カミングアウト
今日、わたしは意中の彼に『告白』をする。でもその前に、わたしの事も『告白』しなくてはいけない。それがわたしの決意だ。
そして放課後。呼び出しに応じてくれたあのヒトが一人、教室で待っていてくれた。わたしは意を決して彼が待つ教室に一歩足を踏み入れた。
「…待った、かな?」
「んっいや、全然。それで、話って何?」
呼び出しを受けて、彼もなんで呼ばれたか何となく察しているのだろう。聞いていながらも目線を逸らしてばかりで落ち着かない様子だ。正直に言えばわたしも同じだった。
「うんっ…あのね。言っておきたい事があって。…でもその前に別の事も話しておかないと、って思って。」
「えーっと…つまり?」
気持ちが急いてわたし自身変な事を言ってしまったが、落ち着こうと深呼吸をしてから、わたしは今度こそ気持ちを決めて口を開いた。
「じっ実はね、わたし…ずっと隠してたことがあってね。それを先に話してからなんだけど。わたしの気持ちを聞いて欲しいの。」
「…うん、分かった。それで、隠し事って?…もしかして、俺のスマホの履歴を見ちゃったって?」
「あっ違うそういう事じゃないから。」
あれ?先に彼の隠し事に首を突っ込む所だった?いや、今は彼の事よりもわたしの事だ。言われてちょっと気になったけどそれは後で。
「…あのね、聞いたとしてさ。すごく現実離れしてるかもしれないけどね。驚かない、というのは難しいかもしれないけど、でも出来れば受け入れてほしいと言うか、えっと。」
いざ言うとなると、すごく緊張する。
もし話して、引かれたり怖がられたりしたらどうしよう。そんな疑念が頭の中でずっと渦巻いてる。でも、言うと自分で決めたなら言わなくては!
「実はね、わたし…人間じゃないの。」
言ってから、とても長い時間が経ったように感じた。彼の反応が怖くて言う前から、今もずっとわたしは目を閉じて顔を伏せてしまっている。
でも彼から反応というか、声すらしなくてわたしは気になり、ゆっくりと片目を薄く開けて顔を上げた。そこには漫画のように目を点にして口をぽっかりと開けて棒立ちになった彼がいた。って言うか本当に目が点になってた。えっそれどうなってるの?
「…えとっ…人間…じゃ、ない。にんげんじゃない…えっ人間ってあの人の間って書いて人間て読む方だよね?人参とか人偏とかじゃないよね。」
「ないない。人間人間、合ってるから。」
ややこしい訂正を入れてから、わたしは恐る恐る彼に聞いた。
「…ねぇ、信じた?」
「えっマジ?本当!?マジだったら全然信じる!」
思っていたのとは異なり、彼はわたしの言う事を肯定してくれた。ってかやたら喰い気味でわたしに詰め寄って来た。ちょっと引いた。
「えっ人間じゃなかったんだ!すげぇ!人外とか初めて見た!本当にいるんだ!」
「うっうん。こわく、ないの?」
「こわくないこわくないっ!むしろ滾った。」
よく見れば彼の目は爛々と輝き、口の端から涎が垂れてた。結構引いた。
「あっ!待てよ。人外と言っても種類があるからな。正体って何なのか言える奴?」
興奮気味の彼に驚いたが、直ぐに持ち直して質問に答えた。
「あっえと…宇宙人…です」
「ハイキタ地球外生命体ーっ!」
言い切る前に彼は手を叩いてガッツポーズを取った。すごく嬉しそう。
「あっそう言えば俺ら、普通に会話してるのってテレパシー的なもの?それとも翻訳装置とか?」
「あっそれは後者」
「ハイテク文明キターっ!正直能力的な奴も捨て難いが、この際どっちでも構わん!」
また言い切る前に声を上げられた。何故かどこからか横文字が右から左へと流れていく幻覚が見えた。
「ハッ!って事は今の姿は擬態!?本来の姿は人間とは違う姿って事!?」
先程よりも興奮してきた彼から出て来た疑問はわたしが最も気にしていた事。
もしも本当の事を知られたら、もうわたしとは会いたくなくなると思って、ずっと口を閉ざしていた真実だ。でも今の彼を見て、言っちゃっても良いかなと思えた。
「うん、今のわたしの姿は装置による擬態した姿で、本来はヒト型じゃない」
「外見から人外キタコレぇ!」
一体何にそこまで興奮しているのか、わたしには理解出来なかった。でも何故だろう。ここまで話して、彼の姿に引いていたわたしだったが、今では彼のそんな姿が嬉しい。
こわかった。わたしの正体を知って、彼がどんな反応を見せるのか。もしかしたら怯えてわたしから逃げるのではないのかとさえ思った。
でもそんな事無かった。彼は人間では無い私を受け入れようとしている。その事が嬉しい。
嬉しいのだが、違う意味でちょっとこわい。
「いやぁ!実は俺今人外ものの創作にハマっててさぁ!人間とはかけ離れた肉塊系とか、某映画とかに出て来る宇宙生物とかの造形凝った奴とかさぁ!特に触手系何かが今マジでヤバい色んな意味でヤバい。粘液とか感触ぬちょぬちょしてたら本気で恋するっつうか愛せる!言葉通じない系も良いよね!言葉は通じなくとも心で通じ合っちゃうとかちょっとロマンだよね!ってか実際どんな姿なのかちょっと見せてほしいし実際今見せて!大丈夫他には絶対見せないから撮らせてほしい是非!」
全て一息で言い切り、彼はスマホを片手にわたしから距離をとっていた。多分写真を撮る為だろう。
そう言えば、わたしは彼に告白する為に呼んだのだと、今思い出した。告白前の違う告白でまさか彼の実態を告白されるとは思わなかった。
彼にこわがられる心配がなく安心したが、今わたしは告白してとても後悔していた。
「そんなカミングアウト、知らない。」
その後、告白もしたし写真も撮った。わたしの本来の姿がどんなのかは、わたしと彼だけの秘密となっている。