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ATRATICA IN CAPITAL OF WATER   作者: Franz Liszt
第2章 『学園編』
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第28話 『タッグバトル・トーナメント! ①』 



「ではこれより、この授業最初の実践形式の試合を執り行う! 我が愛しい弟子たちよ、日頃の練磨の成果を思う存分に発揮し、より高みを目指せ! いいなっ!」

「「「はいっ!」」」


 大声で叫ぶキーファンスに、生徒たちがこれまた大きな声で返事をする。


「ではいつも通り、準備運動から! 散開!」


 ここは闘技場(コロッセオ)で、今は実践の最中だった。


「よっしゃぁー! ついに来ました本番試合! 俺はこの日を待っていたぁ!」


 体操着姿のジュンは他の生徒たちと距離をとりながら、独り言を洩らし、手をガッツポーズの形をとっていた。


 季節は7月に入り、元のピースランドでは夏という季節の頃だ。ピースランドの夏の季節はとても暑かったが、この異世界(ユーレスマリア)では……いや、このアトラティカ王国では気候の変動は特にない。

 だから今日も(うら)らかな、春のような陽気に包まれている。


 またこの頃になると、2年生であるジュンたちは基礎訓練を終えており、より実践に近い形式の『実践』。そういう授業を受けるようになるカリキュラムを、エルデ(学園)は採っていた。

 こうなるとジュンたち異世界組みが、まだほんの数ヶ月しか魔装(エイン・シェル)魔法杖エイン・ロッドの訓練をしたことないのが色々と問題ありそうだと思われた。

 しかし彼らは元々の能力の高さと、個人の努力によって他の学生と遜色(そんしょく)ないばかりか、上級生レベルにまで力をつけていたので別段問題なことはなかった。


 実際にジュンやレオンは思念技(アイディ・スキル)の種類も資料などで増やし、シャーリーもそれなりの数の魔法をすでに覚えていたのである。


「あまりはしゃぐなよ、ジュン」


 隣で準備体操をしているレオンが見かねて、注意を呼び掛けてきた。

 相変わらず小姑のようなレオンだったが、ジュンにはやはりそれが何だか嬉しく思えてしまう。

 ――本当に、コイツもみんなも、変わらないな。


 勉学に励むという本来の学生の性分はあまり全うしていないジュンたちだったが、しっかりとこの世界の通貨であるG(ガント)を貯蓄し、日々元の世界へ還る方法を模索していた。


(そういや、もうじき中間試験だったか……)


 学生として、勉学のテストはこの世界でも行われているようで。近々あった気がするジュン。

 このような生活の中で、ジュンは仲間がいてくれて本当に良かったと切に感じていた。前から何度も思ってきたことだが、もしも自分1人でこの世界に放り出されていたらと思うと、少しだけ……いやかなり不安だったことは間違いないだろうし。


 今みたいに練習試合だと言ってはしゃぐこともなかったはずで。


「分かってるって。うっさいなぁ、レオンは」


 でもレオンに言ってやる事は、いつもと変わらず捻くれていて。


「うるさいのはお前だろうが。……あとしっかり体を(ほぐ)せよ、今日は試合なんだから」

「それも分かってるって」

「……どれ、俺がもう少しちゃんと解してやる」


 ――手をわきわきさせながらこっちくんなっ!

 急いでダッシュするが、尚もレオンは歩みを止めず、ジュンのところへまっしぐら。


「いいって! やめろレオン! お前の馬鹿力でストレッチなんかされたら、そのまま骨折れるって!」

「そんなわけはないだろ。大丈夫だ。まかせろ」


 他人が分かるかどうかは知らないが、そう言うレオンの顔は見慣れているジュンからすれば、完全なまでにニヤケきっているようにしか見えなくて。彼の普段の姿からは想像も出来ないほど、この状況を楽しんでいるようだった。

 しかしレオンの馬鹿力にかかればジュンの細い身体などひとたまりも無い。さらに、以前よりはマシにしろ、今でも下半身に比べ上半身の筋肉は少ないことを考慮すると、上半身は真剣にヤバそうだった。


「嫌だっつーの!」


 そのため叫びながら必死で逃げるジュンと、それを追うレオンの姿に――。

 近くで見ていたフィーナやシャーリーたちが笑っていた。


「あいつらったら、ほんっとに仲いいわね」

「……そうだ。私たちもやろうよ、ストレッチ」


 フィーナがお得意の手をポンと叩く。その顔は満面の笑みで。


「え!? いいっていいって!」


 こんなところで、男どものやっているようなストレッチなんかやったら、色々とまずいことになること間違いなしだ。

 そのためシャーリーは手をぶんぶん振って拒否する。


「そうなの……残念」


 しょんぼりしたかのようなフィーナの顔には、何故か怪しげな光が宿っていた。


「やっぱりフィーナって少しSっ気あるよね……絶対」

「そんなことないよ……たぶん」

「たぶんってフィーナ……」


 この前の国民との一件以来、以前と比べフィーナが少し変わった気がするシャーリー。


(なんというか……大胆になった? いや、違うな……活発になった? う~ん、これもしっくりこない……)


 1つ確かなことは、フィーナとシャーリーの距離感がもうほとんど無くなったということだろうが、それを本人たちが気づくのは難しいようだった。


「止まれってレオン!」


 そして依然として静かに追いかけっこをしている、ジュンとレオン。体操はほぼ完全にサボタージュだ。


「だから大丈夫だ。何度言わせる気なんだ」


 全然大丈夫そうに聴こえないのは何故だろうかと、ジュンは真面目に疑問に感じてしまった。

 しかし――軽口を叩きながらの会話。これが俺とレオンの仲で。この仲を俺はとても気に入っていたりするので、我ながらに困ったもんだ。


「よしっ! 準備運動はそのぐらいでいいだろ。今日は練習試合だが、ただ試合というのもつまらん。……そこで、だ。闘技場を四つに割って、トーナメント形式でやることにする!」


 いつの間にか用意されていた台――表彰台のようなもの――に乗りながら、キーファンスが集合をかけた。

 そして彼の宣言によって、生徒たちの間で小さなざわめきが起こる。


「静まれいっ!」


 しかしキーファンスの一声で一瞬にして黙った。その光景に「ウム」と頷き、ポケットの中を漁りだすキーファンス。

 やがて1つのラルクリア――ボードリアを取り出し、ビジョン化した。そしてビジョン化された水のボードに何やら書き始める。


「今日は魔装士(アトラー)魔法使(メシュティー)は別々でやる。AとBコートには魔装士。CとDコートには魔法使の試合を執り行うってわけだな」


 そしてボードを指で(つつ)きながら。


「試合は2人一組のペア戦で行う。戦いの基本は、2対2の場合が多いからな。試合時間は8分で、相手ペアの両方を倒した場合はそこで終了だ。もちろん倒した時点とは、セイフティ・コアが自動で判断し各人の得物を縮小した時点だぞ。故に倒した相手に攻撃はしちゃならんっ! 仮に制限時間を超えた場合、勝敗はレフリーとギャラリーの判断にまかせる!

……あぁそれと、ペアは自由に決めていい。決まったヤツから、2人のうち1人がこちらへ報告し、順次座ってゆけ。余りがいた場合、ソイツは俺がペアになってやる。もちろん魔法使の場合もだ。では、ペア作り開始!」


 キーファンスの号令が終了すると同時に、生徒たちがさっそく相談モードへ突入する。


「じゃあ、また後で。頑張ろうね」

「アンタたち二人とも、負けたら駄目だからね」


 フィーナとシャーリーはそう言って、女子たちが集まるところへ駆けていった。

 ここでこう言うということは、おそらくシャーリーはジュンとレオンが組むと思っているようだ。


「りょーかい!」

「ああ」


 彼女らを見送ってから、ジュンとレオンはお互いを見つめあい、不敵な表情を作る。

 2人の頭の中ではすでにすべき事は――すなわちペア決めは決定していた。


「レオン、組もう」

「ああ、そうだな」


 そして同時に頷きあってから、ジュンが報告をするためにキーファンスの下へ行き、レオンは下へ座り込んだ。

 ジュンとレオンの計算によれば、男子の人数はちょうど奇数。つまり誰かが余る。ということは必然的にキーファンスとその誰かが組むことになるのだ。

 これまで実践の授業中に何度もキーファンスと戦ったが、ジュンもレオンも未だに勝つことはできていなかった。


 しかし、ペアなら勝ってみせると思った。


 そしてそれを可能にするには、ジュンはレオンを、レオンはジュンを、互いに最も良い相棒だと確信していた。

 だからこそ、すぐさまペアは決定していた。


「師匠。俺とレオンでペアです」


 ジュンはキーファンスの事を師匠と呼んでいる。

 これまでの実践で、本当に様々なことをキーファンスは教えてくれた。

 そして彼を人間としても、魔装士(アトラー)としても一流だと感じていたから。普段は色々と問題ありそうな態度だが、真剣な時には誰よりも頼りになり、何よりも圧倒的な力がキーファンスにはあるのだ。


 それはジュンが目指す理想の1つだった。

 大切なものを守るためには、意志を貫く強さと、純粋な力が必要だから。

 これらをキーファンスは持っているように思えた。


「そうか、お前らがペアとはな……」


 意味深に少しだけ生えたちょび髭に手をやり、報告を受けたキーファンスが唸った。


「……何か問題ですか?」

「いや何でもない。ただ、この中じゃ圧倒的ペアだと感じただけだ」

「いやいやそんな事はないですって。ほらレックスとか、ゼスとかもいるし」

「……まぁいいか。戻っていいぞ、我が弟子よっ!」

「はいっ、師匠!」


 キーファンスへ報告を終え、ジュンがレオンの座る場所へ行くと、そこにはレックスにゼス、カイル、マルクが勢ぞろいしていた。

 燃えるように真っ赤な髪をしているのはカイル・クレセントで。

 坊主頭の方がマルク・シュレディガーだ。

 熱血系の猪突猛進型というカイルと、クールで頭脳派なマルクは大抵一緒にいる名コンビであり、何となくジュンとレオンの関係に似ていた。


「おっ、帰ってきたぜ、帰ってきた」


 いつも通りに軽い調子なレックス。相変わらず爽やかだ。白い歯がにくいヤツだ。


「よっ! お前らもペア決まったのか?」

「いやぁ。それがまだなんっすよぉ、ジュン」


 カイル特有の「っす」が飛び出てきた。時々、彼は語尾に『っす』をつけるのだ。

 ジュンも一時それをカッコいいと思い、真似してみたら、女子たちに不人気だったのでやめたものだった。


「そっか。俺らはもう師匠に報告してきたとこ」

「……お前とレオンって最強じゃないか?」


 マイペースなゼスは、自身の魔装であるグローブを手に装着しながら尋ねた。

 事実、今までの実践におけるキーファンスとの模擬戦や、訓練の最中でジュンとレオンはかなり目立っていた。

 それは留学生という設定だけではなく、2年の中ではその実力が群を抜いていたためだ。


「いや、最強なのは俺たちじゃない、間違いなく」


 レオンが冷静に言うと、すぐさまカイルが食いついた。彼の首も、しっかりレオンの方向へ向いている。

 器用なヤツだ。


「どしてっすか? おめぇらめっちゃ強っすから、その上っていうと……」

「師匠だよ……ほら、俺たち男子って奇数だろ」


 今度はジュンが言うと、カイルはまた首をぐるんと100度ほど回し。

 ……器用なヤツ?


「そだっけっすか?」


 疑問のためか、首をかなり(180度ほど)傾げるカイル。

 そんなに首を曲げては、折れるぞ……。

 とそこにマルクがやってきて、彼は両手を使ってカイルの首を強引にグイッと元に戻し。


「そうなんだ、カイル。俺たち2-Aの男子の数は151人、女子が96人だからな。分かったか?」

「分かったっす! マルクはやっぱ頭いいっす!」


 感動したようにカイルが誉めると、満更でもないようにしているマルク。この2人はいつもこんな感じだ。


「っと、何か立ってんの、俺らだけじゃね?」


 レックスが周りを見て気が付いた。

 辺りはすでに男子生徒だけでなく、女子生徒までもが全員そろって座っていた。

 そして「まだかよ」みたいな視線をガンガン送ってきている。


「そうだなぁ、まあゆっくりと決めるとするか……」


 ゼスが相変わらずマイペースな発言をするが、この状態で耐えられるのはゼスぐらいだ。


「そうゆうわけには全くならいないぜ、ゼス! ……ってジュンとレオンは何ちゃっかり座っちゃってんの!」


 レックスがズビシッ――と指をさしてくる。人に指をさしてはならないと、あれほど『貴族のタブー』手帳に記してあったのに! と両親が泣いておりますよ、レックス・クロノ君。


「ははっ、俺らはすでに報告終了してるし。なっ、レオン」

「ああ、そうだな。残りはお前たちだけだぞ」

「変態っす! ここに変態がいるっすよ!」


 グサッとジュンとレックスとゼス……あのパラダイム・ロスト参加者は致命的な打撃を受けた。

 言葉は暴力にも成りうることを知った夏(?) だった。


「カイル、ここは裏切り者が適切だぞ」

「おおぉ、そうっすか! やっぱマルクは頭いいっす!」

「ふっ……」


 とレオンが微かな笑いを洩らした。意外とレオンは笑いに弱いところがあるのだ。


『『早くしろよ!』』


 他の生徒たちはこの構図を、冷めきったシチューのように濁りきった(まなこ)で見つめていた。



 ペアが全員決まった後――。


「ではこれより、第1回タッグバトル・トーナメントを開催する!」 


 キーファンスが声高らかに開始の宣言する。これより学生同士による、戦いの火蓋が切って落とされるのだった。



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