2.My first café au lait(13)
瑞葵のお話です。
13.刺激の強い炭酸水
自分の手を見つめていたらモニターがスリープモードになっていた。
ほんの少しの時間のことだったのにひどく喉が渇いた。
(カフェテラスに行って、カフェオレを飲もうかな。疲れたから、キャラメルソース、入れちゃおうかな)
サイドデスクの引き出しを開け、お気に入りのマグカップを出に取る。
兄の樹がくれたこのマグカップはところどころ模様が擦れている。5年前にもらったものだ。
デスクワークだと運動が全然できないから食事には気を付けるようになった。特に、飲み物は危険だ。カフェテラスにはいろんなトッピングを用意してくれているから……Hazard Zone――。
(いっぱい考えると甘いものが欲しくなるのよね……。いつもカフェオレにキャラメルソース1杯で我慢するけど……今日は頑張ったご褒美で2杯!今日だけ!)
意を決し、勢いよく立ち上がる。
「山本さん、カフェテラスですか?ご一緒しても?」
石川さんが声をかけてきた。
(珍しい。石川さんがカフェテラスにいるところ一度も見たことないけど……)
「は、はい」
すぐに首肯した。
「山本さんのそのカップ、ずいぶん使っていますね」
「……はい。これは、兄がくれたもので……たぶん、一生捨てられません」
「あなたにとって、それは価値のあるものなのですね」
そういって石川さんは柔らかく微笑んでくれた。
「そんな古くさいもの、捨てなさいよ。みすぼらしくみえるわよ~」
大学に入ってすぐのころ、同級生からいつも持っていたキーホルダーを取り上げられ、笑われてしまった。確かに古かった。わかっている。でも、大切だった。いつも持ち歩いていたいほどに。
「そ、それは、大事なもの、だから、返して」
いつもなら相手に合わせて言い返したりしない。でも、それは返してもらわないと。大事なお母さんとの思い出だから。
母はいろんなものを作ってくれる私の自慢の人だった。裕福な家ではなかったからおもちゃなど買えなくて、好きなアニメキャラをフェルトで作ってくれた。それがさっき彼女が持っていたキーホルダー。ものに執着していると言われればそうなのかもしれない。でも、もうこれを作ってくれる人はいない。だから、無くすわけにはいかないのだ。
「ふーん。そんな大事なものなら、家に置いてくればいいじゃない。バカみたい」
彼女はそう言って、私の後ろにあったゴミ箱に投げ捨てた。
「本当に大事なら、拾ったら~」
そういいながら彼女はケラケラと笑い去っていった。
私は急いでゴミ箱に駆け寄り、キーホルダーを探す。
ガサガサッ。ガサガサッ。
(よかった。見つかった)
少し埃で汚れていたが無事だった。
(家で丁寧に洗えば大丈夫。もう、誰にも見えないところに隠しておこう)
その時から、大事なものは目に見えるところには置かなくなった。持ってきたものは隠しておいて、使うときだけ出す。マスコットも持ってきたものは帰るときに引き出しになおす。
マグカップもそう、本当なら家で使うべきかもしれない。でも、そばにいてくれたら安心するから持ってきた。バカにされるかと一瞬身構えたが、石川さんはそんなことしないいい人だ。
「はい!大事なもので、価値がてんこ盛りなんです」
私は胸張って答えた。
大事なものの話で盛り上がりながら歩いていると、カフェテラス入り口に着いた。中には先客がいる。誰だろうと思い顔をのぞかせた。久遠健太郎と坂口裕子だった。坂口裕子に健太郎が寄り添っている?いや、健太郎君が抱きしめている……ように見える。
(どうして二人が……。距離が、近くない?)
何があったのかもわからないし、知りたくもない。
ドクッ ドクッ ドクッ
動機が激しい。
少し、吐き気もする。
ダメ、私のこの気持ち
出しちゃダメ。
嫌だ。
こんなところ、見たくない!
「山本さん、瑞葵ちゃん。あとで来よう」
石川さんが肩にそっと手を置き、話しかけてくる。
私はただ頷く。
今はもう
カフェオレはいらない。
よく冷えた炭酸水が飲みたくなった。
22:00に2話目を投稿予定です。




