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ATRATICA IN CAPITAL OF WATER   作者: Franz Liszt
第2章 『学園編』
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第32話 『水謝祭のススメ』



 カンッ――キンッ――ガンッ!

 まだ夜が(しら)んでくる頃に、男子寮(サンタ・ガドーロ)の大庭園では乾いた音が絶え間なく鳴り響いていた。


「もういっちょ!」


 掛け声と共に繰り出されるのは、二筋(ふたすじ)剣戟(けんげき)。それは光の尾を文字通り引きながら、相手の得物へ吸い込まれてゆく。

 かなりのスピードで放たれたものの、その攻撃は相手のそれ以上に素早い切っ先の移動で見事に防がれてしまった。


「今度はこっちの番だ!」


 すぐさま防いだ方が攻勢に転じる。

 攻勢に出たのは、重量感抜群の得物を持った青年で。彼は鮮やかな金色の髪をおしげもなく揺らしていた。また彼の手に握られる大剣には彫刻の獅子の意匠。刀身からは電気特有の微弱な音が発せられており、まるで獲物を狙う獅子が興奮しているように思える。

 青年――レオンは大剣を力任せに振り下ろした。

 ガツン! ――鈍い音と共に、ガードした剣からの衝撃で、相手である少年の身体が痺れる。


「まだまだぁーっ!」


 その痺れを振りほどくかのように、雄たけびを上げる少年。少年の手には双剣が握られており、翼の彫刻が左右異なる形で施されている。

 少年は力の(こも)った大剣を自身の二本の剣で押し返し、お返しだ! とばかりに蹴りを見舞った。

 彼の鋭い蹴り込みを、レオンは身体を捻ってかわしきった。風を切る衝撃がレオンの耳朶(じだ)を刺激する。


「足癖が悪い奴だな! ジュン!」


 レオンと対峙する少年――ジューンバルトこと、ジュンの寝ている時における足癖の悪さを、レオンは嫌というほど知っている。彼の部屋が汚いのは、周知の事実だが、その汚さの半分は寝ているときに散らかしているのではないかと、レオンが密かに思っているほどだ。


「レオンこそ、こと俺との鍛錬になると、性格が変わったように饒舌(じょうぜつ)になるじゃんかっ!」


 言葉の最後でリズムを合わせ、右の剣で斬りかかったジュン。

 彼の表情はいつもの余裕そうなものであるものの、目つきの鋭さはその内に潜む真剣さを十二分(じゅうにぶん)に伝えるものだった。


「そんなことはないぞ! 俺はいつだって社交的だっ!」


 大剣の中心を巧く使って斬り込みを防ぎ、防御の体勢から瞬時に攻撃に移るレオン。彼の防御から攻撃へ移る動作は、非常に流麗で、ほとんどの無駄が感じられない。

 それでもジュンは彼の攻撃を躱したり、剣で弾いたりして耐えている。


「いやいやいや、それは有り得ないって!」


 さらに、しゃべりながら鍛錬をするとは、この連中は本当に器用である。


「何を根拠にそんなことを言ってるんだお前は!」


 ガツン! 重い金属を打ち鳴らす音がする。


「何をって、いつもの態度とかに決まってるだろ!」


 カキン――カキン――! 軽く高い音が鳴る。


「そんなわけあるかっ! 俺は少しだけしゃいなだけだっ!」


 ガキン! ぶつかりあった剣が互いに拮抗している。


「そこはしゃいじゃなくて、ヘ・タ・レ。……だろ?」


 カツン、カツン――プツン!


「…………ジュン。……いや、ジューンバルト! もう一度言ってみろっ!」


 突如として激昂(げっこう)したレオンが、彼にしては初めてと思えるような音量の声を張り上げた。


「ははっ! 何度だって言ってやるよ! ヘタレ、ヘータレ、ヘータレ!」


 それをもっと怒らせるべく挑発するジュン。


「き、貴様ぁぁーーっ!!」


 とうとう、金色の髪を逆立てたレオン。朱色の瞳が怒りで燃えているようだ。

 先の件(パラダイス・ロスト)の前哨戦? なるものがあった時より、レオンはヘタレという言葉に過剰に反応を示すようになっていた。

 それはジュンにも分かっていたので、敢えてレオンの琴線に触れることで、彼の冷静さを奪おうという、なんともセコイ手を使ったのである。

 何故にそんなセコイ手を使ったかというと、今はジュンの方が1戦勝ち越しているのが大きな要因だ。もしこの勝負に勝てば、長年に渡る戦線の中で初めて2勝の差がつくのである。ここのところは引き分けばかりだったので、いい加減にこの永きに渡る戦乱に決着を着けようと意気込んでいた。

 故にいかにセコかろうが、戦術に気を配っている場合ではなった。

 ニッと唇の端を吊り上げたジュンは、予想通りのレオンの反応に大変満足していた。


 ――しかし。


「うおぉぉぉぉぉっっ!!」


 狂ったような叫び声と共に、連打連撃の雨あられが、そこにはあった。

 確かにこれを狙っていたのは間違いない。体力切れ、もしくは集中力散漫を招きたかったのだ。

 となれば、この状況はまさにジュンの望んだとおりのものだったはず。


 しかし。しかしだ。


 この一向に止む気配のない連続攻撃は、どうしたものだろうか。息をつく間もないし、呼吸すらままならない。

 かれこれすでに、100ほどは打ち込まれている気がしてくる。

 しかも一撃一撃がとてつもなく重い上、振り下ろされるスピードもいつもの数割り増しになっている気もする。


(いったいこれは何なんだぁ!)


 頭の中でシミュレートしていた展開と、現実は全然違う。

 そんなジュンの余分な思考の隙を突いた――いや、突いたかどうかは疑問だが――鋭い袈裟斬りは、双剣の両方を使って何とか防いだものの、体勢がなっていなかったので、ジュンは勢いを殺しきれず、後ろまでぶっ飛ばされてしまった。

 地面を転がりながら、体勢を戻し、恨み言を述べる。


「いっつぅー! あんにゃろぉ! あいっかわらず、なんつー馬鹿力だ!」


 思わずボヤクが、それすらも遮るようにレオンの猛攻が押し寄せた。


「おおおおおぉぉぉぉっっっ!!!」

「ぐぅ!」


 骨が(きし)みそうだ。

 これ以上は、本当にマズイかもしれないとジュンは思った。


「ま、待ったレオン! 参った! だから落ち着けって!」


 思い立ったら早いジュンは足に力を込め、後ろへ飛び去ってから、すかさず降参のポーズを取る。

 しかし――


「俺はヘタレじゃない。ヘタレなんかじゃないんだ! 否だ。断じて否ぁ!」

「き、聞こえてない……?」


 野獣のように走り寄ってくる金色の青年に、ジュンは大慌てで起き上がり、そのまま突っ走りにかかった。


 ――こんな体力馬鹿、馬鹿力とまともにやってたら、ぜってぇー殺されるって!

 敵に卑怯な手段を用いた上、敗走など格好の悪いことこの上ないが、それでも命には代えられない。

 神への信仰心が限りなく希薄なジュンでもこの時ばかりは、自分の足がレオンより速かったことに、本当に感謝したものだった。

 これからはもっと感謝の心を忘れないでいようと誓った、とある朝の光景だ。





 オールが音もなく水を切り、その推進力でゴンドラが突き進む。

 朝の新鮮且つ冷たく張り詰めた空気が、王都全体を包み込んでいる。


「ふぅ、俺たちってだいぶ巧くなったよな?」

「……え? ……あぁ、ゴンドラのこと?」

「そうそう。もう優勝いけちゃうんじゃないか?」

「う~ん、どうかな。確かに速くなったけど、実際にレースの練習をしたわけじゃないし」


 ゴンドラの上ではジュンとフィーナが話しこんでいた。

 そんな彼らの話題は11月に行われる舟漕奏(ヴォーロンガ)のことだ。


「そうよ。それに私たちって明らかに速いけど、優雅さがたりないし」


 シャーリーがあまり漕ぎもせず、反論してきた。後ろでひとつに(まと)められたピンクの髪が、風に揺られ前方へなびき、香水の甘く良い香りがほどよくジュンの鼻腔(びこう)をくすぐる。

 香りはジュンの好きな柑橘系のもの。今日は向かい風で嫌気がさしていたが、その香りを嗅げた事は少しの役得だと思われた。


「うっせ。それよりシャーリーもちゃんと漕げよ!」


 顔をシャーリーへ向けることで思考を切り替え、ジュンは漕がない彼女に文句を言ってやった。

 しかしあのピンクポニーが素直に「うん」と言うはずもなく、


「へぇ。ジュンってば、こんなか弱い美少女を捕まえて、そぉんなこと言うんだ?」


 腰に手を当て、完全に漕ぐ気無し! と態度で示してきた。

 しかも自分で美少女って……。


「お前……自分で美・少女☆ と称するとは、すっげぇ自信だな!」


 呆れた声でツッコミを入れるジュン。

 ――思わず変な文字まで入れちまったぜ。


「いぃーだ! だって漕ぎたくないんだもん。それになんかイントネーションがキモイ」

「うっせーぞ! 美(笑)女よ!」


 キモイなどと、荒唐無稽(こうとうむけい)事実無根(じじつむこん)なことをのたまうポニーに遠慮などする必要もない。

 括弧の部分すらもはっきりと言ってやった。


「くぅ……っ! そこまで言ったんだから、絶対に漕がないんだから! せいぜい大変な思いをしなさい!」

「くっ」


 思わず(うめ)いてしまう。確かにゴンドラを漕ぐのは、けっこう大変だった。

 本来、オールを()ぐための力をそれほど必要としているわけではないが、朝の眠気の残るこの時間に漕ぐとなれば(しかも今日はレオンに追いかけられて、いつもの鍛錬以上に疲れている身体では)話は別で。

 最初の頃は、それすら楽しさで誤魔化していたが、最近ではどうにも漕ぐのが少し面倒になっていたのだ。

 実際にシャーリーの他に、フィーナや、そして新入りのリリア、男のくせにケンジも――彼は睡眠中――あまり漕いでおらず。

 ゴンドラが進むためのエネルギーを与えているのは、ほぼジュンとレオンの二人だけだった。


「本当に毎日、ジュンたちは元気」

「……はぁ。お前らときたら……朝から元気だな」


 ついにはレオンとリリアが、会話に加わった。リリアは読書をしておりサボタージュ中だったが、レオンのしっかりとオールを漕ぐ姿はとても頼もしい。

 力はあまりジャンルではないジュンなので、レオンの存在がなければ、ゴンドラが今のような速さで進む事は有り得ないことだろう。


 ほどなくして、あの豪快ながら繊細な美を損なわず、厳かに存在する校門が見えてきた。上部に備え付けられた時計を見やるに、結構時間がヤバイ。そのためか、魔方陣から中へ入る生徒と、ゴンドラで入る生徒。その両方で入り口はごった返し、かなり混雑しているようだった。


 ゴンドラから降りたジュンたちは、ゴンドリア(ゴンドラを収納するラルクリア)で相棒(ゴンドラ)を仕舞い、裏道というか抜け道的なところを通って教室へ向かった。

 こういうところを日頃から調べておくと、非常に便利なのだ。といってもジュンは元の世界でも学校を抜け出すのに、色々な場所を念入りにチェックしていたので、ちょっとした癖みたいなものでもあった。


「よっ!」


 教室へ向かっている途中、バシッと背中を叩かれ背後から声を掛けられた。

 ジュンがそちらへ目を向ける。そこには予想通り、特徴的な緑の髪に白い歯が光り、『ぜ』を語尾に付けるのが癖の彼とその仲間たちがいた。


「おはよ、レックス。それにゼスたちも」

「ああ、オハー、ジュンたち」


 朝からマイペースなゼスが答える。

 レックスの後ろには、彼と同じ舟漕奏(ヴォーロンガ)メンバーであるゼス、カイル、マルクが揃っている。

 彼らと口々に挨拶を交わし、共に教室へ向かう。


「そういや、レックスたちって舟漕奏(ヴォーロンガ)4人で出るのか?」


 ジュンがそう尋ねると、レックスは「違うぜ」と首を振り、


「あのセレス先輩とダリルを誘ったから、計6人なんだぜ」


 と言った。

 ダリル――ダリル・マッカーサーとは、先の事件『パラダイム・ロスト』の際の構成メンバーの一人で。ダークホース的な活躍を見せた下級生だ。

 彼は自らの性欲のためならば、あらゆる障害を乗り越える強さを持っている。

 そんなダリルと、あのセレス先輩が加わるとは……かなり厄介だな、とジュンは思った。


「でも、それならどうして一緒に来てないんだ?」


 辺りを見ても、セレスとダリルの姿はどこにも見当たらない。


「それはっすね。あの2人は、朝帰りだから出るのが早いんっすよ」


 カイルが満面の笑みで、意味不明な事を言ってきた。


「それを言うなら、早起きで朝立ち、だ」


 それをすかさずフォローするマルク。

 カイルの言っている事は、時々マルクにしか分からなくなるので、困ったものだ。


「おお! そうとも言うっす! 朝勃ちっすね! さすがマルク!」

「全くお前というヤツは。漢字が間違っているぞ。それだと、いろいろと面倒なことになって、もっと朝が遅くなるだろ」


 またもいきなり意味不明な会話を始められた。より高度な次元で。

 カイルの言っている漢字の変換が、マルクには分かるのだろうか……。

 それは甚だ疑問であるが、言及しないでおこう。


「そっか! やっぱりマルクはすごいっす!」


 なんたって、褒められ、満更でもない表情のマルクを見て。


(まあ、カイル本人とマルクがいいのなら、それでいいのかもな)


 とジュンは思ったから。

 意味なんて、他人がどうこう言うものではない。

 きっと、分かってくれる誰かが、唯の一人でもいてくれれば、それだけで十分なのだ。真実、そう思う。


「でもさ、もう舟漕奏(ヴォーロンガ)の事を考えてるなんて、ちょっと早過ぎだぜ?」


 ジュンがぼうっと思考していると、レックスが半眼になってそんな事を言ってくる。

 しばし早いと言われた理由を考えてみるも、そういや何かあったなあ、ぐらいにしか頭の中に浮かんでこない。

 はっきり言ってホームルームにおける先生の話などは、あまり聞いていなかったジュンは行事の把握には疎かった。正直、仲間達の誰かが知っているだろうし、フィーナがいるから絶対に何かあれば教えてくれるだろうと思っていたのだ。


「もうじきね、水謝祭(アクア・アルタ)があるんだよ」


 不思議そうな表情を貼り付けた彼を見かねて、やはりフィーナが教えてくれた。

 ジュンの記憶の中にも、水謝祭(アクア・アルタ)という言葉には聞き覚えがあったので。


「……あぁ!」


 ポンと手を打つ。

 どうやらフィーナの癖がうつってしまったようだ。


「確か7月20日と21日にやるお祭りだっけ?」

「そうそう、それそれ」


 大きくフィーナが頷くのを確認してから、さらに尋ねる。


「俺たちって何かするのか?」


 学園祭は別にあるとも言っていたし、これはお祭りだとも言っていたので、自分たち学生の身分が何をするのか? と思ったのである。

 するとフィーナは「20日は何もないかな」と首を振り、


「だけど、出店とかを出す大人たちの中には、エルデの生徒の親も多いから。必然的に手伝うって人も多いの。それに一応、このアトラティカ王国で一番大きいイベントの1つだから、観光客も大勢来て、かなり盛り上がるんだよ」

「なるほど、そりゃいいな」

「あとね。20日と21日じゃ、やることも全然違うから、一粒で二度おいしいって感じなんだよ」


 と、フィーナは懇切丁寧(こんせつ)に説明した。だが内容は不明だ。


「へぇ~、それは楽しみだなぁ~」


 シャーリーがグイって顔をフィーナの前へ出しながら、本当に楽しみでしかたない! という表情を浮かべている。


「で、具体的にどんなことをやるんだ?」


 彼女に興味があることは、レオンも興味があるようで。

 ごく自然に疑問を(てい)してきた。


「ええとね。……パフェ、ケーキ、クレープに、コンポート、グラニータでしょ、それにティラミスやパイのお店とか……あ、ジェラートのお店とかも出てて。特にアフォガートはすっごくおススメ。でもでも、ドルチェのカッサータも捨てがたいんだよね。リコッタチーズの甘みが絶妙なの。……オホン。という感じで一日かけて、こういった出店を回るんだよ」


 フィーナ姫がすぐさま出店の列挙を始める。

 しかし明らかに(かたよ)りがあって。肝心の何をやるのかの部分が非常に微妙であり、さらには食べ物屋ばかりが挙げられていたような気がする。

 まあ、フィーナ自身も甘いものには目が無いと言っていたので、それほど意外なことではないのだが。

 彼女なら当日、本当に食べ物の店ばかりを回っていそうである。途中で、わざとらしく咳払いなどしていたのが尚更怪しい。いくら可愛いらしい咳払いだったとしても、怪しいものは怪しかった。


「フィーナってホントに甘い物好きなんだな……うぷっ」


 甘い物は嫌いではないが、あんなにたくさん挙げられたスイーツを持ち前の想像力で、緻密(ちみつ)に想像してしまったジュンは、思わず吐きそうになりながら言葉を吐き出した。

 まずい、本当に吐きそうだ……。


「ちょっとジュン! 汚いから、あっち向いてよ!」


 シャーリーの方を向きながら、吐き出しそうなポーズを取っていたため、そう注意されてしまう。


「汚いってなんだよ、シャーリー!」

「汚いのは汚いのよ!」


 すぐさまムキになって言い争いを始める二人。すっかりジュンの吐き気は収まっていた。


「お、落ち着いて二人とも! ……ジュン、気持ちが悪いなら、私がさすってあげるから。こっちにおいで」


 優しい声音で「おいで」などと言われ、手招きなどされたら、何故だか分からないが、行かないわけにはいかない! とジュンは思い。

 そのまま彼女の下へ寄って行こうとしたが――


「そんなの駄目! ジュン! やっぱりアンタはこっちを向いてなさい!」


 と、シャーリーが強引に腕を引っ張ってきた。


「うわっ、ちょ、シャーリー! 何するんだよ、さっきは向くなって言ってただろ! うぷっ」


 勢いよく引っ張られ、またも吐き気を催した。


「そうだよ! シャーリーが汚いって言うから、私がこっちにおいでって言ったのに……」

「そ、それはそうだけど……やっぱり気が変わったの!」


 顔を真っ赤に染めたシャーリーにそう言われては敵わないと、ジュンは彼女の為すがまま引き()られてゆく。

 しかしそうなると、フィーナも黙ってはいないようで。


「そんなのなしだよ! ジュンはこっちに来たいって言ってるんだから!」


 フィーナがシャーリーとは別の方の腕を取り、引っ張り始めた。


「はぁ! 違うでしょ! 別にそんなこと言ってないわよ、ジュンは!」


 “は!”のところで一気に力を込めるシャーリー。

 すぐさま、彼女に負けじ! とフィーナも力を込める。

 こうして、ジュンは二人の力で左右に引っ張られることとなり――。


「イタッ! 痛いって! お前らやめろって!」


 ジュンが(たま)らず悲鳴を上げるも――


「アンタは黙ってなさい!」

「ジュンは黙ってて!」


 と、こんな時だけ息ピッタリの二人に、大声でどやされてしまい。


「は、はい……」


 あえなく轟沈(ごうちん)

 結局、水謝祭(アクア・アルタ)のことはあまり聞けなかった。





次回から水謝祭(アクア・アルタ)の話が始まりますが。

イタリアで行われるカーニヴァルのように思っていただければ幸いです。


ではでは~


     焼肉をダチと食べに行き、食いすぎて少し気持ちが悪いFranzより

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