孤高の天才未満『雨乞いの祭り』
ぽつりぽつりと、人家が散らばっている。珊瑚礁を積み上げた石垣の奥に、赤い瓦の屋根が見える。どこの家の屋根にも獅子が乗っていて、家を大事に守っていた。
しかし、日照りは続いている。山が少なくて、川が短い地形も相まって、深刻な水不足に陥っていた。うだるような暑さのなかで、雨乞いの祭りが始まろうとしている。
透き通るような青空の下に、曲がりくねった坂道が続く。片側に広がっていた林が途切れると、眼下にエメラルドグリーンの海が広がった。押し寄せる波が崖にぶつかって、白く泡立つ。
祭りの場所では、優しく包み込むような三味線の音色が流れていた。大地を揺るがすような太鼓が、リズムを刻む。誰からともなく、自然と手をこねる。足を踏み鳴らして、人々が踊る。
その地面には、所狭しと人の顔が埋まっている。いろいろな高さの鼻があって、でこぼこしていた。裸足の足裏に、柔らかな弾力のある独特な感触が伝わってくる。
わたしは浴衣の裾を捲り上げて、ショーツを脱ぐ。祈るような気持ちで、地面にお小水をかけた。魚のように口をパクパクさせて、それを受ける人の顔からは表情が抜け落ちている。
哀れな人たち。わたしの周りで踊る人が、蔑むような目を地面に向けていた。わたしはショーツを履いて、そっと浴衣の裾を直す。
地面に埋まってしまった人たちの生命を繋ぐものは雨のみで、貴重な水は撒くことができない。だから、わたしは少しでも長く生きてほしいと思って、お小水をかけたのだ。でも、わたしに蔑む気持ちがなくても、お小水はお小水に過ぎなかった。
帰り道。透き通るような青空の下では、エメラルドグリーンの海が広がっている。日が傾きかけた頃、人々は晴れやかな笑顔を浮かべて散り散りになっていった。地面に埋まってしまった人のことなんて、思い出しもしないような表情で。
この小説を、親愛なる友人のR氏に捧ぐ。