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ATRATICA IN CAPITAL OF WATER   作者: Franz Liszt
第2章 『学園編』
32/66

昔話③ 『強敵と書いて、友と読む』

最後に挿絵を入れましたが、デジカメで撮って、それをPCで画像編集しただけです。なので線の濃さが変だったりしてます。

また短時間で仕上げたので、心中線とかも描かずに一気で描いてしまい、けっこうズレてますが、あしからず。



 俺にとってのその一瞬は、まるで世界が止まっているかのように思えた。

 全ての収束は目の前にいる子供にある。金色の髪を風になびかせ、赤き瞳に静かな力を湛えさせた少年だ。

 目のまではライアンが彼に殴り飛ばされ、壁にぶち当たっていた。


 すぐにハッとなって、圧し掛かる力を緩め呆然としているヤンキーを瞬間的な力で、一気に上から退()かす。

 俺は迷わずにシャーリーの元に駆け寄った。その隣には少年――レオン・メイクラフトがいた。


「サンキュ。レオン・メイクラフト」


 彼女の外傷や脈などを確かめながら、俺はレオンに礼を言った。心からの礼だ。

 しかし彼はその礼にニコリともせず、ただ淡々とこういった。


「いや、礼を言われるようなことは何もしていない。俺はただ、弱い者イジメをしていた奴らが気に食わなかっただけだ」


 正直、自分の耳を疑った。

 ――コイツは今、何て言った? 弱い者? 誰が?


「さがっていろ。俺が――」


 尚も何かを言おうとしているレオンの頬に、俺は思いっきりパンチを食らわせていた。はっきり言って、無意識に。

 俺の渾身(こんしん)の一撃だった。しかしレオンは「ぐっ」と(うめ)きはしたものの、足を踏ん張って倒れなかった。それどころか、すぐに態勢を立て直して、怒り心頭な顔を俺に向けてくる。


「貴様、何をする!」


 そのまま掴みかかってきそうな勢いで、詰め寄ってきた。

 俺は伸ばされた手を(はた)き落とす。


「俺は弱くねぇ! 俺は強くなるんだ! 弱い者なんかじゃ、断じてない!」


 そうだ。俺はもう弱くちゃいけない。弱い者であってはいけない。

 だからあれだけの努力を、鍛錬を、この半年やってきて、これからもやってくんだ。

 しかし俺は同時に分かっていた。まだまだ俺が弱いってことを。その図星を指され、激情に駆られたに過ぎない。レオンには悪い事をしたとも、一瞬思ったが、何もせずに認めてしまう事は俺にはできなかったんだ。

 キリキリと胸が痛む。

 レオンは俺の言動に少し考える素振りを見せてから、口元に微かな笑みを持たせ、淡々と言葉を吐いた。


「いいだろう。上等だ、ジューンバルト!」


 どうやら俺のことを知っているようだ。しかし俺の思考は途切れてしまう。

 なぜならレオンのヤツが俺の頬を、先ほどの仕返しとばかりに殴ってきたからである。

 その(こぶし)は決して速いものではなかった。しかし俺には避ける事ができなかったんだ。

 ヤンキーどもとは比べ物にならないほどの衝撃が体を突き抜けた。はっきり言おう。滅茶苦茶(めちゃくちゃ)痛かった。

 だけど、俺も何とか倒れずに踏ん張り、すぐさま反撃に転じる。

 俺とレオンは何度も互いを殴りあった。その際、決して互いに倒れなかった。


「お、おい。お前たち、チャンスだ。ヤッちまえ!」


 ライアンが何やらやンキーどもに指示を出している声が聞こえた。だが、今の俺には関係ない。シャーリーは俺の後ろにいる。それは畢竟(ひっきょう)、俺が退かない限り、何人(なんぴと)も彼女に近付く事は許されないということだ。

 それに何より、あんなヤツらの相手よりも、目の前にいるレオン・メイクラフトの方が、俺にとっては強敵だ。……敵ではない、強敵だ!


 だから――俺たちは――横槍を入れようとしたヤンキーどもを――


「「邪魔だぁ!」」


 秒殺した。

 計5人のヤンキーを秒単位でノックアウトしてゆく。ヤツらの動きは、こんなに遅かっただろうかと疑問に思うほど、遅かった。

 それは隣で闘う強敵(レオン)と目が合う(たび)に、信じられないほど時間というものが引き延ばされている印象を受けたからだと思う。


「ヒィーあいつら、ヤバイ、ヤバ過ぎる……」


 悲鳴を上げながらボンボン(ライアン)が逃げてゆこうとする。

 だから俺は後ろから彼の肩を掴む。レオンも分かっているようで、ただ淡々と佇んでいてくれた。


「待てよ。お前には礼が済んでない……」


 ライアンはギギギという擬音がなっていそうな動きをしながら、俺の方を振り返ってきた。

 それを俺はニッと微笑をもって迎えてやる。これも作りじゃあない。本当の(わら)いだ。

 一瞬でライアンは気絶してしまった。全く、このボンボンは……。一撃も与える前に気絶されるとは思いもしなかっただけに、妙に拍子抜けである。

 取り敢えず、コイツら6人をロープ――シャーリーに使うつもりだったのだろう――で縛りつけ、俺は向き合った。


 これからが本当の喧嘩だ。


 強敵もその気なようで、すでに構えを取っている。

 そして俺たちは決着がつくまで、殴ったり、蹴ったりした。


 結局、喧嘩の決着はつかなかった。

 すでに全身が痺れて意志通りに動かせない。それは強敵も同じだったらしく、俺たちは2人してぐったりと地面に横たわった。

 どこまでも蒼い空を見上げながら、ふと、シャーリーのことを思い出した。先ほど、バイタルサインを確認したところ、大丈夫のようだったが、このままでいいはずがない。

 なんといっても、彼女は気絶しているのだ。早く保健室へ運ばねば。しかし同時に、彼女が起きていなくて良かったとも思った。

 今の俺の姿は、服はところどころ破れボロボロ。体中には(あざ)や出血している傷もあったから。

 こんな姿をシャーリーに見せたくはなかった。


「ぐぅ……」


 無理に体を起こしたから、体を組成している骨々(ほねぼね)(きし)むような音が聞こえた。それでも俺は体を何とか起こすと、眠るシャーリーの方へゆっくりと歩いてゆく。

 だが、足がふらついて倒れそうになる。


 その時、フッと体が軽くなった。


 横を見ると、強敵(レオン)が肩を貸してくれていた。

 だから俺は礼の代わりに、笑いながら言ったんだ。


「お前……やるな!」


 すると、レオンも唇を少しだけ緩めて言ってきた。


「貴様も、な」


 こうして俺たちは、シャーリーを共に保健室へ運んでいったんだ。

 しかし保健室へ着いた途端、疲労感がどっと押し寄せ、俺とレオンはそのまま眠るように意識を手放してしまった。


 つまり、あの6人のことは、誰も知らないわけだ……。それに付け加え、あそこは滅多に人が通らない。よって……いや、ここからは全てが仮定だ。意味がないだろう。




 次の日、まだ体中が痛んだが、仕方がないので、俺とレオンは彼らが待つ場所へ向かった。シャーリーは、今からやることがやることなので、保健室に寝かせておく。

 今日が試験明け休みで本当に良かった。

 行く際に何故かレオンも付いて来たが、むしろそれが最も自然な形であるかのように俺には思えてならなかった。

 そしてあの場所に辿り着くと、やはり彼らは居た。縛られたままで。

 俺はニッと唇を意識的に歪め、彼らを(にら)み付けた。

 許す――という選択肢は俺の中では存在しなかった。こういう(やから)には、一度きっちりオトシマエ着けねばならないから。刻み込まねばならないから、どちらが上かということを。


「よぉ、ボンボン」


 気軽に声を掛ける。しかし俺の顔が笑っていても、眼が据わっていることを感じたのだろう、ライアンはガクガクと震えだした。縛られて動けない体を必死に動かそうとしている。


「助けて欲しいか?」


 静かに尋ねる。


「……あ、ああ! 助けてくれ! 何でもする! 金でも何でもやるから!」


 昨日の記憶がフラッシュバックしているのだろうか、彼は異常なまでの汗を掻いていた。

 ――どこまでも低俗なヤツだ。この思いしか俺には浮かんでこなかった。


「そ、それに俺は悪くねぇんだ! あの5人組から頼まれただけなんだよ! だから俺だけは助けてくれ! コイツらもヤっちゃっていいから!」


 そう言って、ヤンキーどもを指差す。指された彼らは、驚いていたが、すぐに怒りの色を濁った瞳に宿した。だが、言い訳だけはしなかった。

 もはや、俺にはボンボンに何と言っていいのか分からない。

 ただただ冷酷な頭脳が、ヤツをどう調理するかを考え始めていた。


「もういい、もういいよ。お前は、俺があれだけ必死に頼んでも、結局、聞いてはくれなかった……」

「あ、あれは……そうジョークだったんだ! ジョーク!」


 蔑みの視線すらヤツに与えるのはもったいないと思え、何の感情もない――果てしなく虚無的な瞳をヤツに捧げた。


「そうか……」


 このセリフをヤツは許しだと思ったようで、顔をパァッと輝かせた――いや、輝いていたのかな……ただ可視光線が明るく照らしていただけかもしれない。

 俺はヤツを取り敢えず、衝動のままに、欲望のままに痛めつけようと、一歩前に進んだ。

 その時だ。誰かが、俺のことを引っ張った。正確には、俺の服を引っ張った。

 後ろを振り向くと、本来ここにはいるはずのない、彼女がいた。

 息遣いを荒くして、全身絆創膏(ばんそうこう)だらけの姿で、俺の服を掴んでいる。


「しゃ、シャーリー……」


 上手く言葉がでなかった。


「はぁ……はぁ……。良かったぁ、間に合った……」


 シャーリーは明らかに無理をして俺に微笑んだ。


「な……何が?」


 乾いた淡白この上ない言葉しかでない。


「ジューンバルト君。これから、何をするの?」


 疑問を疑問で返されたが、気にせず、俺は正直に言った。


「あのライアンってヤツをボコる」


 もしかしたら、シャーリーもかなり怒っていて、それを晴らすために来たのかもしれない。

 そう思った。

 だが――


「だ、ダメだよ、ジューンバルト君! 人を殴っちゃダメだよ!」


 彼女はこう叫んだ。


「は? 何でだよ! ヤツは、あのクズは、君にあんなひどい事をしたんだぞ!」

「それでも、ダメだよ……」

「だからどうして! ここできっちり絞めておかないと、ヤツはまたやるぞ!」


 (たま)らず、大声で怒鳴ってしまう。だってそうだろ、何故あんなことをした連中に遠慮をしなければならないんだ! 意味が分からない!

 だけど、彼女は俺の目をじっと見つめ、微かに涙を浮かべながら、優しく微笑んだのだ。


「それでも、ダメだよ……。だって、ジューンバルト君、とっても悲しそうな顔をしてるから。あたしは知ってるもん。ジューンバルト君は誰よりも優しいって。だから、そんな悲しいこと、しなくていいんだよ……」


 俺じゃない。俺じゃないんだ、優しいのは。

 この時の俺には、ただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。


 だってしょうがないだろ。


 目の前にいる(けが)れなき女神に、矮小(わいしょう)なこの俺がどうにかできるはずがないだろ。女神の、どこまでも優しい微笑みに当てられたら、もう俺には、俺如きには、どうしようもなかったんだから。

 握り締めていた手から、力が抜けてゆく。

 シャーリーはそんな俺の横を通り過ぎ、ライアンの元へ向かった。

 俺がそれを「あぶないぞ!」と止めようとしたら、今度はレオンに肩を掴まれた。振り向くと、彼はゆっくりと首を横に振る。

 しょうがない、ただ見守ろうと思った。


「ライアン君……」

「な、なんだよ……ですか?」


 俺が(にら)みつけると急いで言い直すライアンに、シャーリーはニッコリと微笑みかけた。


「どうして、こんなことしたの?」


 優しく語り掛ける。そんなヤツに優しくする必要など、どこにもないのに。


「はっ、どうしてもこうしてもない……ですよ。ただの憂さ晴らし、そんなもんだ……です」

「でも誰かを傷付けるのは、ダメだよ」

「は? バカかお前。そんなことどうだっていいんだよ」

「確かに私はバカだけど、やっていいことと、やっちゃいけないことぐらいは分かる」

「ハッ、そんなこと言っても、どうせお前も俺を恨んでるんだろ? 当然だよな、何度も泣いてたお前をいたぶったのは、この俺だからな!」


 そう言ってライアンは(わら)い出す。俺は震える手の衝動を(こら)えるのに、全神経を使った。


「うーん、どうだろ……。よく分かんない――」

「はぁ?」


 この時ばかりは、ライアンに同意だった。


「――でも、やっぱり恨んではないよ。確かにあの時は痛かったし、泣いちゃったけど、傷はいつか治るから。だけど、ここで私が許さないと、ライアン君たちのやったことはずっと治らないから」


 何か、スッと胸の奥に入り込んでくるものを感じた。

 それは自然と握り締めていた拳を、優しく解いていき。

 気づけば、ただ呆然とシャーリーを見つめ続けた。


「…………」

「だからね、あたしは恨みません。ライアン君たちを許します」


 これ以上に優しい声を、俺は聞いたことがなかった。

 そしてシャーリーは尚もライアンに近付き、なんと、彼の頭を撫でだした。

 すると、彼はハッとしたようになってから、ふいに顔をひどく歪め――ポロポロと涙を流し始めて。


「お、お前……やっぱりバカだろ。許すって、俺を? あんなことしたのに? それに何で撫でてんだよ……。こんな俺なんかを、何で撫でてんだよ……」

 

 涙声で、とても掠れていて、何と言っているのか、正確には分からなかった。

 しかしシャーリーには、全てが分かっているようで。

 

「だって、ライアン君。なんだかとても寂しそうだったから。こうすると、気持ちいでしょ?」


 彼女はニッコリと微笑んだんだ。


「あっ、抱きしめてあげるのはダメね、ごめんね。あれは一人にしかやらないって決めてるから……」

「くぅ、やっぱりお前……バカだよ。俺が寂しいわけ…………。うっ、うぅ。……でも、暖かくて、気持ちいい……」


 とても安らいだ表情のライアン。

 コイツは、こんな表情もできるのだと、実感した。


「よかったぁ。もうこれで、大丈夫だね」


 未だシャーリーは、太陽のような笑みでライアンを照らしている。

 少なくとも俺の目には、そう映ったのだ。

 闇を照らすのはいつも、光なのだから。

 泣きじゃくるライアンに、俺はゆっくりと近付いてゆく。意外なことに、レオンはすんなりと手を離してくれて。


「ジューンバルト……」


 俺の姿を見たライアンが、蚊が鳴くような小さい声で呟いた。

 その顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃで、お世辞にもカッコいいとは思えないし、世間的に言えば、できれば見ていたくないものの部類に入るだろうとも思う。

 しかし、目を背ける事は(はばか)られた。

 なぜかは知らぬ。

 どうしてもそれが許されなかった。

 それだけだ。


「…………」


 だから俺は無言で、彼らを縛る縄を(ほど)く。

 しかし解き終わっても、6人のうち誰もその場を動こうとしない。


「シャーリーが許した。だから、俺もお前らを許す。それだけだ……」


 そう付け加える。

 付け加えた直後に、彼らはすぐに地面に額を擦り付けんばかりにして、土下座をし始めた。


「すいませんでした!」


 皆が泣きながら、そう言う姿は、もうヤンキーに見えない。

 ただ、涙を流す人だった。




 数ヵ月後――。


「エヘヘェー、いいでしょ? コレ」


 いつも通り、あの庭園に集まった俺たちは語らっていた。

 そんな折、シャーリーがニマニマと気色悪い笑みを浮かべながら、言ってきた。手にはなにやら紙切れを持っている。いや、おそらく手紙だが。


「なにが?」


 別にいいとは思わなかったので、素直にそう返すと、シャーリーは自身満々に胸を張る。


「何がって、ラブレターよ! ラブレター! ライアン君にもらったんだぁー」


 彼女の答えが何となく面白くなかったので、文句でも言ってやろうと思ったが、そこには先客がいた。


「そうか……それは、よくない。破って捨てたほうがいい」


 俺以上に不機嫌そうな顔つきで、レオンがそう言った。

 あの一件以来、レオンもこの庭園に来るようになったんだよ。そして俺たちと遊んだんだ。3人になったことで、簡単な遊びなら色々と出来るようになったから。

 つまり俺とヤツは強敵(ライバル)にして、俺の初めての男友達ってわけだな。

 カッコつけるなら――強敵と書いて、友と読むって感じか。


「えぇーなんでよ! ダメだよ、破っちゃ! せっかくくれたのに……」


 レオンの返答がお気に召さなかったようで、ピンクのポニー少女は膨れっ面になった。

 そういえば、あの後すぐにシャーリーは長い髪を縛ってポニーにしている。それに伴って、彼女の中で何かが変わったようで、けっこうトゲのあることも言うようになったし、行動もどこか積極的になっていた。


「いや、シャーリー。それは捨てたほうがいい。即刻に、だ。でないと、アイツに一生付き(まと)われるぞ? 例えばだな――」


 やはり俺自身も何となく面白くなかったので、レオンに続き、その手紙の危険性についてみっちりと説明してやる。


「うぅ、それは嫌かも……」


 ものすんごく嫌そうな顔つきで、シャーリーは俯いた。

 これなら大丈夫なようだ。何が大丈夫なんかは知らない。ただ断っておくが、俺は催眠の類は使っていないぞ。

 目下勉強中だ。

 とまあ、シャーリーはそそくさと鞄に手紙を仕舞い込んでいるようで良かった良かった。


 ところで話は変わるが、俺が独自に調べた結果、ライアンは母親を早くに亡くし、肉親は父親だけだったらしい。さらにその父親は仕事で滅多に家に戻らない上、ものすごい厳しい人のようで、ライアンの成績が落ちた――つまり俺に負けたからだが――ことで、体罰のようなことが行われていたようだ。


 ちなみにこれは誰にも言っていないし、これから先言う予定もない。

 心の中に仕舞い込んで、おそらく一生出る事はないだろう。


 俺自身も、あれからちょっぴり変わったのかもしれない。


 世界が、この花壇のように(いろど)りで満ちているんだ。

 そして見渡す限りの世界ではなく、見果てぬ世界を見てみたいと思うようになったんだ。


 ――そういえば、これこそ俺が、俺たちが、コスモ探求部を創部した理由かもしれないな。宇宙の神秘を解き明かし、未だ見ぬフロンティアを切り開くための部。


 とにかく、今の生活が楽しくなったんだよ。

 隣を向けばシャーリーがいて、もう一方を見れば不本意ながら――(テレている)――レオンがいる。

 それが限りなく嬉しかったんだ。


「そういえば、ジューンバルト」

「えはぁ?」


 パツキンに心の中を(のぞ)かれたかと思い、反射的に間抜けな声を出してしまった。

 それに反応してポニーが声をあげて笑い、パツキンが口元を緩める。

 笑われた事には少々ムッとしたが、彼らの表情を見ていたら、どうでもよくなってしまう。


「お前の名前、ジューンバルトって長くて言いにくいんだが……」

「なんだ。そんなことかよ。なら、ジュンって呼べよ。親とかはそう呼んでる」

「分かった、ジュン」

「おう、レオン」


 男同士で唇の端を上げながら気色の悪い構図を形成していたところ、シャーリーが割り込んできた。


「あぁー、ズルイよ! 私もジュンって呼ぶからね。いいでしょ?」

「もちろんだよ」


 何がズルイのだか分からなかったが、取り敢えず全く異論はないので了解しておく。

 そうそう、付け加えると、シャーリーは俺のことを呼び捨てになっていたんだ。何でもそっちの方が、この俺にふさわしいらしい。


「よっしゃ! んじゃ、今日は何して遊ぶよ、皆の衆?」


 ニッと自然に口が笑みを作ってゆくのが、手に取るように分かった。


「うーん……」

「そうだな……」


 俺の問いに、難しい顔をしだす2人。

 だから、俺はその2人の手を握ろうとして、止め、シャーリーだけの手を握り駆け出した。

 だって、気色悪いだろ? 男同士が手を握り合ってるなんて。


「あっ、ちょ、ちょっとジュン!」


 慌てる声でシャーリーが言ってくるが、そんなもの構うもんか! 俺は一分一秒でも早く遊びたいのだ。悩んでなんかいられない。


「お、おい。待てよ!」


 そう言ってレオンのヤツが、俺とシャーリーを追いかけてきた。

 今日も、そしてこれからも、楽しくなりそうだ。

 俺たちはみな笑顔で、この広い庭園を駆け回った。

 久しくしていない空想――だけど、それはしょうがない。

 だってコイツらといると、ただ、それだけで、最高に楽しかったんだから。


挿絵(By みてみん)




これにて昔話は終了です。

次話からはもう一度、実践授業を入れます。キーファンスとの模擬戦です。

最近寒くなりました><

ではでは~

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