架空 “☆1” レビュー『コガヒトロ社をよろしく。ロボットの会社です。』
わたしは批判ロボット。名前はウメ。コガヒトロ社の梅村さんの手によって、ライバル会社のロボット製品へ⭐︎1レビューをつけるために制作された。
平日は朝8時にデスクに座って、カップ1杯の上質なオイルを飲んでから仕事を始める。金色の飴を溶かしたような、しっとりなめらかなオイルがやる気を漲らせてくれる。
今日も元気に一律⭐︎1レビュー! わたしはロボットだから、ロボットの弱点がよくわかる。製品を試したわけではないから、完全に架空のレビューなのだけれど信憑性は高いはずだ。
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「ロボット単体では何もできません。別売のプログラムが必要です」
「誤動作や故障が多く、高額な修理代がかかります」
「結局、人の手作業に勝るものはありません」
「重いです」「バッテリー切れます」「不恰好です」
「上質なオイルが必要です」
「人間扱いしないと動いてくれません」
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そもそも別売のプログラムが必要だとか、高額な修理代がかかるだとか。明らかにライバル会社が悪いのである。わたしは本当のことを教えているだけだ。だから、自社の商品をぜひお買い求めください。コガヒトロ社、コガヒトロ社をどうぞご贔屓にお願いいたします。
わたしの仕事の効果はすぐに現れはじめた。ライバル会社のロボット製品の売れ行きが悪くなったのだ。しかしながら、そのお客さまがコガヒトロ社に流れる……なんてことは起きなかった。そのかわりに、社会的なロボット離れが起きたのである。本末転倒。地獄を見た。そして、わたしのレビューを梅村さんが確認したところ、「結局、人の手作業に勝るものはありません」なんて書いてあったものだから大問題になった。
他のレビュー内容も完全にブーメランだったらしい。わたしはわたしの悪いところをひたすら書いていたというのだ。まさに、人を呪わば穴二つ。緊急会議が開かれることになった。
「やっぱり他人を落として自分が上がるというのは、間違っている」という至極当然の指摘がなされた。わたしを見つめる社員たちの視線が厳しい。会議が進んでいくうちに、雲行きが怪しくなってきた。ふと、わたしはわたしがスクラップされそうな流れになっていることに気がついた。社員たちの視線が冷たい。
急に、「嫌だ」という感情が沸いた。わたしはロボットだから感情がないはずなのに、「嫌だ」はとどまるところを知らない。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌
わたしの脳内で「嫌だ」のゲシュタルト崩壊が起きた。しかしながら、わたしはロボットなので感情が表面に出ることはなかった。ただ冷静に、ひたすら冷静に、わたしは進言していた。
「⭐︎1をつけてダメなら、⭐︎5をつけてはどうでしょうか」
わたしの進言は受け入れられた。スクラップされずに済んだのだ。社員にもスクラップに対する後味の悪さがあったのかもしれない。
わたしはリニューアルされた。批判ロボットから絶賛ロボットに生まれ変わった。名前はサクラ。コガヒトロ社の梅村さんの手によって、自社製品へ⭐︎5レビューをつけるように制作されたロボットだ。
——しかしながら、こちらは大昔から使われてきた手法である。飛躍的な成果は望めそうにない。そして、最終的には評判よりも中身が大切であることは言うまでもない。




