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飲めるあたたかさになるまで ――あなたの隣を歩きたい――  作者: 蒼宙 つむぎ


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2.My first café au lait(12)

本日2話目です。

不器用な坂口裕子の話です。

12.戦友になれませんか? ~坂口裕子side~

 

 プログラマーブースで、テストプレイが終わったらしい。

 人が一斉に動き出し、ざわりと空気が入れ替わる。


 カチ


 私は、なんとなく視線を戻してマウスを動かした。

 テストフォルダにあったデータが、提出待ちに移っている。


 最終更新者――山本瑞葵。


 その名前を見た瞬間、胸の奥が、きゅっと鳴った。

(なんで……)

 思わずタンブラーに伸ばした手が震える。

(今はここにいたくない、モニターを見たくない)

 そっと席を立ち、カフェテラスに向かうことにした。


 カウンターに並んでいるコーヒーのカプセルをぼんやりと見つめたが、今の気分に合うものが何なのかわからなかった。タンブラーを無駄に触るだけで、その場からも動けない。

(私の意見は間違っていないはず……。でも、修正案が通っていた。効率を考えたら私の方があっていたはず)

 何を飲もうかということすら考えられず立ち尽くすが、思考がぐるぐる回ってふらついてしまった。

「坂口、大丈夫か?」

 久遠健太郎が腕をつかんで支えてくれた。

 すぐそばに彼がいたことすら気が付かなかったなんて、気を抜きすぎたと一人反省する。

「ええ。もう大丈夫だから離して」

「ああ、大丈夫ならいいんだ」

 そういって半歩距離を取ってくれた。心配してくれたのに、少し言葉がきつかったかもしれない。でも、出てしまった言葉はなかったことにできない。せめて“ありがとう”だけでも伝えようかと思ったが、なかなか声にならなく、ただ口を開くだけになってしまう。

(こういうところが可愛げがないって言うのよね。わかっているけど、可愛いと思われたくない。私にそんなもの邪魔なだけ)



 幼少期から背が伸び、中学生になるころには170cmを軽く越してしまった。大抵の男子を見下ろす私は“可愛くない”女として見られていた。感情が顔に出ないのも原因だが、そもそもの感情すら起伏がないので出しようがなかった。笑顔の練習をしたこともあったが、“気持ち悪い”と言われてからは笑うのが怖くなった。

 姉たちはとても“可愛らしい女性”で愛嬌があり、人気があった。親戚から“姉妹でもこんなにも違う”と陰で言っていたのも知っていたので引きこもりがちになった。


 そんな時、私は一つのゲームに出会った。そのゲームは世界各国のプログラマーやデザイナーたちがタッグを組んで出来上がったもので、世界的人気を誇り、10年経つ今でも人気のものだ。オンラインでいろんな人と繋がり会話もできる。私の世界がパッと明るくなり、時間を見つけては遊んだゲームだ。

 そのゲームの“工房”で、“竜鉄”というゲーマーと出会った。気づけば、彼との会話が日常になっていた。最初は装備をカスタムするコツを教えてもらっていたのだが、そのうち自分のことを話すようになっていた。高身長で笑顔がひきつるから、将来どうすればいいのかと悩みを打ち明けてしまっていた。

『馬鹿だな、お前。周りの勝手な言い分は聞き流せ。可愛くないって思うなら、かっこいいって思ってもらったらいい』

 初めて言われた言葉に衝撃を受けた。可愛くする必要はないのだ。モニターの前で初めて“微笑む”ことができた時だった。


 それからは、“竜鉄”にいろんなことを教えてもらって楽しく過ごしていたが、別れは急に訪れた。

『おれ、仕事でたぶんログインはできなくなる。すまんな』

 もう“竜鉄”との時間が無くなる……。世界が終わるんじゃないかと思ってしまった。

『どうやってこれから過ごしたら……いいの?』

『好きに過ごせばいい。お前の人生だから、お前が決められるんだ』

『……』

 自由って、ずっとあこがれていたけど、目の前にそれが訪れると怖く感じるものだと知った。今思えば、依存していたと思う。でもその時は、一人で何ができるのか全くわからなかった。

『どうすればいいのか……考え付かないよ……』

『……だったら、こんなゲームを作れるようになるのはどうだ?俺みたいに』

『作る?ゲームを』

『すぐにできないさ。できるように頑張って勉強するのも一つの案だってこと』

『あ……。うん。やって、みようかな』

『ああ、待ってるよ』

 そう言って“竜鉄”は去っていった。

 ログアウトして、ふとゲームのパッケージを見た。そこに“TEPPEI YANAGI”という名前を見つける。日本語のアナグラムみたいにパーツが重なった。彼がそうだったのだ。


 それからは本当に頑張った。前髪を切り、部屋から出るようになった。学校にもちゃんと通った。ITスキルを自分のものにするために大学に通って、がむしゃらに勉強した。そして、彼のいる“アースプロジェクト”に入ることが出来た。


 彼と同じ目線で、彼の隣を歩きたい。

 やっと隣に立てたような気がした。

 でも、彼の眼には私は映っていない。


 私ではいけませんか?

 一緒に戦う戦友にもなれませんか?


 今の自分が認められていない気がして

 目の前がほんの少し揺れた。

 差し出されたハンカチを見て

 ようやく、自分が泣きそうになっていることに気づいた。


背か高いから…とか、言われたくないよね…。

冷たそうに見えるとか…言われてもね…。

感情があまり出ないことでいろいろ言われたくないのよね…。

普段、思っていることを裕子に出してもらいました。


明日も2話投稿できるように頑張ります!

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