2.My first café au lait(10)
あけましておめでとうございます。
今年も頑張って投稿しますので読んでください。
本日は1話投稿です。
10.小さな一歩(1)
「山本さん、ちょっといいかしら」
その声に、瑞葵は足を止めた。
「はい」
坂口裕子は手元のタブレットを軽く操作しながら、淡々と続ける。
「提出してくれた一次チェックの修正案なんだけど……少し気になるところがあって」
「気になる、ですか?」
「ええ。方向性としては悪くないんだけどね。この部分、少し“寄りすぎ”かなって思ったの」
寄りすぎ。
その言葉が、胸の中で静かに反響した。
「使う側の気持ちを考えてるのは伝わる。でも、そこに寄せすぎると、全体のバランスが崩れることもあるのよ」
坂口は責めるでもなく、淡々と続ける。
「プロジェクトとしては、もう少し効率を優先したい。個々の感情に寄り添いすぎると、調整が増えてしまうから」
“効率”
その言葉を聞いた瞬間、瑞葵の中で、何かが小さく引っかかった。
(効率……)
頭では理解できる。
正しいとも思う。
実際、そうしなければ回らない現場もたくさんある。
でも。
(それだけで、いいんだろうか)
口には出さず、瑞葵は視線を落とした。
自分が修正した部分。
使う人が、少しでも迷わず、少しでも楽しく感じられたら――
そんな思いで手を入れた箇所だった。
「もちろん、悪いって言ってるわけじゃないのよ」
坂口は穏やかに続ける。
「ただ、今は“最適解”を選ぶ段階かなって思って」
“最適解“
その言葉を、瑞葵は心の中でそっと転がした。
(最適……か)
正しい。
合理的。
でも――。
その続きの言葉は、まだ見つからない。
瑞葵は小さく頷いた。
「……わかりました。少し、考えてみます」
答えは出ていない。
けれど、何かが確かに動き始めているのを、自分でも感じていた。
瑞葵は自席に戻り、モニターを見つめた。
修正したデータを、もう一度開く。
“効率”
“最適解”
坂口の言葉が、頭の中で静かに反復される。
(……間違ってはいない)
そう思う。
でも、どこか、胸の奥がざわついたままだった。
画面の中の“UI”を見つめながら、瑞葵は小さく息を吐く。
自分が直した箇所。
ほんの少しだけ、ユーザーの動線を緩やかにした部分。
(これって……無駄、なのかな)
そのとき、背後から気配がした。
「今の修正、もう一回見る?」
振り返ると、哲平が腕を組んで立っていた。
いつもの穏やかな声。けれど、どこか探るような視線。
「……はい」
二人でモニターを覗き込む。
哲平はしばらく黙ったまま、画面を追っていた。
そして、ぽつりと聞いてくる。
「これ、どういう意図で変えた?」
瑞葵は一瞬、言葉を探した。
「えっと……使う人が、迷わないように……です。最初に何をすればいいか、自然にわかるように……」
哲平は小さく頷いた。
「うん。じゃあさ」
少し間を置いてから、続ける。
「大事なところ、ブレてはいけないところは……見つかった?」
その言葉が、胸の奥にすっと入ってきた。
(……あ)
“効率”とか、“最適解”とか、
そういう言葉の手前にあったもの。
自分が、最初に考えていたこと。
“使った人が、迷わないように”
“楽しいって、思えるように”
それは――
間違ってなかったんじゃないか。
瑞葵は、ゆっくりと息を吸った。
「……はい。たぶん」
その声は、さっきよりも少しだけ、芯があった。
「う、内田さん。あの、テストプレイをお願い、したくて……。お時間、もらえません、でしょうか」
同期ではない、ベテランプログラマーの内田さんに声をかけた。
(こんなひよっこにテストプレイを頼まれなんて、あり得ない、ことだよね)
緊張して喉が渇く。でも、いろんなものを見てきた人に見てもらいたかった。
「開発用サーバーのテストフォルダにビルド済みデータを置いています。お、お願いします」
言葉に詰まりながら仕様書を目の前に突き出した。
「内田、見てやってくれ」
哲平さんが後ろからフォローしてくれる。
「あはは、そんなガチガチにならんでいいよ。よし、テストしてみようか」
そういって仕様書片手にテストプレイが始まった。
カチャカチャ、カチャ、……タンタン
少しずつ修正箇所に近づく。
後ろからたくさんの人がモニターを見つめている。
カチャ……
(あ……、ここだ)
ふと、内田さんの顔を見た。
口角が上がった。
(……笑ってくれてる。よかった、届いたんだ)
そして、テストプレイは終了した――。
続きは明日
2話投稿予定です。




