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ATRATICA IN CAPITAL OF WATER   作者: Franz Liszt
第2章 『学園編』
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第37話 『くじ引き』


 今日はせっかくの仮装祭りということで、ジュンたちは別行動をすることにした。いつものメンバーに加え、レックスにセレス、ゼスやカイルやマルクがいた。


 その計11人の中から、5グループ(男子だけグループは3人)を作って回ろうというわけだ。

 こうなると当然、女子の人数が4人なので、熾烈(しれつ)な争いになるだろうと予想された。そこで男子と、女子がくじを引いて、そのくじに書かれた同じ番号の人と回るということになった。つまり男子は、5を引いたら男同士というわけだ。


 そして仮面の色は男子の場合、皆が共通にしていたので、誰が誰だか分かっていない。

 女子は色が違いだったため、何となく誰が誰なのか分かってしまっていたが……。


 これも面白さのためなら何でもすると豪語(ごうご)いている、ジュンの(はか)らいだった。

 つまり相手が誰なのか分からない面白という、水謝祭(アクア・アルタ)の仮装カーニヴァルの醍醐味(だいごみ)を体現しているのだ。


 そして相手と回る際も、相手が誰なのか訊いてはいけないし、また名乗ってもいけないとした。これはフィーナがプリンセスである以上、必要以上に互いに遠慮をさせないための処置でもあった。


「じゃあ、くじを引くんだ、男子諸君」


 ジュンが手に隠した紙のくじを、男どもに見せた。女子はシャーリーが仕切って、テキパキとやっている。


「いいぜ、俺からいくぜっ!」


 威勢よく一番乗りを表明したのは、レックスだと、その口調で分かってしまった。


「おい、レックス。『ぜ』は止めろ。それだとバレる」


 ジュンがそう注意すると、レックスはニッと白い歯を輝かせて、はっきりと言う――。


「あ、そうか。分かったぜ!」


 何にも分かっちゃいなかった。

 嘆息するように、ジュンとレオンとマルクがため息を()らした。


 そして――。


「げっ、5番だぜ! 最悪だぜ!」


 もうきっと、向こうの女子たちにも、あの仮面野郎が誰なのか分かってしまっていることだろう。

 気を取り直して、ジュンが次は誰だと呼びかける。

 それを遮るようにして、カイルが言った。


「馬鹿だなぁ、レックスは。こういうのは一番最初に引いたヤツが一番5を引く確率が高いんだぞ」


 皆が、コイツはやっぱり馬鹿だ、と思った瞬間だった。


「馬鹿はお前だ、カイル。確率は何番目に引こうが変わらない」


 カイルの相棒であるマルクが、勤めて冷静な声音でそう言う。こういうことには慣れているのか、一番反応が速かった。


「え? そうなの? だって、最初に引くヤツは、5が3っつあるんだぞ? それなのに次のヤツは2つになってるじゃん」

「だから、もしもレックスが5以外を引いたら、当たりの数が減るんだよ。それらを総計的に見ると、結局、みんな同じ確率で当たりとはずれを引くことになるんだ。今回は偶々(たまたま)レックスがはずれを引いたから、後の方が有利になったんだ。それにお前は、一番最初と言ったが、それは重複している。言うなら、最初か、一番初めだ」


 一息に言い切ったマルクは、どこか誇らしげである。

 しかし当のカイルはというと――。


「マルク! 長すぎて、全然言ってる意味が分かんないって」

「そうだったな、お前は一度に入る単語の量に限界があるのを忘れてた」


 (ひたい)を手で押さえながら、苦悶(くもん)の表情を浮かべるマルク。

 彼のこの姿を見て、レオンは思った。


(良かった。ジュンは少なくとも、物分りは悪くない)


 そしてこの思いは――迷惑度は変わらなそうだがな、と続く。


「何だ、レオン。言いたいことがあるのか?」

「は? 何もないぞ、言いたいことなど」


 どうして考えてることが分かったんだっ! と、レオンは激しく悶絶(もんぜつ)した。


「ふーん、ま、いっか。確かに何か臭ったんだけどなぁ~」


 さして気にしてなさそうに、ジュンがそう言うのを聴いて、レオンはまたしても内心で思うことがあるわけだ。


(コイツの嗅覚は犬以上かっ!)


 しかし考えると、コイツは妙に勘が鋭かった気がしないでもない。シックスセンスというヤツが、ジュンには有りそうだなとも思う。


「それより、次、俺が引いてもいいか?」


 そんな折、マイペース至上主義のゼスが前に出た。


「おお、いいぞいいぞ、どんどん引け引け」

「よし。……ふんっ」


 掛け声と共に、気合十分なゼスが素早く、くじを引く。別にくじを引くのに、気合も掛け声もいらないと思うのだが。

 それでもジュンには、彼のそんな態度が面白かったので良しとした。


「よっしゃぁー2だ!」


 雄たけびを上げるゼス。マイペースな彼らしからぬ態度だ。

 しかし考えようによっては、これも当然かとジュンは思った。女子と一緒になれるのだ、嬉しいに決まっている。そうでなけりゃ、パラダイス・ロストなどに参加などしないだろう。


「じゃあ、次は僕が引くよ」


 ケンジが前に出て、くじを取った。

 ジュンは先ほど、リリアの番号が4だと横目を凝らして確認していたので、ケンジにその番号を引かせてやろうかとも思っていた。声マネや、手品の類は得意中の得意なので、誤魔化すことなど容易(たやす)い。


 しかしそれは同時に、面白さを自ら(おとし)める行為でもある。なぜなら、これは公平な上でのゲームでもあるからだ。

 イカサマをしてもいいのは、相手が嫌いな場合か、絶対に負けられない場合だけ。これはそのどちらでもない。

 だからジュンは祈っておいた。


(ケンジ。勝利を掴み取れ! 勝ち取るんだっ!)


 と。

 そして――。


「やったぁ、4番だ!」


 ケンジが歓声を上げた。彼はリリアが4番など知らないだろうから、きっと純粋に女の子と組めるのが、嬉しかったのだろう。

 なんという強運。


「じゃあ、次は俺が引くよ」


 元気いっぱいに、カイルがくじを引いた。


「…………ジュン。もう一回ダメ?」

「ダメ」


 彼の番号が知れた。5だ。間違いない。


「うわーん、ジュンのばかーん!」

「気色の悪い声を出すなっ!」


 泣きながら、カイルはマルクのところに駆けていった。それをマルクは「やめろ、来るな。せめて鼻水を拭け!」などと、断固拒否の体勢を取っている。

 それを苦笑気味に見つめていたレオンが、「次、いいか?」と言ったので、ジュンはくじを持つ手を差し出した。


「3、3、3……」


 と、呟くレオン。おそらく無意識だろう。

 シャーリーが3番を取ったのを確認していたようだ。


 ――にしても、女子は隠す気さらさらねぇな。


 と、ジュンは感じた。男は仮面を統一にして、髪の毛や、服装にも気を使い、完全に誰が誰だか分からないようにしていたが、女子は違う。

 彼女らの仮面やマントは色違いで、明らかに趣向が出ている。


 シャーリーは羽根付の帽子と白の仮面に、紅のマント。

 セレスは薄いヴェールと水色のマントに、ちょっと尖った不思議な仮面。

 リリアはあまり気合が感じられない質素な仮面とピンキーハット、そしてこれまた地味な茶色のマント。

 そしてフィーナに至っては、明らかに目立つ金縁の仮面に、純白のマント。極めつけは、出掛ける際などはいつも被っているペレー帽に加え、月のように輝く長い銀の髪がうなじの辺りからちょこっと(のぞ)いている。


 ところでレオンが何番を引いたかというと――。


「……くっ、1番……」


 はずれではない。むしろ当たりだ。相手はプリンセスであるフィーナなのだから。

 しかし彼にとっては、3番以外意味を成さないらしく、ひどく悔しげな表情を浮かべている。

 結局、次のマルクが5番を引いて、余ったものを取ったジュンが3番ということになった。

 だからジュンは、面白さの欠如と、不正だと分かっていても、レオンに尋ねてしまう。


「レオン。よかったら、交換するか?」


 しかしその台詞にレオンは首を振って――


「いや、このままでいい。ブックメーカーが不正をしちゃマズイだろうが」


 と、言った。

 レオンは知っているのだ。シャーリーはジュンのことが好きだと。だからこれはきっと、シャーリーも喜ぶところなのだと。自分が邪魔をしていいわけがない、と。


(アイツは、シャーリーのことになると途端に鈍くなるからな。きっと気付いていないだろう。もしくは、俺が好きだと知っているが故に、鈍くなっているのか。どちらにせよ、シャーリーが喜ぶのなら、それでいい)


 レオンは静かに朱色の目を閉じる。


 でも――いつの日か、言おう。はっきりとシャーリーが好きだって。この優しい関係が終わることになろうとも、いつか。

 この異世界(ユーレスマリア)に来たときに、誓ったはずだ。言わない後悔より、言った後悔の方が何倍もいいはずだから……。


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