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死に戻りの箱庭ダンジョンで、亡き家族を取り戻すため俺は何度でも死ぬ  作者: タイハクオウム


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神と名乗るモノ

 和真が四層で圧殺され、暗転したあの瞬間。視界は白ではなく、概念だけの空虚へと反転する。


 そこは、音も質量もない“外側の領域”。その中心に、ひとつの玉座が静かに浮かんでいた。


 銀髪の男──“神”は、肘掛けに指を軽く添えながら、淡々と映像を見つめる。



「……なるほど。あの状況で、そこまで身体を動かせるか。予想以上だ」


 声には抑揚がない。驚嘆すら、深い湖面の波紋ほどの揺れしか示さない。


 ただ、和真の行動の“意味”だけを測るように、視線が揺れる。


 四層のゴブリンに囲まれ、腕を喰われ、胸を穿たれながら、それでも牙を食いしばり動こうとした姿。


「人間は、追い詰められたとき、ようやく本性が表に出る。

……良い。実に、良い反応だ」


 愉悦はある。


 だがそれは、子供の玩具遊びではなく、顕微鏡越しのサンプルが予想外の動きをしたときの、静かな興奮に近い。



 神は指先を軽く動かし、映像を切り替える。


 パンと水を支配する刺青の男とその仲間。

 虐げられる弱者。


 少女を背に庇いながら、収納スキルを使いこなし、周囲への気配りを欠かさない。何か決意が感じる眼差しで状況を探る黒川。


 そして──。


「鞍馬。……君は、とても“興味深い”」


 鞍馬がスライムの中心へ身を沈め、内臓を押し潰されながら、まるで研究者のように“体験そのもの”を観察する。


 痛覚より観測を優先する目。


 そして、死んだ直後の、静かな笑み。


「死と痛みに対する反応が、他の人間よりも明らかに薄い。怖れではなく、興味が勝つ……観察対象としては、価値が高い」


 淡々と語りながら、口元だけがわずかに歪む。


 それは慈悲でも祝福でもない。

 “人間の限界がどこで歪むか”を測る者の笑みだ。



「百人を連れてきた甲斐がある。地球で暮らしていた君たちでは、こうした本質は永遠に見えなかっただろう」


 その言葉に、わずかな含みがあった。地球から魂を“盗んだ”ことを匂わせるもの。


 明確に語らなくても、この箱庭が本来の世界の延長ではなく“自身のために作られた環境”であることだけは明白だった。



 映像が再び変わり、和真の姿が映し出される。

 一層で震える和真。


 腕があった場所を抑えながら、必死に呼吸を整える姿。


 それでも立ち上がろうとする執念。


「……そこまで戻るか。“願い”という動機は、人間をよく動かす」


 声は淡々としているが、確かな評価があった。


「壊れかけては立ち上がり、恐怖を抱えたまま進む。人間が最も美しく歪むのは、この段階だ。……だからこそ、壊しどころを間違えるわけにはいかない」


 金の瞳が、静かに細められる。



「死線感知……そうだな。君が使えば、きっと良い仕上がりになるだろう」


 淡く呟き、神は玉座に深く腰掛け直す。


 和真が四層へ向かう未来。

 それを選ぶ理由。積み重なった痛み。


 すべてを“見えている者”の口ぶりだった。


「どこまで行けるのか。どこで折れるのか。

……そしてその瞬間、君はどんな顔をするのか」


 穏やかな声のまま、底だけが冷たく沈む。



 神は最後に、箱庭全体の映像を広げた。


 刺青の男が仲間を殴る。


 黒川が少女の髪を撫で、震える声で励ます。


 鞍馬が血を拭い、無表情のまま死地へ歩く。


 それらすべてを、静かに見下ろす。


「実に多様だ。壊れ方も、涙の流れ方も、命の尽き方も、それぞれ違う。

──だからこそ、観察する価値がある」


 そして。


「まだ始まったばかりだ。これから君たちがどれだけ笑い、怒り、奪い合い、壊れていくのか……

……存分に見せてくれ」


 低く、静かに。


 玉座の空間が薄く震え、金の瞳が妖しく光った。

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