう言ってくれるなら、我が会長に、久遠氏は副会長に就任だ」

「ええ……副会長……」

 そうして、俺はファンクラブの副会長となってしまった。


 何とか話が纏まった(?)ので会場に戻ると俺たち以外が席についていた。

「久遠、こっち」

 小山が手を振って呼んでくれた。

「お前、大丈夫だった?」

「ああ、ちょっと役員になっただけだから、問題ない」

「役員って何?マジ大丈夫?」

「ああ、彼らとは通じるものあるので大丈夫。いい奴らだよ」

「そうか。ま、何かあったら少しだけ助けるよ」

「少しかよ。がっつり頼るからよろしくな」

「がっつりね。仕方ないな、健太郎」

 すぐに仲良くなれるコミュニケーション能力、小山はすごい奴だと感じた。


 ほどなくして、入社式が始まり、先ほどのことがあって緊張が解けた俺は式辞を問題なく終わらせることが出来た。社長の哲平さんは1分もかからない挨拶だったので、入社式は本当に早く終わった。

「今からレクリエーションをここで行います。一人ずつ自己紹介をお願いします」

 秘書の石川さんがこれまたサクサクと話を進める。


 順番に自己紹介が進み、とうとうアクたんの番になった。

「えっと、山本瑞葵と言います。コンピュータサイエンス学部で学びました……」

 彼女は少し控えめの音量で透き通ったような声。まさしく、“楽しく学ぼうITチャンネル”のアクアちゃんそのものだった。いいように声を変換していると思われるかもしれないが、昨晩も聞いていたので間違いない。

「ええっと、趣味は……」

 ファンクラブメンバーが一斉にアクたん改め山本瑞葵に視線を送り、メモとペンをしっかりと握っている。

「その、アニメとか好きで、す」

 一斉にペンの文字を書く音がする。

 恥ずかしそうにしている彼女が髪を耳に掛けた時、小さなピアスが見えた。

(あれは!昨晩アクたんがつけていたピアスと同じだ!)

 間違いない。アクたん本人がピアスを紹介していたから。

 控えめな四葉のクローバー。葉の部分はエメラルドだと言っていた(アクたんが)

 たぶん、ファンクラブメンバーも同じことを思ったのだろう。ここでも文字を書く音がすさまじい。

「あの、よろしくお願いします」

 彼女の自己紹介最後の言葉にメンバー全員が頷いて終了した。


 どうしたらいいんだ。

 俺は、本物の天使、本物の妖精を見つけてしまった。

 アクたんは実在したんだ。


 俺はのその場で膝をつき手を組む。

 そして、初めて神に感謝の言葉をささげた。

「神よ、感謝します」


オタクの健太郎、いかがでしたでしょうか?

アクたんのこともこれからたまに出てきます。


明日も2話投稿予定にしています。

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