間話 『始業式』
「皆さん、おはようございます」
たった今、よく声が響く聖堂の中で、始業式が執り行われている最中だ。
最初の挨拶は学園長のお話から始まるらしい。壇上のサクラリスがマイク等の音声拡大装置を一切使わないで、開会の言葉を言っている。
声は聖堂の壁に反射して、より厳かにそして盛大に聞こえてくる。この空間そのものがマイクの役割を十二分に果たしているようだ。
そしてサクラリスは、ツーっと視線を生徒の海に泳がせていき、ジュンやフィーナたちがいる場所で停止した。
本当に僅かばかりの微笑が、サクラリスの顔には浮かんでいる。
「おはようございます」
全校生徒がしっかりと声を揃え、学園長に挨拶を返す。
それを受け学園長は、より深い笑みを顔に刻みながら続きを話し出した。
「いい挨拶ですね皆さん。これで今年も実りある学園生活を送れることでしょう。それでは、皆さんもあまり長々と話しては退屈でしょうから、年間行事の説明に移りましょうか」
さっそく次のプロセスに移るサクラリス。
ジュンは、もう少し挨拶の言葉が続くものだと思っていたので、何だか拍子抜けだった。
自分たちの通っていた学校の校長ですら、それなりに長く話していたことを覚えている。「燃えいずる春の訪れほにゃらら~」と続いてゆくのが常だ。
ケンジが立ったまま眠るという荒業をやってのけているのを視界の隅に収めながら、今朝フィーナに言われた事は正しかったなと思った。
確かに、学園長のお話は短そうだ。
「まず、最初の行事である水謝祭が7月の20日と21日行われます。伝統的な行事なので、皆さんは節度ある行動を心掛けてください」
水謝祭とは、毎年7月20日と21日に行われる祭りのことだ。
その2日間だけ何故か王都アトラティカの水位が上昇し、まるで都を水のマットと涼しげな霧が優しく包み込むかのような現象が起こる。
それに際し、出店などが多く見られる祭りとなるそうだ。
学園生というか、アトラティカ王国の住民全てが休日となり、その2日を楽しむのである。
「そして次に、9月30日には聖祈があります。皆さんはこの聖堂で祈りを捧げる事になるので、そのつもりで練習しておくように」
聖祈は文字通り祈る事であり、内容としてはアトラティカ王国の変わらぬ安寧と繁栄を祈るものだ。
女王も一緒に祈るという事で、フィーナの母であるジュディが祈る姿は少し興味があった。
「そして皆さんの中にも参加する人は大勢いると思いますが、11月の初めに舟漕奏が今年も開催されます。優勝者に送られる商品は今年も豪華になる予定だそうなので、是非頑張ってくださいね」
これはフィーナとも一緒に出ようと約束をした舟漕奏だ。
最小3人から最大6人で1グループを作り参加するゴンドラのレース。
王都を網羅する大運河カナル・グランデを1番速くに1周したチームが優勝である。
ジュンたち五人はこれで優勝を目指すため、毎朝学園にゴンドラで通うことに決めていた。
「そして、皆さんも知っての通り、元旦には学園最大のイベントである学園祭――ディスウォークが催されます。各クラス、何グループかに分かれて1種のテーマパークを構築してもらいます。去年のデキは、それは素晴らしかったですが、今年はそれ以上に素晴らしいディスウォークなることを期待していますよ。そしてメインイベントの法装闘技では、皆さんの日頃の努力が実を結ぶように祈っております」
ディスウォークとは、この王立魔法魔装学園エルデリアの『学園祭』を指す。
この学園は1学年におき7クラスが存在し、それが3学年なので全生徒数は5000人を超えている。このため、1クラス当たり250人の生徒が在籍しているのだ。
その数はとても多いので、クラスの中でさらに何グループかにわかれて展示物を考え、各々《おのおの》で独自のアトラクションを造りだす。そしてお客として来てくれる都市の人々に、どこが良かったかアンケートを取り、その総合ポイントを各クラスで競うというもののだ。
それから法装闘技とは、読んで字の通り、魔装士と魔法使が2人1組になって、他のペアと対戦する――トーナメント形式の大会である。
法装闘技では学園で学んだ技術と、パートナーとの絆を最大限に活かして熱い戦いを繰り広げるのだ。
クラスも学年も何もかも関係なく、参加資格はこの学園の生徒であることと、魔装士1人の魔法使1人のペアであることのみ。
そして栄誉ある優勝者には、このアトラティカ王国建国の英雄である『アトラス&メシュティア』の称号が送られる。
この称号は1年を通して、来年の法装闘技が行われるまで、名乗る事ができる。
つまり、互いが至高のパートナーであり、最強の魔装士&魔法使であることの何よりの証明なのだ。
これ以上の名誉は、このアトラティカ王国では存在しないと謳われるほどである。
「もちろん、ディスウォークの終わりにおける華舞踏も楽しんでください」
華舞踏――ディスウォークの最後の締めとして行われる後夜祭みたいなものだ。
何が行われるかというと、舞踏の名の通り、パーティー会場みたいな場所において2人で踊るというものだ。
基本的に男女で踊るものだが、稀に同姓で踊るものがいるが、そこに深入りは危険である。
「そして今年は、四年に一度行われるエイン・シェルVSエイン・ロッドがある年です。機工魔導師の皆さんは腕を奮って良いモノに仕上げてください」
この行事は四年に一度のもので、エイン・シェルのエンチャンターとエイン・ロッドの機工魔導師のどちらが、より優秀な武具を創ったかを測るものだ。
測定の仕方は、選抜された優秀な魔装士と魔法使が、両陣営に分かれて行うチーム戦で、そのチーム戦の勝利した方が優秀というものだ。。
「以上ですかね。では、これにて始業式を閉会とさせていただきます」
壇上のサクラリスが、初めと同じような短い台詞で式を閉じた。
始業式というよりも、行事の説明会のような印象である。
新入生代表からの挨拶さえない。
しかし、ここではそれが当たり前なのか、平然とした様子でぞろぞろと大勢の生徒たちが聖堂から出てゆく。
これから各クラスで担任の紹介と、クラスメイトとの顔見せがあるのだ。
ジュンたちはクラスの場所がよく分からないので、フィーナに後についてゆくことになった。
留学生として紹介されるとの事なので、一応今のうちに小洒落た自己紹介用トークでも用意しておこうかと、ジュンはわりあい真剣に考えていた。
それと、今日から寝床は学生寮を使って良いとサクラリスに言われ、さらに金がないことも知っているようで「困ったときはお互い様ですよ」とも言ってくれた。
しかしジュンたちとしては厚意ばかりに甘えるのはよくないと思うので、放課後はフィーナが機工魔導師のところへ行きがてら、他にも案内してくれるそうなので、その時にでもアルバイトできるところはないかと訊いてみるつもりだ。
ジュンたちが聖堂から外に出るとそこは、これまた立派な廊下である。磨きぬかれたその場所を靴で通っていいのかと躊躇ってしまうほどに。
カツンカツンと歩くと靴の音がするので、材質は何かの鉱物だろう。大理石あたりが妥当だろうか。
通るのは、朝と今の二回目のはずだが、思わず床を何度もわざとらしく鳴らしてしまうジュン。
彼の辞書に躊躇いは載っていないのである。
だからというわけではないが、この辺りにせわしなく響くポップな音は、彼がこれからの学園生活にウキウキしていることの象徴のようでもあった。
今回の話は、ほとんど行事の説明です。
関係ないですが、将棋が強くなりたいと思う、今日この頃なFranzでした。
ではでは~。