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ATRATICA IN CAPITAL OF WATER   作者: Franz Liszt
第2章 『学園編』
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第12話 『実践授業!』


 『実践』授業の行われる闘技場(コロッセオ)に大勢の人々がいた。授業は全クラス別々なので、全員が2-Aの生徒である。


「よーし、お前たち! 準備はいいかぁ! いいよなぁ! 今から実践を開始する!」


 すさまじく自己中心的な確認をとってから、キーファンスが授業の開始を宣言した。

 彼の目の前には、すでに着替えを終えた学生たちが整列している。彼らは学生服から体操着に着替えており、男女ともに半袖シャツにハーフパンツを着用している。

 彼らは男女2列ずつで並んでいた。

 

 ジュンは隣の列のちょうど真横に居るフィーナを横目で見てしまう。

 瞳にはフィーナの剥き出しになった白い肌が映る。どこか人形めいて白いが、健康的でもありながらもきめ細かい彼女の肌には、強烈な吸収力があるのだ。シャーリーの紫色の瞳が(かも)し出す力と同等である。

 視線を感じたのか、フィーナもジュンの方をチラッと見た。そしてフィーナは頬を少し赤くして、爪先(つまさき)で地面に○の絵を書く。絵に意味などない。


「じゃ、取り敢えずお前らに言っておく事がある!」


 キーファンスが大声で叫ぶ。


魔装士(アトラー)魔法使(メシュティー)にとって、最も大切なものは何だと思う?」


 この場には機工魔導師(エンチャンター)は存在しない。彼らは工房で、別の教諭によって授業を受けているのだ。

 つまりここにいるのはアトラーとメシュティーの生徒だけであるが、ほとんどがこのどちらかなので、クラスの面子(めんつ)とほとんど変わりないのである。

 

 問われたが、キーファンスの問いかけに生徒たちは無反応だ。

 ヤレヤレといったようなジェスチャーをしたキーファンスは、生徒たちの前を左右に歩きながら、言葉を続ける。


「ならば、心して聞けーいっ! お前らに最も大切なのは――ずばり、観察力と忍耐力であーる!」


 どんどん音量がラウダァーしてゆく。

 とても力強い声がジュンの鼓膜を激しく振動させた。

 キーファンスの言葉がしかとジュンの記憶に刻まれる。キーファンスの言っている事は、間違っていないと思ったからだ。


「観察力は、アトラーは相手との距離感や行動を掴むことで、メシュティーにとっては相手との相性を的確に素早く判断するのに必須だ。そして忍耐力は、全ての行動の根幹(こんかん)において最も大事である。忍耐力なくして、人の成長は望めない!」


 ジュンはキーファンスの言葉を改めて、その通りだと思う。

 人間が生活する上で、また現在という定義が曖昧な時間において、苦しい事に耐え、誘惑に負けず、常に未来を見据え行動が出来る者のみが成功を掴めるのだ。

 挫折(ざせつ)もいい、悩むのもいい、泣くのもいい、だが、歩みを止めてはならない。ゆっくりでもいいから前へ進むべきだ。

 そうすることで人は前に進めるし、誰かに優しくできるし、逆に優しくしてもらえる。

 昔からジュンはそう思っているし、そう信じている。

 なぜなら今は亡き父親に言われたからというのもあるが、時々ジューンバルト自身が感じていたのだ――ここではないどこかで、自分が諦めた時、とても大切なものを失くす夢を何度も見たことで、感じていたのだ。

 それに昔の公園で出会った少女を、ジュンは、もっと自分がちゃんと歩み寄って慰めていれば、彼女は自分を見つけてくれたのではとも思う。

 ――今の自分を見て欲しかった。今なら彼女に……。


「そこで――」


 キーファンスの大声によって、ジュンはハッとなって首を振り思考を中断させる。


「そこで、諸君らにはこれをやってもらう! キャロル先生!」


 天を指差しながら、不遜(ふそん)な態度でキャロルを呼びつけるキーファンス。するとその声に反応するように、闘技場の右の入り口からキャロルが姿を現した。


「は~い~、持って来ました~」


 姿を見せたキャロルが押す配膳道具の上に、なにやら汚い水が入ったガラス製のバケツのようなものを乗せている。

 ドロが混じっているかのように黒い水だ。恐ろしく汚い。

 それをキャロルはキーファンスの目の前にまで運んでくると、スススーとではなく、ゆーくりと来た時のように姿を消していった。


「さぁて諸君。これよりお前たちの適正調査を行おうと思う。今からこれを1人ずつ舐めてもらうのだ! こーのように!」


 そう言ってキーファンスは自身の指を水の中に突っ込み、指を舌に乗せ確実に舐めた。

 皆が唖然(あぜん)としたように、その光景を見入っている。当然だろう、あの飲み水とは到底思えないモノを、キーファンスは平然な顔つきで舐めたのだ。


「これは忍耐力の検査だな。やらないものに、俺の授業を受ける資格はない! さぁ、前のヤツらから順にやっていけ!」


 ものすごい暴論を振りかざしているキーファンスだが、誰も反論できるものはいなかった。彼自身がやらないのなら、色々と言い訳ができる。しかし彼は実際にやって見せ、安全性の証明も済ませているのだ。


 渋々といった表情で、前列の生徒たちが前に出てゆく。

 そして指をドス黒い水に恐る恐る漬け、それを舐めてゆく生徒たち。かつて冒険者をしていたというキーファンスが至近距離で見張っているため、誰も小細工などしていない。


 皆は本当に、“水に漬けた指”を舐めている。


 ジュンはその光景を少しだけ可哀想に、そして面白く眺めていた。教えてやってもいいが、全員に教える事は授業の妨害行為でもあるしなと思う。

 だが、フィーナには教えてやらねば……シャーリーにはレオンが教えるだろう。


 キーファンスは確かに指を舐めた。そして「“これ”を舐めてもらう」と言ったのだ。

 一度たりとも、この水を舐めろとも、“水に漬けた指”を舐めろとも言ってはいない。

 実際に彼は、『人差し指』を水に突っ込み、『中指』を舐めたのだ。

 つまりこれは、キーファンスは『忍耐力』の調査であると公言しているが、その実態は『観察力』の調査でもあったわけである。

 それなのに皆はキーファンスの行動と、あの汚い水にのみ注意を払っていたため、苦そうに顔を歪めながら“水に漬けた指”を舐めていた。

 それをニヤニヤしながら眺めているキーファンスは、とても意地が悪いと感じる。だが、面白い調査であることは否めないともジュンは思う。

 そろそろ順番がジュンとフィーナに回ってくるので、ちょんちょんとフィーナを突っつく。


「ん? ジュン……何?」


 少し体をジュンの方に寄せながら、フィーナは問うた。

 ジュンは近づいてきた彼女の体から香る柑橘系の匂いにクラクラとした。その匂いは強すぎず、かといって弱すぎず、実にちょうど良い。いつもどおり香水を付けているのだろう、良いチョイスだ。

 と、そんなこと今は関係ないと思考を隅に追いやり、ジュンは言葉を紡いだ。


「フィーナ、本当に水を舐めるのか?」

「え? ジュンは舐めないの?」


 やはりフィーナも気が付いていないようだ。これはキーファンスが見事だと言わざるを得ない。

 まず皆の視線をあの配膳台上の水槽に釘付けにして、キーファンス自身が指をゆっくりと水に漬ける。そしてまたゆっくりと指を舐める。

 そして前もって『忍耐力』について言及しておくことで、皆がこれは泥水を舐めるものだと強い印象を与えるのだ。

 この行動順序によってキーファンスは生徒たちを見事に騙したのだ。前頭葉ニュートロンにかなりの影響が出るコードを与えたと言えば、彼の凄さが分かるだろう。


「舐めないよ」

「え!? 駄目だよ! あの先生、すごくしっかり生徒を監視してるし」


 ジュンのあっさりとした回答に、フィーナはかなり慌てている。

 彼女の慌てっぷりは、ジュンのことを心配してくれているのだろう。

 ――それに対し、少し笑えてしまう俺は性格が歪んでいるのだろうか……。


「大丈夫だよ。あの先生は、水に漬けた指を――」


 ジュンはキーファンスがやった行動を詳細に説明した。


「ええっ! そうもがっ」

「おい、フィーナ。シィー!」


 驚いて大声をあげてしまいそうになったフィーナの口をジュンは急いで封じる。

 ジェスチャーで静かにとも伝える。息遣い荒い彼女が、コクリコクリと顔を赤くしながら頷いたので、手を離す。


(酸欠するほど長く押さえつけていたか……?)


 ジュンはフィーナが顔を赤くしたのは、酸欠のためだと思っていたが、実際はそんなことはない。それに彼が気付くのは、いつなのだろうか。

 本当にこういったことに対する機微にジュンは疎い。さすがは年齢=彼女いない歴、なだけはある。


「ぷはぁー。そのジュン。私が悪いんだけど……その、あの、いきなり……ゴニョゴニョ」


 フィーナが俯きながらゴニョゴニョ言っているので、それに返事をしようとしたが、ちょうど自分たちの番が来てしまった。

 だから「行こうか」と声を掛けてから、前に出てゆく。

 フィーナもその声に反応して、ジュンの後に付いて行った。


「次は、ジューンバルトに、プリンセス・フィーナか」


 呟きながらも、キーファンスはフィーナがプリンセスだからといって、種を明かすつもりはないようだ。教師の鑑なのか、それとも無頓着なのだろうか……。

 ジュンは絶対に後者だなと思いながら、汚い水に『人差し指』を突っ込む。

 それを引き抜いて、『中指』をゆっくりと舐める。

 同時にキーファンスの目を見つめた。

 彼はニッと少年のようなイタズラそうな笑みを浮かべている。どうやらジュンの行動に気が付いたようだ。

 注意をしてこないということは、やはりあの洞察は正しかったわけだとジュンは思い至った。

 そしてフィーナに席を譲り、後ろで待つ。彼女もジュンに言われたように、『中指』と漬け、『人差し指』を舐めた。

 それを見たキーファンスが、ジュンに目を向けた。その目は「フィーナにも教えたのか?」と語っているようだ。

 そこで肯定の印として、ジュンはゆっくりと微かに頷いてやる。


「ククッ……」


 そう声をキーファンスは洩らした。

 久しぶりに面白いヤツに会ったなと思う。しっかりと観察した上で、この解を導いた。自己紹介の時から『できるヤツ』だとは思ったが、想像以上かもしれない。キーファンスは指をゆっくりと舐めたが、ゆっくりと指を口に含んだわけではない。


(俺はあの時、かなりのスピードで指を口に入れたはず。ジューンバルト……やるなぁ!)


 それを目力で訴えると、ジューンバルトも気付いたようだ。余裕そうで且つ不敵な笑みを浮かべている。

 そしてジュンが後ろへ視線を向ける。キーファンスもそれを追う。


(なるほど。あの金色の――確かレオンだかってヤツも気付いたか……)


 ジュンの視線の先にいる生徒はそれなりの数がいたが、キーファンスにはそれで十分だった。

 そして生徒全員が舐め終わってから、キーファンスは種を明かした。


「諸君らは、素晴らしい! 俺は感動した! 諸君らの忍耐力に!」


 キーファンスの声に反応して、生徒たちがざわめきだす。

 『静まれ』と手でやってから、キーファンスは言葉を続けて、説明を再開する。


「だが! 諸君らには足りなかった……。圧倒的に観察力が! ――」

 

 そして生徒たちはやはり当初と同じように唖然としながら、キーファンスの人の(かん)(さわ)るような話を聞いていたのだった。





 実践授業は通常授業の2講義分に相当する。つまり、3時間ぶっ通しでの授業となるわけだ。

 授業では3時間のうち、1時間がすでに経過していた。


「では、今から諸君らには準備体操をしてもらう!」


 キーファンスの指示に従って、生徒たちが広がり準備体操の体系を作り、体操を開始した。これはジュンたちのピースランドの体育の授業と同じ流れだった。簡単に言えば、ラジオ体操だ。

 前に出て先導する生徒はいないため、皆が声を出しながらリズムを取っている。

 準備体操が一通り終わり、次は腕立てを男子30回、女子20回。それの次は腹筋を同回数で、背筋も同様。最後に男子は逆立ちを、女子は馬跳びをやらされた。

 全部を終えた頃には、ジュンはいい感じで体が暖まってきた。

 準備運動とは、徐々に体を動かす事で、筋肉や血管への血流が増やす行為だ。段々と体温が上昇し、筋肉がほぐれ、運動に適した状態に人体をもってゆく。また準備体操は怪我や障害の予防にもなる。

 時間を費やす価値は十分にある。


「よし! そこまで! 集合!」


 まるで軍隊の召集のような印象を受けるケーファンスの号令に反応して、散らばっていた生徒たちが駆け足で最初の形に集まってゆく。


「ではこれより30分間、魔装士(アトラー)同士、魔法使(メシュティー)同士のペアを作り、各自で打ち合いの練習! 必ず打ち込む回数を決め、交互にやれ! 散開!」


 ジュンは目を斜め後ろへ向けると、金色の青年もジュンの方に目を向けてきた。

 そのままレオンの方へ歩いてゆく。自分のペアならば、レオンが最適なのだ。

 彼とはずっと昔から、F・Sファイト・シミュレーターをやってきた者同士だ。もしこれからの実践で勝負の機会があるのならば、あの『雨』の日に着けられなかった勝敗を、ここで決めるのもまた一興だろう。


「じゃ、やるか、レオン。俺から打ち込んでいいか?」


 台詞の最後に「再創造(リクリエイション)! セーフティ・モード」と続け、ジュンは自身の魔装(エイン・シェル)を元の姿に復元しておく。

 『セーティ・モード』とは学生が人を傷つける事がないように、SafetyCore(セイフティ・コア)と言う物体が宝石のところに埋め込まれており、これは学園を卒業することで、解除してもらえるのだ。詰まるところ、安全装置のようなモノ。


 ジュンの声に反応して、カッと淡い光を放ちながら、薄い水色に圧縮されたエイン・シェルが双剣に変形した。左剣の柄の翼は羽根をたたみ、右剣の翼は羽ばたいている。各翼の中心には、球状の(きらめ)くダイヤモンド。そして純白の刀身には鳥のレリーフが刻まれており、また微弱な光を帯びていた。

 刀身に帯びる光は、ジュンの『属性』である『洸』によるものだろう。


「ああ、回数は適当なところで、切り上げていいだろ――リクリエイション、セーフティ・モード」


 ジュンはレオンの返事を聞き、しっかりと頷いた。

 もうこういった打ち合いは、今までにゲーム(F・S)内で何度もやってきたが、あのゲームは自身の体を動かすもの――疑似体験型なので、“適当なところ”でレオンとなら十分だと思う。


「んじゃ、いくぞ!」


 ジュンは掛け声と共にレオンに打ち込んでゆく。

 周囲ではすでに打ち込みをし始めているペアもおり、横目で少し見てみたが、自分と同じ双剣使いはいないようだった。


 レオンは大剣へエイン・シェルを変化させている。その切っ先を的確に動かし、ジュンの双剣から放たれる切り込みを(さば)いてゆく。

 彼の持つ大剣の雷撃を帯びた金色の刀身が、ブゥゥーンと虫の羽音のような波動を放出している。付け加えるなら、レオンの大剣は長剣にも変化できる『2・イン・1型』だった。


 ジュンが視線を移動させると、近くではフィーナがシャーリーに魔法の講義をしている光景があった。魔法でシールドを張るのがこうだとか、魔法は呪文書で覚えてきた? だとかを会話している声が聞こえてくる。

 周りを見るに、魔法使(メシュティー)の打ち合いは、一方が魔法を放ち、他方が魔法でシールドを張りそれを防ぐという訓練であるようだ。


 そんなことを考えながら、合計で100回ほど打ち込んだところで、レオンと交代する。

 お互いに声は掛けずとも、今までの経験と動作の差異から、おのずと完璧なスイッチができた。


「なぁ、レオン。魔装(エイン・シェル)で何か技とか考えた?」


 大剣から放たれる重い一撃に対し、ジュンは双剣を重ねて防いだり、または一振り目でいなしたりしながら、尋ねた。


 先ほどフィーナから聞いた話によると、魔装士(アトラー)は接近戦用の武器を使用する関係上、基本的に武術で戦うらしいが、状況によっては魔装士自らの属性を用いた技――思念技(アイディ・スキル)を繰り出して戦略をたてるのだ。

 例えば『炎』の属性の魔装士ならば、魔装を地面に突き刺せば火柱を創れたり、斬れば火傷を同時に与えられたりする。また身体能力を上昇させることも可能で、炎は侵略するが如く、力が増す。これが思念技(アイディ・スキル)と呼ばれている。

 そして探求をすれば、遠距離的なものは少ないが、近距離ならば様々な使い道の思念技(アイディ・スキル)が属性にはそれぞれあるとも、フィーナは言っていた。

 ジュンはそれを聞いてから今まで、色々と考えてみたところ、いくつか試したい思念技を思いついたのだ。さらに、調子に乗って技の名前とか付けてみたりしてしまっていた。お恥ずかしい。


「いや、俺はまだ思いついていないが、お前は思いついたのか?」


 大剣を打ち込むのをレオンが止めたので、ジュンも両腕を下に垂らす。攻守交替というわけではなさそうだと思う。

 おそらく、思いついたのならば、使ってみろといってところだろうか。


「おぅともさ。いくつか候補はできた。使えるかどうかは、分からんけどな」


 ジュンは肩をすくめてみせる。

 思いつたはいいが、実際に使えるかは未知だ。先走って技名などを付けてしまったことをちょっぴり後悔している。


(だけど、技名はこの世界じゃ普通だってフィーナも言ってたし……)


 そう――このユーレスマリアでは、一般的に魔法にも、魔装の技にも名前が付いている。名前の付け方は個人の自由であるものの、ほとんどは古代文字扱いである『英語』で付けられる。これはほとんどが単語なため、読めるというか覚える人が多い。


 本来、魔法使の魔法や、魔装士の技は基本的に使用者の『思い』が発動の鍵であるが、共に戦う者にも分かるようにと名前を付けるのが普通である。

 『アトラス』と『メシュティア』というパートナーが、このアトラティカ王国を建国しただけに、この国では多人数で戦うことを想定して、技名や魔法名の存在が尊重されているようであった。


 しかし、使用者の『思い』が具現できるかどうかは、まったく分からない事で――試してみなければ、役立つかどうかも、使用できるかどうかさえ分からない。属性がその使用者の『思い』を承認しなければ、絶対に発動はしないのだ。

 つまり使用者が自らの属性と“どれだけ近づけるか”が、より高度な思念技アイディ・スキル魔法(マジック・ロウ)を具現する唯一の術だった。


 またそこで重要になのは、魔装(エイン・シェル)魔法杖(エイン・ロッド)の設定でもある。

 魔装はその思念技(アイディ・スキル)にあった形やら彫刻を施さねばならないし、魔法杖は魔力量の調節やら同じく彫刻をも確実に合わせねばならない。

 さらに、属性の力の発祥元(はっしょうげん)である宝石……これをはめ込まれる位置もとても大切だそうだ。

 ここからは機工魔導師(エンチャンター)の領分であるので、魔装士(アトラー)たるジュンたちや、魔法使(メシュティー)たるフィーナたちにはさして関係がなく――今は工房で授業中のケンジやリリアらに関係があることだ。


「そうか。なら、使ってみるか?」


 ジュンが技を思いついたらしいので、そうレオンは提案した。おそらくジュンは、試したいと思っているはずだ。

 それに正直レオン自身も、ジュンがどんな技を思いついたのか、とても興味がある。ジュンはスピードタイプだから、それに合った技だろうとは何となく予測できたが、それ以上は分からない。

 もしかしするとジュンのことだから、意表をつくものを思いついてる可能性も大きい。


(アイツの想像力は、並じゃないからな)


 レオンは自分に想像力が足りない事を自覚している。ジュンの発想には時々置いていかれているのが、いい証拠だと思う。

 そのことを悔しいと思うからこそ、レオンは自分に足りない分を努力で補ってきた。それでも昔は、ジュンに対しそれなりにコンプレックスを持っていた。

 ――なにしろ、俺がいくら努力しても、アイツは平然と俺のすぐ後ろにいたのだから。

 しかし、あっけらかんとしたジュンと長く付き合ってゆくうちに、そういった感情を抱いている自分のことがとても小さく、くだらない人間のように思え、止めた。

 ――俺がより努力をすれば、それでいい。ただ、それだけのことだったのだから。


「よっしゃ! サンキューレオン」


 試してもいいとレオンが言ってくれたので、その厚意に甘んじることにする。

 ジュンとしても、先ほどから試したくて試したくて、我慢の限界だったのだ。これは天啓に他ならない。


「んじゃー……」


 そう意気込んで、いざ()かんとした時、ジュンの脳裏に1つの事が思い浮かんだ。


「どうかしたか?」


 急に体勢を戻したジュンが不自然だったので、レオンはすぐさま訊いた。


「おい、レオン」

「だから、なんだ?」

「俺は今から技名とか言っちゃう予定だけど、絶対に、そう絶対に。ここ重要だからな。ぜーったいに笑うなよ!」


 ジュンが懸念していたのは、まさしくコレのことだ。

 ――技名を呼ぶなど、ジュンたちの世界ピースランドでは精神異常者に他ならない。昔の地球では、中二病(ちゅうにびょう)などと呼ばれていたほど。

 それは耐えられない。だから、一応のために念を押しておくのだ。一応。


「フッ……了解だ」

「もうすでに笑ってんじゃねぇか!」

「そんなことより、ジュン。やるなら早くやれ」

「そんなこととはなんだ!」

「やらないのか?」

「やる!」


 ――そうだ。レオンとここで押し問答をしていても意味はない。

 そろそろ、キーファンスが指定した30分が経過してしまうのだ。


「いくぞっ! レオン!」


 ジュンは声と共に、双剣を構える。最初の型はいつもファイト・シミュレーターと同じ、左の剣が上段で、右の剣が中段。


「ああ、いつでもいい」


 レオンの返答を確認してから、ジュンは駆け出した。といっても元々立ち位置が至近距離だったため、距離は一瞬で詰まる。

 そして――


「いくぜ! Light(ライト)Pressure(プレッシャー)――!」


 ジュンは少しだけの気恥ずかしさを覚えたが、この際羞恥心(しゅうち)など捨て置き、属性の『洸』――つまり『光』を想像することに専念する。ジュンの『洸』は淡い光なので、出来る限り強烈な光を想像しなければならない。

 イメージは『光圧』だ。光圧(こうあつ)とは光が物体にあたって反射・吸収されるとき、物体の表面におよぼす圧力のこと。当然、光が強ければ強いほど、その圧力は大きい。

 この技はまず双剣を1つに重ね合わせ、そこに力強い光を(まと)わせる。それによって誕生する『洸剣』を用い、圧倒的な力で相手を押し潰す――押し潰せたらいい……な、とジュンは思う。

 もちろんセーフティ・モードとはいえ、これは訓練なので腕に込める力は制御しておく。一瞬でもヤバイと思ったら、すぐに双剣を元に戻すことも念頭に置いてある。


「ハァーッ!」


 ジュンは叫び声をあげながら、重ね合わせた双剣を一気に振り下ろした。

 双剣に埋め込まれたダイヤモンドが輝きだす。その輝きを剣の柄に施された翼のオブジェが拡大し、放出している。

 残像さながらに、剣は光の尾を引きながら、レオンの大剣へと向かってゆく。

 レオンは力を入れて、数瞬後の衝撃に備える。これはでかいのがきそうだと、風の動きで分かった。

 ――ガキィーンッ! 金属が激しくぶつかり合う音が響く。

 レオンの大剣とジュンの双剣が接触した瞬間――ジュンの双剣が帯びる光は、どんどんレオンの大剣へと流れ込んでゆく。


「くっ!」


 苦悶くもんの声を洩らしたレオンは急に自分の足が地面にめり込みながら、さらに後ろへ押されている事に気が付いた。

 突如、力が増してきたのだ。


(以前のジュンにこれほどのパワーはなかったはずだ。ならば、これが魔装の力かっ!)


 本来スピードと読みがずば抜けているジュンが、こういった力押しで来ること自体珍しい。やはりこれが、試したかった技の効果なのだろう。

 それにレオンも『光圧』の意味は知っている。

 となれば、双剣から大剣へと流れ込んだあの光が、その圧力を振り下ろされた剣戟(けんげき)の威力に付与されたのだと推測する。


 ふと圧力がなくなったので、レオンは顔を上げた。


「こんなもんかな。どうだったレオン?」


 すでに双剣をレオンの大剣の上から退()けさせたジュンは、すぐさまレオンに意見をせがんだ。

 ジュンとしては中々の手応えを感じていたが、やはりここはレオンの意見も聞いておきたい。力不足を補うための技だったため、直接的に力を感じられない自分では判断がつきにくい。


「……あ、ああ。凄かった。いつものお前にはない、圧倒的な力強さを感じた」

「おぉ! そっか、そっか。それなら成功だな」


 内心でガッツポーズを作るジュン。レオンは冗談を言わない。

 単純な『力』はジュンの体格的にも似合わないため、今までジュンはスピードを極める事のトレーニング――疑似体験ゲームで、なのだが――ばかりをしてきた。

 力では体格差があるレオンには、どうしても劣ってしまうためだ。彼に勝つにはスピードを極めるしかなかった。スピードといっても、ただ闇雲な『瞬発力』というわけはない――想像力を駆使したスピードである。

 それてこのスピードは、元々ジュンの素質にも合っていたようで、上達も速く、結果的にはその選択は正しいものだった。

 

 そしてジュンとレオンは立ち尽くす。

 ジュンは魔装(エイン・シェル)の能力――思念技(アイディ・スキル)の凄さを初めて実感していて、レオンはかなりの焦りを感じていた。


(俺がジュンに勝っていた力……。これはもうすでに、俺のアドバンテージではなくなってしまった。俺も早く思念技を思いつかなければ……)





やはり戦闘描写は難しいですね><

巧く書けた自信が全然ないので、変なところとかありましたら、感想なりメッセなりで教えてください。

この次も、実践がメインになっていきます。頑張って描写をよくしていきたいです。

しかしやっと魔装を使えました^^


ではでは~

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