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57.打ち明ける夜②


 今夜は小宮山さんに送ってもらうことになった。

 その途中、適当に空いている店の駐車場を見つけて、小宮山さんの車は一旦停止する。

 どうせ白状させるためなので、好実もさっさと口を開くことにした。


「……私、高城君と別れました」


 きっと小宮山さんにとっては唐突で、思いもよらなかっただろう。バイトを辞めたい理由がそれだったなんて。

 しかし小宮山さんは驚くこともなく、「そっか」と答える。


「……小宮山さん得意のお見通しってやつですか?」

「好実ちゃんに関しては、確かに得意かもね。一昨日あいつを問い詰めた時、好実ちゃんは途中からおかしくなったから……俺もよく考えて、気付いた。高城さんがあいつに三十万を貸した相手だって」


 やはり、小宮山さんはさすがだ。好実の最初の異変から見逃さなかったなんて。

 でも彼は兄によって誤解させられている部分もあるので、好実が訂正しなければ。


「一昨日、兄は私達に嘘もついたんです。三十万を借りた相手が高城君だって隠しただけじゃなくて……本当は、三十万貰ったんです」

「……貰った? あいつは受け取ったの?」

「受け取ったから、瀬川さんとの和解金にできたんじゃないですか。でも私達には貰ったなんて言えなくて、借りたって誤魔化しただけです」


 助手席に座る好実からここまで打ち明けられ、小宮山さんはさっそく深い溜息を吐いてしまった。好実にとってはまだ話の序盤なのに。

 今の小宮山さんは、まだ兄のみに呆れている段階なのだろう。


「ちょっと待って、一度整理させて……。あいつの浮気を目撃したのは高城さんで、あいつはその高城さんを最終的に協力者にして、三十万まで貰って浮気問題を綺麗に解決したってことか」

「どこが綺麗なんですか? 貰った金で解決しただけなのに」

 

 一度兄への怒りも挟んだせいか、好実の口は勢いづいた。


「兄が平気で三十万を恵んでもらったのは、ちゃんと理由があるんです。高城君は兄の浮気を目撃したのをいいことに、逆に兄に頼ったんです。私に近づくために……。だから私は、小宮山さんのコンビニでバイトすることになりました」


 隣の小宮山さんが「えっ……」と発した後、そのまま言葉を失くした。さすがに衝撃ということか。高城君の実態に。

 それほど小宮山さんからしても、高城君は誠実で清廉潔白のようなイメージが強かったのかもしれない。王子様のような見た目だけに。

 それでも好実が教えた高城君の実態を受け止めたのか、「なるほど」とようやく納得した。


「高城さんが、そもそも好実ちゃんを好きだったことは何となくわかってたけど……好きな女性に近づくために、その兄を操作しちゃったわけか。しかも自分は動かずに好きな女性を引き寄せたわけだから、自然の再会にもなってしまう。彼は頭がいいけど、何より根性が据わってる」


 やはり小宮山さんは第三者だから、最後はのん気に感心だってできるのだ。

 逆に好実は彼への褒め言葉など、とっさに耳を塞ぐほどなのに。

 そもそも、今日は彼の名前すら口にしたくないし耳に入れたくない。

 それでも小宮山さんにはすべて吐き出したくなって、こうして彼の真実も明かしたのに、結局はこんな拒絶反応まで起こしてしまう。


「ごめん……もちろん彼を褒めてるわけじゃないよ。彼のしたことはもちろん間違ってたし、そんな悪行に頭を働かせるべきじゃなかった」


 耳を塞ぎながらも言い改めた小宮山さんの声が届いてしまい、好実は「悪行……」と呟く。


「十分悪行だろ。彼は最終的に好きな女性をこんなに苦しませて、悲しませたんだから」

「……私、知らなければよかったんですか? 兄の浮気なんて追わなければ」


 今の好実は小宮山さんの言葉に拍車をかけられ、苦しみと悲しみにより囚われてしまった。

 もう抜け出せないあまり、初めて後悔だって襲いかかる。

 最初から何もせず、最後まで何も知らないまま兄の浮気問題が解決してしまえば、こんな苦しみと悲しみも知らなかったと。


 でも、やはり許してくれないのは小宮山さんなのだ。

 今の小宮山さんも、すでに頭を抱えながら小さくなる好実に無理やり前を向かせてしまった。

 正確には、好実の頭が彼の手で無理やり持ち上げられ、彼と目を合わさせられる。

 いつの間にか涙でボロボロの顔も、間近で見られてしまった。

 

「真実を知らないまま、彼の傍にいたかった?」

「……私、三十万だったんです……彼にとって、三十万……」

「そうだね。確かに彼は好実ちゃんを頂いた代わりに、三十万をあいつにあげたようなもんだ。好実ちゃんは、それが一番許せなかったんだろ? 彼があいつの浮気を利用して味方につけて、好実ちゃんをうちのコンビニで働かせたことよりも」


 そうかもしれない。好実は彼にとって三十万の価値でさえなければ、他は許してしまったのかも。

 彼が自分を手に入れるためどんな悪行を働いても、自分を三十万にさえしなければ――――まだ彼の傍にいたかった。あまりにも恋してしまったから。

 どうせ、そう簡単になど離せなかったのだ。


「それでも、三十万にされたことだけは許せなかった。好実ちゃんにはちゃんとプライドがあったんだ。だから、ちゃんと彼を突き放した。自分を三十万にした男の傍にいるなんて、もう御免だって」


 「それでこそ好実ちゃんだ」と、小宮山さんは言い切ってしまった。今の好実はただ正しいのだと。

 正しいことをしたから、苦しみも悲しみも生まれたのだと。

 「偉い偉い」と、小宮山さんの手が涙まで拭ってくれる。


 そうだった。小宮山さんは最初からこういう人だったと、好実はこんなボロボロ状態の今でさえ思い出させられる。

 この人は、いつも自分を肯定してくれた。時に卑下した時だって、必ず褒めて前向きにさせてくれたのだ。

 今の小宮山さんも、いつもと変わらないだけだった。

 三十万の価値を与えられたせいで恋も失い、すっかりボロボロの好実すら、ただ肯定して褒めてくれる。

 それでいいんだと、彼だけは今の好実をこんなに認めてくれるのだ。


「大丈夫、一人じゃない。俺がいるから」


 いつも良き兄のような存在の彼には、とっくに安心し信頼し、特別に懐いてしまったのに。

 そんな彼にボロボロの自分をすっかり委ねてしまった今は、また違う。今はまた変化した。

 失恋で心に傷を負った今の好実にとって、唯一心に受け入れられる男性になったのだ。


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