表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

第一章4「決意の後押しはクッキーで」

 場所は変わって、神殿へ――。


「ふーん……。横山よこやまがそんなことをねぇ……。キモッ……!」


 自分がさっき、図書館で横山に言われたことを大まかに話すと、それを聞いた雨宮あまみや芙月ふつきは、これ以上ないくらいに眉をひそめた。


 確かに、彼女の反応が普通だと思う。横山は、二人にセクハラする気満々だったからな……。


 すると、ひいらぎ姫華ひめかが――。


音村おとむら君、本当に大丈夫なの……? 横山君って"ナイト"のジョブで、戦闘では、積極的に前衛を務めて実戦経験は豊富だから、説得力が……」

「か、彼は"ナイト"なんだね……」


 正直、失礼ながら、今までの彼との経験から言わせてもらうと"シーフ"とか"アサシン"みたいな闇に生きる系のジョブが似合いそうだが……。


 義弘がそう思っていると、今度は雨宮さんが、不機嫌そうに目を細めてこちらを見つめてくる。


「……で、アンタはどうするわけ? まさかこのまま、横山みたいなゲス野郎に負けるわけじゃないわよね?」

「それは大丈夫だ。……必ず、一週間後の戦闘試験に受かってみせるよ」

「はあ……。どこにそんな自信があるのよ……」


 雨宮さんは、あきれたようにイヤイヤと首を横に振った。

 すると、そのタイミングで――。


 ぐううう……。


 見計らったかのような見事なタイミングで、義弘のお腹の虫が鳴ったのだった。


 ――うわぁ。なんとタイミングの悪い。


 すると、柊さんがこらえきれなくなって、思いっきり吹き出してしまった。


「ぷっ、あはははは!! お腹で雨宮さんに返事をするなんて、音村君って可愛いなぁ!」

「い、いやー、すまない……。この世界に来てから、何も食べてなくてさ……」


 最後に食べたのは、この世界に来る前……。確か、自宅で適当につまんだ菓子パンだったかな……? そりゃあ、お腹の虫も鳴るよな……。

 とにかく、今は戦闘試験以前に、何かを口にしないと。腹が減っては戦はできぬ、とよく言われるしな……。


 義弘がそう思ったときだった――。


「これ、食べなさいよ……」


 雨宮さんから、何かを強引に手渡される。

 何だろう、と思って自分の両手に顔を向けると、そこには――。


「うわぁ……。美味しそうなクッキー」


 焼き加減の良さそうなクッキーが、袋詰めにされて何十個と入っている。

 すると、雨宮さんは頬を少し赤く染めながら、目線を彷徨さまよわせて、こう口にする――。


「お、男の子って、結構食べるイメージあるから、こんなのじゃお腹いっぱいにはならないと思うけど、少しでも音村の腹の足しになれば、いいなって……。し、仕方なくだけど……」


 そんな、ぎこちなくも可愛らしいことを言われるのだった。


「ありがとう、雨宮さん……! すごくうれしいよ!」


 義弘がそう言うと、雨宮さんはさらに頬の色を濃くしてしまうのだった。


「は? き、キモッ! 女の子にお菓子をもらっただけで、そこまで舞い上がるなんて、気持ち悪いにもほどがあるわよ!」


 雨宮さんは、あたふたとまくし立てるが――。


「ふふふ。でも、雨宮さん。……音村君のために、必死でお菓子屋さん探してたんだよね?」


 柊さんに、トドメとばかりにそんなことをバラされるのだった。

 すると、雨宮さんは、さらに慌ててしまう。


「ち、違うわよ! これは、その……。たまたま落ちてたのを拾っただけで……」


 ――落ちてる物を人に渡すのは、ちょっと、どうかと思うよ!?


 義弘が心の中でツッコミを入れていると、柊さんは楽しそうにクスクスと笑うのだった。


「だって、そのクッキー。近くのお菓子屋さんで売ってたもん。……しかも、結構高いやつだよ?」

「そ、そんなものを僕にくれたのか……」


 やはり、雨宮さんは良い人だ……。


 普段は素直になれない分、いざ彼女の隠れた優しさが表に出ると、その包み込まれるような温かさに感涙してしまいそうになる。


「だ、だからぁ――」


 その後、柊さんと雨宮さんの可愛らしいくち喧嘩げんかが始まり、その二人の様子を微笑ましそうに義弘は見守った。

 そして――。


 ――お前は、利用価値のないゴミ同然なんだよ!!


 そんな彼女たちの微笑ましい姿を見ながら、義弘は横山にされてきた数々の嫌がらせと暴言を想起していた。


 一週間後の戦闘試験に合格できなければ、横山の嫌がらせが彼女たちにも降りかかる……。

 それどころか、魔王軍と戦わされるクラスメイトたちを助ける第一歩を、ここで踏み外すことにもなる……。


 彼女たちの輝くような笑顔を……。そして、クラスメイトたちのこれからの未来を守りたい……。


 ここまで、誰かのために何かをしてあげたいと思ったのは、もしかしたら生まれて初めてかもしれない。


 だからこそ――。


「……じゃあ、戦闘試験に向けて魔法の勉強してくるよ」


 そう口にすると、二人の口喧嘩がピタッと止まった。

 そして――。


「私も一緒に行くよ、音村君!」

「アタシも手伝ってあげるわ。あ、アンタ一人じゃ頼りないからね……」


 彼女たちは、二人ともはばかることなく、僕なんかのために時間を使ってくれるのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ