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ATRATICA IN CAPITAL OF WATER   作者: Franz Liszt
第2章 『学園編』
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第15話 『試合! フィーナ編』

「次は誰だー?」

「私がいきます!」

 キーファンスの問いに対し、フィーナが大きく手を上げることで立候補の意思を表明した。

 シャーリーもレオンもそれに異存はないようだ。

 みんなの所へ期間中のジュンは、そんなフィーナへ近づきながら、そっと耳打ちをする。


「フィーナ――気をつけてな」

「うん。ありがと。ジュンも、すごかったよ」

「こっちもサンキュ。それと、おそらく先生は遠距離から攻撃すると思う」

「え? どうして?」


 ジュンの言葉を聴いたフィーナは、彼の言葉を不思議に思った。

 確かに銃は遠距離武器であるが、さきほどのジュンとキーファンスは接近戦をしていたではないかと。

 するとジュンはキーファンスの方をチラリと窺いながら、言葉を続ける。


「たぶん先生は、各自の位置取りにあった攻撃をしてくるんだと思う。俺の場合双剣の間合い付近にまで突っ込んできた。それじゃなきゃ助言は与えられないから」

「あ、そっか。それも、そうだね。ありがと、ジュン」

「まぁ、もちろん確実とはいえないけどな」


 ジュンとの短いやり取りを終え、微笑を(たた)えたフィーナはキーファンスと7mほど距離をとる。


 魔法使(メシュティー)は基本的に遠距離が得意だ。それは魔法(マジック・ロウ)が単純に、魔装から繰り出される思念技(アイディ・スキル)より、多少発現が遅いからでもあるし、遠距離からの魔法の方が圧倒的に多いし、有効だからだ。

 魔法(マジック・ロウ)は、魔法使の思考①と、前置きの言霊②、エイン・ロッドへの魔力の充填(じゅうてん)③の3つをパスしなければならず、③だけは前の2つと同時には行えない。あくまで、思考と言霊によりどの魔法が発動するのかが決定し、それにともなって魔力が流れ出すのだからだ。

 しかし属性との距離が近付けば、魔法使たちは二重に詠唱することが可能となる。

 これが上位の魔法使には必須のスキルでもあった。


「準備はいいかな、プリンセス?」

「ええ。ですが、その呼び方はやめてください、キーファンス先生」


 キーファンスのどこかおどけた問いかけに対し、ニッコリと顔は笑っているフィーナだったが、目は笑っていない。

 完全に臨戦態勢だ。


「いい面構えだ、フィーナ・エル・アトラティカ。それでこそ、俺の弟子よ! では、先ほどと同じで石を合図に打ち合いを開始する」


 キーファンスは自分が教える生徒の事を、弟子と呼ぶ事に決めていた。

 なぜなら――その方がカッコいいからだ! そこに特に意味はなし!


「わかりました」


 フィーナは自身の蒼を基調とした魔法杖(エイン・ロッド)をギュッと持つ。

 少しして、キーファンスによって投げられた石が地面に着地した。


「水の刃よ。我が意に従い、敵を切り裂け――Water(ウォーター)Cutter(カッター)!」


 瞬時にフィーナの持つエイン・ロッドが蒼い閃光を放ち始めた。

 そして杖の先端から細い水流が生まれ、それがマッハ3ほどのスピードでキーファンスへ放たれる。

 ウォーター・カッターとは高圧力で圧縮された水が、音速を超えるスピードで放たれる事で驚異的な切れ味を持つものだ。日本刀は切断できなかったが、包丁程度のものならば簡単に切断できる。

 さらに魔法(マジック・ロウ)の場合、そもそものスピードの制限がないため、それ以上の切れ味を実現できるだろう。


「さすがは、プリンセス・フィーナ。魔法の発動が速い」


 魔法の発動速度は、魔法使(メシュティー)の技量にもよるが、生まれた時から差が出るものだ。

 一種の才能に基づくものである。

 そしてフィーナは魔法使の中でも、かなり発動が速いほうだった。


 といっても、別の意味でフィーナは最初から速かったわけではないが……。


 それに対し、感服したような感想を述べたキーファンスだが、次の瞬間には、どこか余裕そうな顔つきで横っ飛びをしている。

 しかしフィーナがすぐさま、エイン・ロッドの先をキーファンスの方へ向けると、水の刃(ウォーター・カッター)はその軌道を修正して尚もキーファンスを追う。


「放出系刃のくせに、軌道修正も可能とはっ!」


 若干の驚きを含んだ声をあげたキーファンスが今度は避けるのではなく、両の銃口に大気を掻き集め始めた。

 キーファンスはイメージする。下へ吹き抜ける強烈なる風の息吹を。


「仕方ない、消えうせろ! Down(ダウン)Burst(バースト)!」


 言葉と思念に反応して、思念技(アイディ・スキル)が発動する。

 銃口に集められた大気の竜巻が、キーファンスの立つ地表へと放たれ、その周囲に下降噴流ダウン・バーストを引き起こした。

 その回転する風の流れがフィーナの放ったウォーター・カッターを巻き下げながら、地面へと吸収させてゆく。


 しかしフィーナとて、その光景をただぼうっと見ていたわけではない。

 余波で銀の髪を後ろへなびかせながらも、毅然とした態度で思い描く。

 そして風の流れが完全に収まった頃には、すでに新しい魔法を完成させたフィーナの姿があった。


「宙に密閉されし水よ。我が眼前に、その姿を示せ――Water(ウォーター)Tight(タイト)!」


 フィーナはまず、下ごしらえの為に高濃度の水球体を空中に出現させる。大気中の水分を凝縮した塊だ。

 これは主に空中に存在する水分を、掻き集め凝縮する効果の魔法。

 そして――


「氷結は久遠(くおん)にして、(いまし)め。集いて、敵を捕縛せよ――Hand(ハンド)Of(オブ)Ice(アイス)!」


 ほぼ同時に二つ目の魔法も完成させる。

 フィーナは二重の魔法を思い描き、それを発動して見せた。かなり属性との相性がいい証拠だ。


 唱えた瞬間、エイン・ロッドの先端の翼の中心にある『スターサファイア』が蒼い輝きを放ち、そこから冷気が漏れ出す。


 それによって空中に浮いていた水球体が、キーファンスの方向――いや、キーファンスの周囲数メートルの範囲へ弾け飛んだ。

 フィーナの属性である『蒼』は、水とか氷といった魔法を筆頭に、その応用まで使えるといわれている。水系統魔法のスペシャリストなのだ。

 またそれ以外にも、ある特殊な力があると()われている。

 しかしレアな属性ゆえに、未だその能力や、完全なる属性の定義は見つかっておらず、試す事でしかどこまでが可能なのかが分かっていないのが現状だ。

 弾け飛んだ水たちは、キーファンスを取り囲むように布陣し、そのまま彼に纏わり付こうとし始めた。


「さすがは、蒼……か。しかし蒼ならば、いちいち前置きの為の魔法など使用せずとも、氷結を起こせるはず……」


 キーファンスの知識が正しければ、蒼属性は氷の発現も容易いものだったはずだ。ならば何故、フィーナは水密(ウォーター・タイト)などという、本来は水が無くなった時の水分補給のために使われるような魔法を使ったのだろうか。


 そして彼女の真意に気付いたキーファンスは、再びニッと唇を歪ませた。

 だから迫りくる水を避けながら、次の一手を思考する。

 キーファンスがかなりのスピードで水たちを避け、全ての水が無くなった時――突如、キーファンスの降り立った地面から水が湧き上がり、彼の体に纏わり付いた。


「やった!」


 フィーナが歓声をあげると同時に、キーファンスの体に付く大量の水が一瞬で凍結した。

 つまりフィーナは最初の魔法――水密(ウォーター・タイト)で水球体を作り出し、キーファンスの注意をそちらへ向けさせる。

 そしてあたかも球体からの水が、次の魔法――氷の手(アイス・ハンド)への布石だと思わせたのだ。


 しかし、実際は球体の水はフェイク。あの水はフィーナが動かしていただけで、これに対し氷の手は発動していない。

 発動した対象は、大気中の水気と地下水の類に、だ。

 そもそも属性『蒼』は氷も扱える。

 つまり、キーファンスが全ての水を避け終わって安心したところに、本来のアイス・ハンドをくらわせるという作戦だった。


 それが成功したように思えた次の瞬間――カチャと乾いたノイズ音がフィーナの耳元から発せられた。


 そろーりとフィーナが横目で確認すると、そこには銃を突きつけたキーファンスの姿があった。

 急いで、氷結場所を見ると、氷の結晶が確かにあった。しかし、そこには誰も凍り付いてはいない。凍ったのは風による空洞だ。


「惜しかったな、プリンセス・フィーナ。いい作戦だった」

「どうして、分かったんですか?」


 キーファンスの「いい作戦だった」という言葉から、最初から彼にはバレていたのだと知ったフィーナは、思わず尋ね返した。


「お前の属性は『蒼』だろ。俺は知っていたんだよ、蒼が氷の魔法も自在に操れるってことをな。だから、あのウォーター・タイトはブラフだと推測してたって訳だ」

「よく知ってましたね、先生。調べたんですか?」


 レアな属性は専門的に調べなければ、教科書の類には載っていない。


「いや。……そうだな、その属性を持っていた人にあったことがある。それだけだ」


 とてもレアな属性は、この世にただ1人しか持つことはないと言われている。

 だから誰が持っていたのかとフィーナは訊きたくなったが、そう語ったキーファンスの顔がひどく悲しげだったために、やめた。


 結局、アドバイスをくれそうな雰囲気ではないため、会釈をしてそのままジュンたちのいるところまで戻ってゆくフィーナ。ジュンやレオンやシャーリーは口々に「惜しかったな」とか「すげぇよ、フィーナ」だとか、「私もあんな風にできるかな」などと労いの言葉をフィーナへと掛けた。

 

 さて残りは2人。

 ランチタイムまでは残り30分ほど。

 果たしてキーファンスは、全ての授業過程をまっとうし、満ち足りたランチタイムを送れるのだろうか!

 続く……。




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