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ATRATICA IN CAPITAL OF WATER   作者: Franz Liszt
第2章 『学園編』
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第30話 『タッグバトル・トーナメント! ③』

 


 試合を終えたジュンたちはコートから降りたところで、さっそくたくさんの生徒たちに囲まれた。


「すごかったよ!」

「やっぱ強えーな!」

「カッコよかったぁー!」

「いい試合をサンキュー!」


 などと口々に賞賛が浴びせられたのだ。


「いやぁ、それほどでもぉ」


 満更でもない顔つきのジュンだったが、少し照れ気味のようで。


「でしょー、俺らいい勝負だったでしょ」


 ゼスは相変わらずマイペースで。


「それは良かった。頑張った甲斐がある」


 レオンが真面目に答えて。


「次こそは負けないぜ! お前ら!」


 レックスはすでに、もう次のことを考えていて。

 しかしながら総じて、皆が満足げな表情だった。

 そんな中で、ジュンとレオンに近づく存在が。彼女の存在を認めると、生徒たちはすぐさま道を開いていった。まるで海が割れるような光景であった。


「約束通り、勝ってきたよ」


 ジュンはそうその存在に言い掛けた。ニッと、得意げに笑むことも忘れない。


「うん。お疲れ様。二人ともすごかったよー!」


 その存在――フィーナもニッコリと微笑んだ。それでも彼女の蒼き瞳の奥には、若干の悲しみの色があって。

 だからジュンは彼女に近づき、その頭をポンポンと叩いてやった。普通ならプリンセスにそんなことをやったらクラスメイトが驚くものだが、このような光景をすでに何度も見てきた彼らは気にしない。

 遠慮なんてものを知らないジュンと。まるで子猫のように、気持ち良さそうに身を委ねているフィーナ。


 そんな時――、


「でも、もっとビシッと勝ちなさいよ。ビシッと!」


 シャーリーがどしっと登場した。

 彼女は言葉ではそう言うものの、表情は嬉しそうで。ピンクのポニーも、主人の意思に呼応するかのように楽しげに揺れていた。


「それはすまなかった、シャーリー。俺もまだまだ修行が足りないようだ」


 レオンがすまなそうに頭を下げると、シャーリーは慌てて首を振る。


「いやいやレオンはけっこう完勝って感じだったじゃない。レックスを全く寄せ付けずって感じで」

「そ……そうかな」

「そうよ、レオンは、は! カッコよかったんだから」


 その言葉を聴いたレオンは一瞬にして、茹蛸(ゆでだこ)のように真っ赤になって。

 俯き加減に――。


「……ありがとう」

「う、うん。どういたまして」


 何ともギコチない二人だった。

 でもどこか良い雰囲気で。


「ちょっと待てい! それじゃあ何かぁ! ビシッと勝てずカッコ悪かったのって、もしかして俺のことかよ! それに『は!』って繰り返すな! このピンクポニー!」


 はい。邪魔者(ジュン)が乱入し、シャーリーが言い返し、一気に雰囲気台無し。

 だからお前は空気読めよ! とギャラリーは思ってしまう。

 しかし当の本人たちは楽しそうに笑い合っている。そんな彼らを見ているうちに、ギャラリーも自然と自分たちの顔が綻んでゆくのを感じたのだった。





「これより真・ファイナルを開催するとしようぜ! みんな準備はいいかぁ!?」

「「「「いいともぉー!」」」」

 

 審判役のレックスが声を張り上げると、会場中から同じ声が上がりたちまち静寂に包まれていた闘技場を騒がしくした。レックスの陽気で明るい長所が、満遍なく発揮されている。

 ところで真・ファイナルの相手だが。ジュンがクラスメイトに聞いたところ、結局『カイル&マルク』ペアは、『キーファンス&エルシュリアン』ペアに及ばず敗退してしまったらしい。


 そしてジュンはその内容を聞いて、激怒した。


 マルクはキーファンスとやっていたため腕試しのような感じで終わってしまったらしいが、酷いのはもう一方で。

 すでに魔装(エイン・シェル)が縮小され、毒で苦しみ地面に横たわるカイルをエルシュ(エルシュリアン)が蹴り飛ばしたそうなのだ。すでに魔装(エイン・シェル)は縮小され、明らかに勝負は着いていたのに。

 試合後キーファンスがエルシュに厳重注意し、カイルへレスキュリア(救護用のラルクリア) を使ってから、飛ぶようにして保健室へ連れて行ったらしい。


「レオン。俺――」


 ジュンがすぐ隣にいるレオンへ向け、何かを言おうとする。

 それを遮るようにして、


「分かった。俺が何としてもキーファンス先生を止めておく」


 と、何もかも了解したような口ぶりで言葉を零した。


「サンキュ。エルシュのヤツを速攻で潰してそっち行くから」


 こちらも金色の青年がどう答えるかを、あたかも最初から知っていたようにすばやい反応。

 ジュンは双剣の柄をギュッと痛いほどに強く握り締める。彼の表情はいつもの余裕そうなものではなく、怒りで漆黒の瞳を(たぎ)らせていた。

 そんなジュンの姿を、レオンは一瞥(いちべつ)して。


「だが、ジュン。冷静に挑め。油断はするな。このことだけは覚えておけ」


 ――やっぱりレオンは最も信頼できる相棒だ。

 素直にそう感じた。口では絶対に言えないが。

 自分が突っ走りそうになるのを、必ず止めてくれる。

 だから――俺は安心して突っ走れるんだ。


「ああ。分かってるって」


 すごく感謝しているはずなのに、出てくる言葉は軽口ばかり。

 しかし――。


「絶対だぞ? お前が怪我すると悲しむヤツがいる。そのことを覚えておけよ」


 レオンの目を細め真剣そのものの顔つきに、ジュンも気持ちを引き締める。ジュンの視界の隅に、フィーナとシャーリーが映った。

 ――そうだった。俺が怪我すると、悲しむヤツがいるんだった。


「分かったよ。油断せず、全力を持ってエルシュを瞬殺してくる」

「だからそれが油断だと――」


 途中まで言葉にしたが、ジュンの鋭利な刃物を感じさせる顔つきに、レオンは何かを悟ったようで。

 最後までの言葉を飲み込んだ。


「行こう、レオン」

「ああ、そうだな」


 ジュンとレオンは二人そろって選手待機の場所から出て、舞台の上へ登っていった。




 大歓声に包まれる中、ジュンとレオンが舞台の上に姿を現した。この時のジュンの顔つきは、やはりいつものように、どこか余裕を(たた)えたものであった。

 すでにキーファンスとエルシュも、ジュンたちとは対面の場所に待機していた。


 緩やかな風に流れる金髪を、エルシュは優雅な仕草で掻き揚げる。

 エルシュは自身の力を、平民どもが見くびっている事を前々から重々承知していた。だから“思い知らせてやった”。ただそれだけなのに、何故貴族である自分が注意されねばならないのか……理解に苦しむ。

 自分の横に立つ教師も、傭兵だか冒険者だか知らないが、所詮は凡庸な平民なのだと実感する。

 幼き頃から英才教育と貴族教育を受けて育ったエルシュは、非常に自尊心(プライド)が高く偏見も人一倍強かった。


 ――貴族でないものなど、そこら辺に生えている雑草と大差ない。

 これがエルシュの考えで。

 またエルシュには歪んだ性質があった。彼は人が苦しむ様子を眺めるのが、どうしようもないほどに大好きだったのだ。それ故に、地面でもがき苦しむカイルの姿を見て、嗜虐心(しぎゃくしん)が大いに刺激され、ついつい蹴ってしまった。

 “思い知らせる”という意味とは別に、そんな事情が含まれていたのである。


 そして次の相手である“あの連中”は、先ほどよりももっと痛めつけてやらねばならない……。

 なぜなら平民の分際で、この国で最も気品に溢れ、優雅で気高い王族である、素晴らしいプリンセス――彼女の周りを、その汚らしい姿でうろついているのだから。

 そして奴らのせいで、プリンセスの顔色が近頃良いのも問題だ。

 エルシュは、フィーナの孤独で悲しげな表情を見るのが一番好きだった。あの表情を見るだけで背筋がこう、ゾクゾクってするのである。それをあの連中は奪い去った。許せるわけがない。

 ――特にあの黒髪のアイツ。ジューンバルト・ソリドール。俺に気安く声を掛けてきた愚か者。ヤツがいるせいで……。


「先生。私の相手はジューンバルトでお願いします」


 エルシュは、何か思案顔のキーファンスへそう進言する。

 声に気づいて、キーファンスは一瞬(いぶか)しむ視線をエルシュへ送るも、


「いいだろう。ジューンバルトはお前が相手をしろ。俺はレオンの相手をする」


 と、肯定の意を示した。


「だが、今回は俺がフォローできるか、正直分からん。一人で相手をできるか?」


 レオン・メイクラフトは生徒の中でも、ジューンバルトと並びかなり優秀だ。あの二人はすでに2年生ながら、おそらく3年相手でも引けを取らないだろう。キーファンスでも手加減の度合いを誤れば、負ける可能性だってある。


「できますとも。それとも先生は、貴族であるこの私が負けるとでも?」


 強気なことはいいことだが、それは実力に裏づけされていなければ、ただのホラである。

 エルシュリアンは素質としては、悪くないものを持っていた。属性との相性がいいのだろう。だが、彼には決定的に努力が足りなかったり、相手を見下したりする傾向がある。


(果たしてエルシュリアン・エクサスに、あのジューンバルトの相手が務まるだろうか……)


 このキーファンスの自問には、すでに彼自身、答えを持っていて。つまりこれは自問自答となんら変わりない。

 よって先ほどのように、試合の条件を無視した反則に近しい行為がないようにと、再度注意しようかとも考えたが、その必要もないかという結論に思い至った。

 銃身(バレル)の調子を確かめ、試合開始の瞬間をキーファンスは待つ。


「二人とも、絶対に優勝してねぇー! あ、でも、怪我には気をつけてー!」

「分かってると思うけど! 今度こそ二人で圧倒的に、ビシッと、余裕で、カッコよく勝ってきなさい!」


 フィーナとシャーリーの非常に透き通ったソプラノ声が、彼女らと離れた場所に立っているジュンの耳に聞こえてきた。

 彼女らの高く透き通った声は、非常に際立つ。それがたとえ大観衆の中であっても。にしてもシャーリーさんは注文が多いですね。

 しかしジュンはニッと唇の端を吊り上げながら、


「りょーかい! ビシッと決めてくる! な、レオン?」


 と器用に尋ねる。


「無論だ。カッコよく勝つぞ、ジュン」


 それに一つ大きく頷くレオン。シャーリーに応援され、俄然やる気になったようだ。意外と、単純なヤツなのである。


「ははっ、カッコよく勝つって……お前こそ油断すんなよ?」

「その言葉、そっくりそのままお前に返すとしよう」


 言って、レオンも不敵な笑みをその彫りの深い顔に刻み、ジュンを見やった。


「いらないね。もうバッチリよ」

「ふっ、そのようだな」


 心の中でレオンは安堵を覚える。

 レオンは先ほど、ジュンが怪我をすると悲しむヤツがいると言ったが、それだけではなかったようだ。彼自身がいつものジュンでいて欲しかったという事こそが、あのように言った、最大の理由だったのかもしれない。

 しかしあの言葉の本当の意味を、ジュンに悟られるようなヘマをレオンはしないはずで、またしてはならない。


 ――俺とアイツの関係は、そんなのじゃないからな。


 いつだって、対等な位置で。互いを高め合うのが、ジュンとレオンの、強敵と書いてトモと読む関係だった。


「両チーム。用意はいいか?」


 レフリーであるレックスの声に反応し、ジュンは気をより一層引き締め、臨戦態勢に入った。

 隣にいるレオンの気配も、完全に戦闘モードへ突入したことを肌で感じる。


 深呼吸を一度して、万全を期した。

 左足を下げ、右足を前に、腕を左に下ろし、切っ先を正面下に下げ。ゆったりと構える。自身のスピードを最大限に活かせる構え。


 あくまでも頭脳は剃刀(かみそり)のように鋭く冷静に、そして身体は業火のように激しく熱烈に。


「では――」


 レックスの声と共に振り上げられる、彼の右手をジッと見つめ――。


「――はじめっ!」


 右手が振り下ろされた瞬間――ジュンはあらゆるものを置き去りにして、黒き残像を残すほどの速さへと加速した。

 それでも首はしっかりと固定され、黒い瞳の焦点は、エルシュをずっと捉えて離さない。

 瞬く間にエルシュとの距離が詰まる。

 途中、キーファンスがこちらへ牽制の一発を放とうと銃を構えるのを視界の隅に確認したが、すぐさまレオンの気配を感じ取り断念(だんねん)

 エルシュへ視線を戻した。


「はっ、いくら速くても私には関係ないんだよ! PoisomicポイズミックDustダスト!」


 自身の魔装である『鉤爪』を地面に突き立て、傲慢(ごうまん)な微笑を洩らすエルシュ。

 彼の思念技(アイディ・スキル)が発動し、突き立てられた鉤爪によって弾き飛ばされた砂の粒子が毒気を帯びる。

 その毒砂(ポイズミック・ダスト)はエルシュの周囲に壁のように展開し、また地中を侵食することで、ジュンが走り寄る地面にさえ毒を与えた。これによって数秒の間は、この地を踏みしめると毒に侵されることとなる。


「それがどうしたっ!」


 だがエルシュの思念技(アイディ・スキル)に対して、ジュンは依然として余裕の笑みを傲然(ごうぜん)と垂らし、毒に侵されていない端の地を蹴って、宙に跳んだ。

 だが――。


「はっ、馬鹿がぁ! 空中では貴様は身動き取れまい!」


 そう言ってエルシュが宙を舞うジュンへ、もう1つの思念技を放つ。


PoisonポイズンArrowアロー!」


 エルシュの思念に応え、鉤爪に仕込まれた矢が毒気を帯びながら飛び出す。矢自体のスピードはそんなに速くないものの、その軌道は正確にジュンを捉えていた。

 速くないのならば斬り捨てればいいと思うが、そうはできない。何故ならエルシュの属性『毒』におけるあの思念技(アイディ・スキル)は、矢を斬った直後、辺りに飛び散るものだ。

 もし毒を浴びれば強制的にセイフティ・コアが反応し、まだやれるにも関わらず、そこで敗退となってしまう可能性もある。そんな危ない賭けをしたくはないし、すべきでない。余裕で勝つと約束したのだ。


 だからジュンは(くう)を斬った。月のように弧を描く光の軌跡が、何もない空間にくっきりと浮かび上がる。

 斬った反動によって体制を変え、下へ(かが)むことで矢を(かわ)し地面へと降りてゆく。


 しかし地面は毒に犯されているため、ジュンは着地することはなく左の剣を地へ突き刺し、身体をバネのようにしならせ、再び前方へ跳躍した。

 跳躍の瞬間、見もせずに手首だけ動かし、右の剣で的確にある場所を切り上げた。ある場所とは、柄にあるダイアモンドが鈍く輝く左剣、その(つば)にあしらわれた翼の彫刻のことだ。これに引っ掛けるようにして、左の剣を上へ跳ね上げる。

 そして跳ね上がるとほぼ同時に彼は左手を伸ばし、宙を舞う剣を見事に掴み取った。

 完璧なまでのボディバランスと重心移動、そして正確無比な切っ先の把握によって完成する曲技にして妙技だ。


「お前なんかに絶対負けるかよっ!」


 劇団員さながらの動きで、エルシュの場所まで到達したジュンは、叫び声を放ちながら右の剣で袈裟斬(けさぎ)り。圧倒的な速さで振られたそれは、光の尾を引き()りながら、いとも簡単に渦巻く毒の砂塵を吹き飛ばす。

 砂塵を突き抜けてきた右の剣戟(けんげき)を、エルシュが両の鉤爪でどうにか受け止めると、その直後に胸を串刺しにしようと左の剣が唸りを上げた。

 それをエルシュは後ろへ跳ぶことで必死に避ける。しかし完全には(かわ)し切れず、彼の(まと)った体操着が裂け、白い生地に赤黒い血が(にじ)んだ。

 自らを傷つけたジューンバルトに激しい怒りを覚えながらも、エルシュは何とか自分を落ち着かせ、彼の追撃に備えた。


 しかしジュンはエルシュを追わず、時間が経ち毒気の抜けた大地に悠然と立ち尽くし――。

 二本の剣を正眼に構え――これで決める!


 ――トン。


 踏み込みの音が、(ただ)の1つだけ鳴った。

 エルシュは鋭い踏み込みから放たれた二条の突きに対し、手をクロスさせ、鉤爪(かぎづめ)(はさ)みこむようにそれをガードする。確かにガードした。


 しかし――。

 バチッと閃光が弾け、セイフティ・コアが発動された。

 ジュンとエルシュは互いに弾き飛ばされ、強制的に距離を取らされる。


「なぜだ! どうして私の負けなのだ!」


 悲痛な叫び声をあげるエルシュ。

 叫ぶ彼の血が(たぎ)ったような視線の先には、自身の魔装(エイン・シェル)である『鉤爪』が。鉤爪はすでに縮小され、元の紫色の物体に戻っていた。

 つまり彼は、ジュンに負けたということだ。


「よく見ることだな。自分の服装を」


 ジュンはエルシュを見下し、そう指摘する。

 急いでエルシュが視線を動かすと、そこには穴があった。彼の体操着に、四つの穴がポッカリと空いていたのだ。


「ば、馬鹿な。三段突きだと!? 有り得ない!」


 確かに、踏み込みの音は一度しか鳴らなかった。

 しかし実際は、一度の踏み込みの音が鳴る間に、既にジュンは三度の突き――つまり双剣なので計六発の突きを放っており。

 即ち目にも留まらぬ速さで、一度目の突きを防いだと思い安心していたエルシュへ、さらなる突きを加えていたのである。


 ――神速の突き。

 その突きの速さは、二度目の突きがエルシュの体操着に当たった際、それを致命傷だと判断したコアが即座に2人の距離を離したが、それでも間に合わず三度目の接触を許していたほど。

 またこの突きは、かつてピースランドで学んだ、新撰組という組織内の沖田総司なる人物が使ったとされる三段突きだった。

 ジュンはこの三段突きを前々から修練し、会得していたのだ。


「だが、これが現実だ」


 黒髪を揺らした彼は、心底つまらなそうに呟きを残し、エルシュに背を向ける。結局、ジュンは一度も思念技(アイディ・スキル)を使用しなかった。

 これがビシッと、余裕で勝つ――このことの何よりの証明。カッコいいかどうかは知らないが、この際ジュンにとってどうでも良かった。


 黒髪を風になびかせ、すごい速さで向かう先には――約束通り、奮闘してくれているレオンがいた。

 押されてはいるものの、決して負けているわけではなく、必死でキーファンスに喰らい付くレオンの姿があった。

 故に、ジュンは疾走しながら、彼の名を呼ぶ。


「レオン! 待たせたっ!」


 叫ぶことでキーファンスの注意を一瞬でも引こうと目論(もくろ)んでいたのだが、彼はニッと笑んだだけで視線はレオンへ向いたままだった。

 そしてレオンも、キーファンスと同じように、本当に小さな微笑を口に浮かべ、


「遅いぞっ、ジュン!」


 と力強く言い――。


再創造(リクリエイション)!」


 大剣を脳裏に描きながら、唱えた。

 瞬間的に雷光が発生し、レオンの握っていた長剣が大剣へと変貌(へんぼう)を遂げる。

 ジュンがいない間は、身軽なキーファンス相手に大剣では分が悪すぎるためできなかったが、彼が来た今は別であった。


 本来的に自身の力を最も活かせる、大剣へのチェンジが心置きなくできるのだ。


「……やはりエルシュリアンでは話にならなかったか」


 ぼそぼそっとキーファンスが呟き、風のように走りくるジューンバルトへ右目の視線を割り当てる。

 しかし同時に、左目の視線は相変わらずレオンを捉えており、本当に器用な人のようだ。何というか、戦いなれているという言葉が一番しっくりきそうな印象だった。


「エルシュリアン・エクサス――ここでリタイアだぜ!」


 審判であるレックスが、エルシュの敗退を宣言した。


 沸き立つ闘技場(コロッセオ)

 いよいよトーナメントは、最終局面を迎える。



次でこのトーナメントは終わります。色々とおかしな箇所があると思うので、教えていただけたら幸いです。


将棋道場で負けまくり、1級から落っこちそうになっている、テスト週間なFranzより>勉強しろよ!


ではでは~


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