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ATRATICA IN CAPITAL OF WATER   作者: Franz Liszt
第2章 『学園編』
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第17話 『試合! レオン編』

「んじゃ、最後はレオン・メイクラフト、と」


 シャーリーとの腕試しが終了し、かなり軽い感じで言うキーファンス。彼はチラッと時計を見た。

 闘技場に設置された観客席よりも豪華な、王族などが腰をかける場所の上に設置された時計は12時15分頃を指している。


 とっくに打ち合いの30分は経過しており、シャーリーの試合よりも多くの学生たちがぞろぞろと集まって、キーファンスとレオンの試合は今か今かと待っていた。

 学生たちはやはり他国から来た――設定上――ジュンたちに興味があるようだ。


 キーファンスの言葉に反応して、レオンが前へと出てゆく。

 行く途中にすれ違ったシャーリーに「頑張ったな」と、自分に掛けられる最大の賛美を言っておく事も忘れない。

 シャイボーイな彼にしては、非常に頑張ったといってもいいだろう。


「よし! 石投げるぞ! 準備はいいか?」

「はい、大丈夫です」


 今のレオンは、すでに自らのエイン・シェルを長剣(ロングソード)の形に復元してある。

 そしてその長剣のグリップを、利き手である右手で握っていた。

 これはケンジが自分のために合わせてくれた長剣。全ての感触が、自分にフィットしている。

 長剣の柄には獅子(しし)の彫刻があり、獅子は金色の宝石を(くわ)えていた。 レオンとしては何一つ不満のない仕上がりだ。もっとも、ケンジはこれで満足してはいないようだったが。


 石が投げられたのを確認しながら、キーファンスの動きを見つめる。

 やはり接近戦でくるのだろうか。それとも定石に基づいて遠距離か。

 そんなことを考えるレオンの戦意に呼応するかのように、獅子が銜えるトパーズがバリバリと雷光を(ほとばし)らせた。


 すぐに石が地面に落ちた。しかし、レオンもキーファンスもどちらも動こうとしない。

 そのまま1分ほどが経った時、金色の髪をなびかせながらレオンは突進をした。

 とりあえずスピードは抑え目にしておき、キーファンスがどんな行動をとっても対応できるようにしてある。ジュンほどのスピードはないが、それでもかなり速い部類に入るだろう動きだ。


 前の3人の試合で、キーファンスの実力が自分よりも上だということは、レオン自身分かっていた。

 しかし、それでも勝ちにいく。彼は相当な負けず嫌いだった。

 だから最低でもジュンと同じ、引き分けの形に収めたいと考えている。自分のライバルである彼には、勝負以上に負けたくなかった。


 そして今日この時のために、試したい思念技(アイディ・スキル)も、いくつか用意してある。

 おそらく成功するはずだ。理論的にもイメージ的にも、かなり好感触だったから。

 レオンが特攻しているにも関わらず、未だキーファンスは何一つアクションを起こそうとしていない。

 ――なめているのか……。ならば、一気に片を付ける! 思い浮かべるのは、人体が極限まで速く動けるようなイメージ――これが、試作品1つ目だ!


「ハァーッ! Lightning(ライトニング)Move(ムーブ)!」


 唱え終えた直後、右手に持つ長剣――獅子が銜えるトパーズが輝きを増し、そこからレオンの体へ電気が流れ込む。

 少し危険かと思ったが、人体に有害な影響はないようだ。痺れもなければ、機能不全の部位も全くない。


 この思念技(アイディ・スキル)電光石火(ライトニング・ムーブ)を基にしたものだ。

 人体は電気パルスの影響で動いている。その動きを極限まで速くするには、脳の電気パルスをスマートにするか、電気的な力で体の反応速度を増させるかのどちらかだ。

 これの後者における役割が、この思念技の効果である。


「おぉ! 身体能力の向上技か!」


 身体能力を向上させる思念技(アイディ・スキル)は、得てして使い勝手が悪いものが多い。

 それは何故かというと、身体能力の向上に使用者自身のキャパシティーを越えていたり、思考速度が付いていけなかったりすると全くその効力を示さないからだ。

 およそそんな懸念を振り払うように、スピードが1.5倍ほどになったレオンが最小限の動きで、キーファンスとの間合いをグッと縮める。


(ジュン用に作ったこの技が、こんな形で使う事になるとは……)


 この電光石火(ライトニング・ムーブ)は、元々、スピードでジュンと同等になるために考えた技。

 だが予想以上のキーファンスの強さに、使わざるを得ないと判断したのだ。

 しかし今度のキーファンスは黙っているわけではなく、両の銃でレオンを狙撃するが、彼は完全にその風の弾丸を避けている。

 しかもレオンは、銃口を見るのではなく、放たれた弾の速度を完全に捉え、且つかなりのスピードで避けていた。

 レオンは完全に弾道を見切っていた。


 ――あのスピードは、十二分(じゅうにぶん)にコントロール下ということか。キーファンスはレオンが無闇やたらに、あの思念技(アイディ・スキル)に依存していないことを理解した。

 思考を止め、レオンから放たれるであろう一撃に(そな)える。


「――はぁっ!」


 レオンは長剣の届く範囲にキーファンスが入ったことを確認すると、すぐさま切っ先で彼を切り裂こうと長剣を振るった。

 セーフティ・モードとはいえ、当たればそれなりの怪我をするだろう。だが少しも力を抑える必要を感じない。

 それはキーファンスがこの剣に当たるはずがないと、確信に近いものを感じているからかもしれなかった。


「おっと!」


 やはりキーファンスは剣の切り込みを、あっさりとした様子でかわした。彼がいた場所にはレオンの長剣による、(かす)かな青白い雷光だけが残る。


 ――しかし、このまま終わりにはしない!


 そう思いながら、レオンは剣をチェンジした。


リクリエイション(再創造)――!」


 大剣を思い浮かべながら、大声で宣言する――創造への一言(いちげん)を。

 レオンの声に反応して、長剣が一瞬で大剣へと変化する。これにより間合いが、長剣と比べ倍ほどにもなった。

 しかし重量はちょうどいいままだ。分かってはいたが、さすがはケンジだと、心の中で感謝する。

 さらに、大剣は両手で持つのが普通。キーファンスもそう思っていたのだろう、彼の動きが少し緩い。間合いが両手の場合のリーチには十分(じゅうぶん)だが、片手の場合には十分でない。

 

 だがしかし! この大剣は片手で扱える! 

 ――これなら、届く! そのままキーファンスへ斬りかかった。


「くっ! 二段魔装(エイン・シェル)か!」


 初めてキーファンスの焦ったような声を聞いたレオンは、この攻撃がそれなりに効果的だと悟った。

 ガキィーン! レオンの大剣と、キーファンスの銃が交錯する。キーファンスは2丁の銃を重ね、踏ん張っている。


「はぁぁぁー!」


 しかしそもそも銃と大剣の打ち合いなど、話にならないほど大剣の圧勝だろう。

 レオンは押し切れる!――と思いながら、さらに力を込めた。


「ぐぅ! ライトニング・ムーブによる影響か!」


 大剣から銃を伝って電気がこちらへ流れ込んでくるのを、キーファンスは身体で確認する。

 電光石火(ライトニング・ムーブ)の効果で出現した青白い雷光が、そのまま彼の体へ入ってきていた。

 すでにキーファンスの身体は、確かな痺れを感じ始めている。どうやらあの思念技は、使用者以外には有害なようだ。目もあの雷光に()かれたかのようにチカチカとして、やってられない。


 不意に、彫刻である獅子が()えているような印象をキーファンスは覚えた。

 ――ならばっ! こちらも身体向上技を使うまでだ!


「やるねぇ、レオン・メイクラフト。そんな相手には、逃げるが勝ちってね! Gale(ゲイル)Blast(ブラスト)!」


 瞳を閉じながらキーファンスが唱えると、銃身の内部に埋め込まれた宝石――ぺリドットが極大な(きらめ)きを放ちだした。

 この思念技(アイディ・スキル)疾風(ゲイル)の如きスピードと、飛行能力(ブラスト)さえも一瞬だが使用者与えるものだ。


 今までに、何度この技に助けられたかとキーファンスは思った。

 発動した瞬間、一陣の強烈無比な旋風(せんぷう)が巻き起こり、レオンを弾き飛ばした。


「ぐはっ! なんなんだ、あの風は!」


 何とか体勢を整えたレオンは、すぐさま小刻みな移動を再開する。

 粉塵(ふんじん)(まみ)れて今は見えないが、あのキーファンスのことだ、油断なく動いていたほうがいいと判断したのだ。


 しかし竜巻のような風が収まり、そこにはジュンとの試合の時同様に佇むキーファンスがいた。彼はどこかの(くう)を見つめたまま、動かない。

 そしてまた、彼の気からは戦意が感じられなかった。

 だからレオンも大剣の切っ先を下げ、気を抜く。本当は、もう1つの思念技(アイディスキル)も試したかっただけに、少々不満が残った。


「レオン! お前は筋力的パワー、スピード、共にいいものを持っている。バランスも中々だ。冷静なところもいいし、気配も十分に読めている。今のところは、言うべきことは何もない! 以上!」

「あ、ありがとうございました」


 しかし、あの辛口のキーファンスがこれほど褒めてくれるとは思っていなかっただけに、少しの驚きを感じて言葉が詰まってしまった。

 先ほどの不満もほとんど霧散してしまう。

 そのままキーファンスは、周りにいるギャラリー(生徒たち)に呼びかける。生徒たちは呆然とした様子で、この試合に見入っていたようだ。


(まぁ、無理もないか……。実際、かなりコイツらは自身の能力を活かしていた。学園でもトップレベルに食い込んでいるだろう)

 

 キーファンスはこんなことを思いながら、さっさとこの場を退散する準備に移った。レオンとの一戦は、ジューンバルトの試合と同様に、ゾクゾクした。

 早く気を静めなければ。


「では、以上で実践の授業を終了とする。また来週! さらばなのだ、我が弟子たち! ハーハッハッハァー!」


 生徒たち全員に向け言ったが最後、一速たんに飛ぶようにして去ってゆくキーファンス。彼は本当にせわしなく適当な教師だった。

 レオンはゆっくりと時刻を見ると、2つの針が12時37分を指していた。13時00分に授業が終わるから、それまでに学園食堂へ向かったのだろうと結論付けた。

 この闘技場から、学園食堂までは結構な距離もあるが、キーファンスのあのスピードならな、十分に間に合うだろう。


 キーファンスの行動に対し、フッと微苦笑を洩らしたレオンは、元気よく自分の名を呼んでいる黒髪の少年の方へ歩き出した。

 今日も、楽しいランチタイムを送れそうだ。

 そう思いながら。

 もちろん、そんな感情の動きはおくびにも出さないレオンであったが。


 これにて、キーファンスとの試合は終了した。

 ジュンたちはいつ、元の世界へ帰る手掛かりを掴むのだろうか。




次話はケンジの実践の様子となり、それが終わると、少しコメディのような感じとなってゆきます。

テストが近いので、更新が遅くなるかもしれませんが、これからもよろしくお願いします。

ではでは~

          昨日ハリー・ポッターのBDを買ってしまったFranz(金欠)より

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