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ATRATICA IN CAPITAL OF WATER   作者: Franz Liszt
第2章 『学園編』
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第14話 『試合! ジューンバルト編』

「よし! では今からお前ら1人ずつで俺に打ち込んで来い!」

 

 キーファンスが大仰に宣言した。

 双剣を持ったジュンは、彼の言葉を聴き終えると同時、他の3人に自分が最初でいいかと尋ねた。

 やりたくてやりたくて、体がうずうずしているのだ。

 その気持ちが手に取るように分かった3人は、無言で頷いてやる。


「じゃあ、俺からいきます!」


 皆が頷くのを確認してからジュンは復元した魔装(エイン・シェル)――双剣の柄を力強く握り直す。


(よっしゃ――いい感触)


 双剣の持ちやすさは相変わらず最高で、グリップ周りの太さがジュンの手にぴったり合っている。ジュンは左右の手で大きさが少し違い、右手の方が大きいのだが、それにもしっかりと対応している。


(さっすが、ケンジ!)


 それからこの前の実践で光の量が足りないと思ったので、ケンジに増幅できないかと尋ねたら、まだ分からないけど、頑張ってみると言ってくれた。

 ジュンの属性である(こう)は、広範囲に広がる淡い光である。この前使ったLight()Pressure()は、理論から言えば光の絶対量でその圧力の大きさが決定する。

 よってより強い光に、より大きな圧力が生まれるということになるのだ。


 この光の量というのは、もちろん魔装士(アトラー)の想像力と属性との相性などで、ほとんどが決まるが、機工魔導師(エンチャンター)魔装(エイン・シェル)の形状を変えたり、宝石の位置を変えたり、特殊な彫刻を新たに施すと増加する場合もある。

 といっても、このような細工は、魔装士よりも魔法使(メシュティー)がやってもらうことが多い。

 あくまで、魔装士は己の肉体的要素が強いため、魔装をそこまで真剣に調整する必要はない。魔装士からの依頼のほとんどは、魔装が欠けたとか、形状を変えてくれとか、持ちにくいだとかの類である。

 対して、魔法使の場合、宝石の位置が悪いだとか、彫刻をこうして欲しいだとか、主に魔法杖(エイン・ロッド)の本質的なものが多い。


「いいだろう! ジューンバルト! 本気で来いよぉ!」

「当然っす! 全力でいきます!」

 

 ジュンが思うに、キーファンスの強さはおそらく自分より上。遠慮をする必要など全くないだろう。

 もちろん怪我には気をつけるが、最初から気を配るつもりは毛頭なかった。


「よし! ではこの石を投げるから、落ちたら打ち合い始めだ。俺からも打ち込んでいくから、しっかり対処しろよ!」


 そう宣言してからキーファンスは近くに落ちている石を拾って、それを上に放った。

 外力を与えられ自由落下運動に近いものする石をキッと(にら)みながら、最初の構えを作る。

 キーファンスは『銃』を使うようだ。ならば、遠距離からの攻撃が主体のはず。それに彼は学生ではないから、セーフティ・モードではないはずなので、1発でも当たる事は許されない。

 といっても、おそらくキーファンスは当てるつもりなどないだろう。

 しかし“不可避だというチェックメイト”はジュンも十分に認識できるから、絶対に油断は出来ない。

 石が後少しで地に着く。


 まずは相手(キーファンス)との距離を把握する、推定誤差10cm以下で5m20cm。ここは明るい場所だから、空間把握は意味をなさない。お互いの距離感は明らかなもの。

 ――ならばまずは、速攻で先生との距離を詰める! 銃の射程範囲はまだ分からないが、どちらにせよ接近したほうが有利なはず。


 カツン――石が、地面に着地した。


 予想通り、すぐさまキーファンスが銃で風の弾丸を連射してきた。それを右の剣と、左の剣で器用にいなしてゆく。

 チュンチュン――といった金属が磨耗(まもう)するような音が響き渡った。

 ――よし、弾は十分に肉眼で捉えられる! 弾の速さ自体は、ピースランドで使われていた電磁銃(レールガン)よりずっと遅い! 

 さらに弾が実弾ではなく、風のようなものだからか、緑の色彩を空気の透明な空間に与えてしまっている。総じて、かなり見易い。

 厄介なのは、あの銃が弾切れを起こす事がないということぐらいだろう。


 風の弾を剣で的確にいなしながら、連射が止まった刹那――ジュンは足の筋肉を巨大なバネのようにしならせ、持ち前の瞬発力で一気に最高速度にまで到達する。

 瞬間でキーファンスとの距離をなくし、肉迫する。

 しかし彼は全く動揺を見せていない。それどころか、自分からこちらへ突っ込んできた! さらに、そのまま銃の片方を投げつけてくる! そしてその空中に浮く銃に向けて、もう一方の銃でそれを撃った!

 多少は驚いたが、このパターンは想定していた。おそろしく確率の低いものだと思っていたのは否めないが、頭のどこかでキーファンスならやりかねないと思っていたのも事実。

 だからジュンは冷静に、光の尾を引く右の剣の腹で銃をキーファンスへ弾き返す。これはおそらく避けられないはずだ。相対速度もあいまってかなりのスピードだった。

 しかしジュンのその行動に、キーファンスはニッと唇を歪ませ――


「ゆけ! ――WindウィンドCannonキャノンっ!」


 と言い放った。

 彼の言葉と思いに反応して、銃口から思念技(アイディ・スキル)である風の砲弾が発射された。

 しかもその銃とはジュンが弾き返し、空中で舞っている方の、である。

 さらに銃口は明らかに不自然な修正を受け、ジュンを完全に捕捉していた。

 そして銃は発砲の衝撃でキーファンスとは見当違いの方向へ飛んでゆくが、それをキーファンスが風の力で手元に戻している。


(くっ! 銃は手放しても使用できるのか!)


 さすがにこれはジュンの予想外の攻撃だった。風を(まと)った銃弾――いや、銃弾ではなく巨大な風の塊だ――は唸りをあげてこちらへ向かっている。その大きさから避けるのは間に合わないと、瞬時に判断する。

 だから光り輝く双剣で風の砲弾を、袈裟斬(けさぎ)りに斬った! 


 しかし閃光のような双剣の一撃が、風の砲弾に当たった瞬間――

 ジジジジジィーといった音が響き、激しい反発にあった。ジュンの黒髪が強烈な風によって、はためいている。

 風の砲弾と、ジュンの斬り込み。

 それは拮抗ではなかった。砲弾は、どんどんジュンを押し潰そうとしてくる。


 自分の力ではどうにもできない、と判断した。


 そして判断すると同時に、ジュンは無理やりに、風と拮抗している双剣を重ね合わせ、思い描く。


(イメージしろ! ――光の壁を!)


 キーファンスの属性が『風』ならば、力の作用としてはコリオリの力(転向力)と、風の自転による遠心的な力。

 そしてその『風』としての定義は、あくまで『波動』である。

 ならばこの場合、空気を屈折率1.2として、自身の周囲に絶対屈折率Nを作り出せば、風の波動は屈折を起こし、自ずとその軌道を変えるはず。

 そこで剣をプリズンに見立てるために、光を纏わせ限りなく透明質な水晶体を模す。さらに辺りへ光の粒子を放出するイメージを重ね、風の波動の完全な光学化をさせることで、より屈折を激しいものへと導く。

 全ては憶測だし、そもそも思念技(アイディ・スキル)が発動してくれるかどうかさえ分からないが、失敗は許されない。


「成功しろよ! LuminousルミナスWallウォール!」


 と、叫んだ。

 その時、ジュンの双剣――翼の中にあるダイヤモンドが発光し始め、光源スペクトルが肉眼で観測できるほどになってゆく。


「ぐぅっ!」


 ――ジジジッと電磁場干渉のような音が、光の壁(ルミナス・ウォール)と風の砲弾の間で発生した。

 しかしやはり上手く屈折できていない――と思われた直後、双剣に施された翼の彫刻がバサッと羽ばたいたような音を奏でる。

 するとダイヤモンドから放出される光が、急激に強くなり始めた。光の中に翼の印が切られたようにも見られた。今の光景は、錯覚だろうか……。

 その影響だろうかどうかは分からないが、風の砲弾はあっさりと軌道をジュンから完全に逸らし、上空へと舞い上がっていった。

 しかしこれで安堵を覚えてはならない――ジュンはすぐさまキーファンスへ視線を向け、体の重心をグッと沈めて、地を()う様に走り出す。

 だが肝心のキーファンスは、すでに二丁の銃を降ろし、『止め』のポーズをとっていた。

 渋々走るのをやめ、その場に留まるジュン。


「そこまでだ! ジューンバルト!」


 そんな不満そうなジュンの視線を真正面から受け止めながら、キーファンスは言った。

 キーファンスは、やはり想像していた通りにジューンバルトはやるヤツだと認識した。裏の裏をつく先制攻撃を完璧に回避したのである。もともと軌道をギリギリで変え、当てるつもりはなかったが。

 本来、このような実力を見るための試合で見せるべき動きじゃないこともした。

 しかしそれら全てを、ジューンバルトは回避した。

 それだけでも賞賛ものだが、何より、ジューンバルトの放つ気が並じゃないと感じる。若干楽しんでいる気が強いが、それでも中々のものだ。

 ならばこれ以上のことを、“今の段階”ですべきではないと結論付ける。

 ――でないと、俺が殺してしまうかもしれない……。


「えっ? もう終わりですか?」


 確認という意味で、敢えて拍子抜けしたようにジュンは尋ねた。彼にしてみれば、これからが本当の打ち合いだと思っていただけに、何故という思いのほうが強かったのだ。

 しかしキーファンスは縦に首を振り、


「ああ、終わりだ。まぁ、今から先生らしいこと言うからしっかり聞いておけよ」

「はぁ」


 今までの言動などは、無自覚のものだとばかり思っていたジュンは、キーファンスの自覚ありました宣言に、少しだけ驚いていた。

 そんなジュンの様子に気付いた様子で、キーファンスは続ける。


「そう、いぶかしむな、ジューンバルトよ。俺はけっこうお前のことを買ってるんだぞ。これは光栄な事だ」

「はぁ……」

 

 大仰に頷いているキーファンスに、ジュンはまたしても気の無い返答しかできなかった。

 キーファンスは「まぁいい」とでも言いたげに頷いてから、本題に入った。


「お前はよく足の筋肉を鍛えてある。だが、腕の筋肉がいまひとつ発達していないな。そのため身体のバランスが明らかに悪い。さらに瞬発力に頼りすぎで、小回りが効いていないことも分かっているぞ。そこでこれからは、毎日、腕立てと逆立ち、そして5mダッシュを何回もやれ! いいか?」

「はい!」


 回数を敢えて言わないところはキーファンスらしいが、彼の言っている事は、全て的を射ていた。

 ジュンはスピード重視のため、下半身の筋肉に比べ上半身の筋肉が明らかに劣っている。それによりバランスの悪さがでて、スピードに乗った状態での小回りをより効きにくくしているのだ。

 あの短時間――いや、あの一瞬の内にこれらを見抜かれるとは正直思っていなかっただけに、改めてキーファンスの強さを知った。


 ――なにより、ヤツはまだ本気じゃなかった。


 キーファンスの底知れぬ圧力を感じたのは、あの風の砲弾を防ぎきった直後だ。あの時は、大瀑布にも似た圧倒的な力の奔流(ほんりゅう)を感じ、肌がまだピリピリしていた。重心を沈めたのは、この圧力を少しでも抜こうとしたためでもあった。

 それなのに、止め! の一言は不満でもあったし、意外でもあった。


「では、次は誰だぁ?」


 キーファンスは銃を両手でくるくると(もてあそ)びながら、ジュンを除く3人に声を掛けた。

 彼はまだまだ元気そうだ。

 はたして、キーファンスはランチな時間までに残り3人を(さば)ききれるのか!

 続く。





妹が新型インフルエンザにかかりました。

そのため家の中ではマスク星人が闊歩しております。

皆さんも、まだまだ絶賛流行中のインフルにはお気をつけください。


    最近漫画読んでないなぁとしみじみと感じたFranzより

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