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ATRATICA IN CAPITAL OF WATER   作者: Franz Liszt
第2章 『学園編』
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第3話 『占い師セレス』


 あの後ジュンたちはなんとか朝食を終え――朝食だけで一仕事である――たった今、魔方陣から出て行きたところである。

 

 ビュンと耳に慣れた音が響く。

 だんだんと視界が開けていき、明るい光が目に差し込んでくる。

 すでに人で(にぎ)わう界隈(かいわい)は、とても活気に満ちていて、ジュンたちに元気を与えてくれた。

 辺りには水分を微量に含む朝露のような風が吹いており、それが優しく髪をなびかせる。

 心地の良い冷風に身を(ゆだ)ね、漆黒の瞳を閉じる少年。

 

 彼の傍らには、四人の学生服を(まと)った者たちがいる。

 少年を含む三人の男は白と青のブレザー風の制服を。

 ピンク色のポニーテイルをしている少女と銀色のロングヘヤーが(きらめ)く少女は、肩にストールを、そして制服は青と白のコントラストが映えるものを身に()けている。

 これらが『王立魔法魔装学園エルデリア』――通称『エルデ』の制服だ。


「おはようございます。フィーナ様にお客様」


 昨日もここで会った2人の陣番が、こちらへ爽やかな挨拶を送ってきた。

 それに答えるため、晴れやかな笑みを(たずさ)えたジュンたちも会釈(えしゃく)する。


「おはようございます」

「今日から新学期が始まりますね。頑張ってきてくださいね、姫様」

「はい。まかせておいてください。それでは行ってきます」


 初老の陣番二人組みは、中々に気さくな感じのする人たちである。

 それともフィーナが自身をプリンセスとして差別的な対応をされるのが、嫌いだということを知っているのだろうか。

 どちらにせよ、フィーナと彼らの間には長い付き合いのようなものが垣間(かいま)見えた。


「よーしっ! 今日からゴンドラの練習頑張るぞぉ!」

「「おー!」」


 ジュンがそう声高らかに宣言すると、ノリの中々良い2人は天に(こぶし)を突き上げるポーズを取ったが、じゃっかん一名は「ああ」などと呟くだけだ。

 むろんソイツは金色の髪をした青年で、ジュンが密かに教育してやろうと検討している相手である。

 もう1人のほうは、睡眠不足で意識不明に近いためしょうがない。


「おい、レオン。ノリが悪いぞ!」

「しょうがないだろ。俺がいきなり『オー!』なんて言ったら変だろうが……」

(た、確かに……)


 苦笑気味のレオンが言った言葉に、全く同じことを思ってしまう三人。

 それを察したのか、レオンはより深い苦笑を浮かべている。


「ま、まぁそれはとりあえず置いといて。ゴンドラってどこにあるの?」


 この問題は後々にゆっくりと解決してゆこうと、ジュンは固く決意する。

 そんなことより、今はゴンドラが先決なのだ。朝食に手間取ってしまったので、始業式の開始時刻まで30分をすでに切っていた。


「あ、うん。それならちょっと待って」


 目を上に向けたフィーナが自身のカバンの中を(あさ)っている。

 そして「あった!」と満面の笑みで叫びながら、手に持っているモノを見せてきた。


「これも……ラルクリア?」


 手は渡されたブツは、形状や色合いからラルクリアであると容易に予想ができた。

 このタイミングで渡されたという事は、ゴンドラを呼び寄せる類の能力のモノであることも。


「うん。そうだよ。これはゴンドラを召喚する為のラルクリア――ゴンドリアだよ」


 もう何でも有りな気がしてきて仕様がない。

 深く突っ込んではいけないのだ、きっと。

 いつもならここいらで、ケンジがトランスフォームをして、「ヤバイよ、コレ! 空間の転移だよね、今の。それをこんな小さなモノでやっちゃうなんて! スゴイ! スゴスギルッテ!」と言っている頃だと思うが、当の本人はそれどころでないほど眠いようで、コックリコックリやりながら(たたず)んでいる。


「もう、なんでも有りだね……」


 諦めたようにシャーリーが呟きを洩らした。


(だよな)


 と心の中で同意をいれる。


「早く言ったほうがいい」


 レオンは冷静な声で助言をする。

 まったく、ジュンたちには時間に余裕がないのが分かっていないのだろうか。

 レオンにとって初日から遅刻なんて事は何としても避けたい。始業式で静まる会場に乱入してゆくなど、考えただけでもおぞましい。

 やはり根本的に優等生なレオンらしい想いである。


「それもそうだな――ゴンドリア!」


 フィーナが水路の方へジュンの手を(いざな)い、彼がそこでゴンドリアを(かか)げながら、かの名称を唱えた。

 ラルクリアの使用法は、使用者が触れながら名称を唱える事である。それにより、水魔法が自動的に作用して様々な現象を起こせるらしい。

 その多様性といったら、枚挙にいとまがないほどだ。

 

 バッシャーン――大きな物体が水路へ出現した音。

 

 目の前には、五人が乗るには十分な大きさのゴンドラが存在した。一瞬でここへ転移してきたようである。

 ケンジはコレにも動揺することなく、ただコクリコクリと首を振っていた。

 暴走状態にならないのはありがたいことだが、ジュンは何となく物足りなさを感じてしまった。


「これをお母様に頼んで昨日のうちにもらっておいたの」


 どうやらこのゴンドリアは、元から特定のゴンドラを転移の対象として登録する事で、その能力を発揮するようだ。

 つまり無いものを、有るものにするのではない。有るものを、呼ぶだけである。


「準備がいいな、フィーナは。俺なんかどこかに取りに行くものかと思ってたよ」


 準備の良さに感謝の念を伝えると、フィーナは頬をポッと桃色に染めた。


「だって……すごく楽しみだったから……」


 そして彼女はまるで自分に言い聞かせるように、嬉しそうな顔で呟いた。

 手をモジモジとやっている姿は、小動物を思わせて可愛らしい。

 これがあの小悪魔(りりむ)変貌(へんぼう)するのかと思うと、女の子とはままならないものであると思ってしまうジュンであった。


「そっか、よかったな、フィーナ」

「うん、よかったね、フィーナ!」


 ジュンに混じってシャーリーも加勢している。

 レオンは、いまだウトウトしているケンジをゴンドラへ乗せていたが、その顔には薄い笑みが刻まれている。


「うん、うん。本当に嬉しい……」


 このままだとフィーナが泣いてしまいそうなので――もちろん嬉し泣きだと思う――、彼女の手をとってゴンドラへと誘導する。


「どうぞ、フィーナ嬢」


 ホストのような台詞(せりふ)を吐きつつ、フィーナがちゃんとゴンドラへ移ったかどうかを確認した。

 下は水とはいえ、落ちたらまたしても時間を食ってしまい、絶対に始業式には間に合わないだろうと予想される。


「ありがとう、ジュン……でも、なんか合ってないよ? そのキャラ」


 ニッと桜色の唇の端を持ち上げ、不敵な表情を浮かべるフィーナに、ジュンはなんか自分が影響を与えてしまったのだろうかと思った。


(俺色に……染まる……)


 そう思うと、ちょっと顔が火照ってしまう。


「うっせーよ」


 その火照りを振り(ほど)くように、雑言を垂れる。

 何やら視線を感じた。

 後ろを振り向くと、何やら動かないシャーリーがいる。その様子は何かを待っているようにも見えた。

 そんな彼女にゆっくりと近づくものが一名。

 もちろんそれは、金色の髪に朱色の瞳を輝かせるレオンに他ならない。


「シャーリー……手を……その、危ないから」

「あ、ありがと……」


 なんともジレッたい2人だと思ってしまう。

 それに両方とも照れちゃって、思わずホログラフォンで永久保存しようかと画策してしまったが、後が恐ろしいので結局実行には至らなかった。


「よっしゃ! みんな乗ったな?」

「うん!」

「いいよ!」

「大丈夫だ」


 上からフィーナ、シャーリー、レオンだ。返事って、意外と人柄が出るんだなと思った瞬間である。

 ゴンドラの右手にはジュンとフィーナが位置し、左手にはレオンとシャーリーが位置している。

 これが彼らのオールを漕ぐための陣形だ。

 ゴンドラなど操った事が全くないため、フィーナが言う一番オーソドックスなやり方から入る事にした。

 ケンジはおねむなので後ろに放置。


「じゃあ、今日のところは、タイミングとかは関係なしに漕いでみようか。それであまりにも遅いようだったら、その都度臨機応変に対応していこう」

「「了解!」」

「了解……」


 ホントに返事って……。

 と、それは放っておかねばなるまい。

 今はオールを漕ぐ事に集中すべきである。

 何せ初めてなのだから、下手でも仕方がないと思うが、あまりにも下手だと近くをゴンドラで通り過ぎてゆく他の学生たちに笑われてしまう。

 

 フィーナが前に言ったように、この水路カナル・グランデは朝になると焦っている学生たちによって占拠されていた。

 歩いている学生を見ない事から、やはり相当遅い時間なのである。

 フィーナもゴンドラを漕ぐのは初めてだと言っていた。独りで乗るゴンドラは寂しいと。確かに周りにいるゴンドラ乗りの学生たちは、みな複数人でオールを漕いでいる。


「じゃあ、とっとと行くとしますか!」


 ジュンは思考を振り切り、一言宣言してから、記念すべき第1漕ぎをした。

 水の重みが手に伝わり、それからまるでなめらかなプリンをスプーンで(すく)っているかのような手応えを感じた。

 正直に言うと、とても良い感触だ――卑猥(ひわい)な意味でなく。

 他の三人もそれぞれ漕ぎ出している。そして自分の手元を見て、柔らかな微笑を浮かべていた。

 

 スーッと音もなく静かにゴンドラが前に進んでゆく。

 今この瞬間聴こえるのは静かに進むゴンドラの音だけだ――周りの喧騒は全く耳に入ってこない。

 自分以外の三人も漕ぐのを止め、この気持ち良い風を全身に浴びているようである。

 時が停止したかのような、さながらホイヘンスの原理が示す波のような水面がそこにはあった。

 しかし、この感動は次の一言で瓦解(がかい)した。


「遅れますよ、そこの貴方たち」


 1人の女生徒が言った一言だ。

 珍しくゴンドラを1人だけで漕いでいる彼女は、なんだか不思議なオーラを辺りに振り撒きながら優雅に進んでいる。

 その姿はとても遅刻しそうになっている学生とは思えなかった。……ジュンたちも人の事は言えないのだけれど。


「おお、そうだった、そうだった。ありがとう……え~と」


 彼女が漕ぐゴンドラにピタッと横付けしてから尋ねる。

 すっかりゴンドラの操作のコツは掴んだようだ。無論、速さの面でいえば、まだまだの域であることは否めないが。


「セレスです。セレス・テラワイト。……ふふっ、あなた方は面白い人たちですね」


 彼女はジュンたちの方へ顔を向けながら、慣れた手つきでオールを漕いでいる。ゴンドラのスピードも一定でとても安定している。

 しかし今はそんなことはどうでもよく、彼女が話したことが気になった。


「え? 何が、ですか?」


 一瞬、フィーナを連れているからかとも思ったが、彼女の視線は間違いなくジュンたち異世界人にのみ向けられている。

 まさか……とは思うが、尋ねずにはいられないのが人間のさがだろう。


「ふふっ、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。私、占いをやっているんです。それで今日は面白い人たちと会うだろうと、占いに出たものですから……言ってみただけです」


 不思議な笑みを落としながら、女学生は言う。彼女の鮮やかな金色の髪がゴンドラの切る風の力で後ろへなびいている。


「占い……ですか?」


 ジュン自身は占いなどというモノの存在は知っているが、信じた事など一度たりともない。

 なんたって、非科学的であるし、根拠も何もないからだ。


「はい、そうです。占いです。私の占いはよく当たるって、(ちまた)ではそこそこ評判なんですよ?」


 フィーナの蒼い瞳よりもより深い青色の瞳をしているセレス。

 その不思議な心地を感じさせる目は、全てを見透かすかのごとく澄み渡っている。


「あ、思い出した」


 急にポンという音が後ろから聴こえてきた。

 『ポンポン』がでたなと思いながら、フィーナのほうへ振り返る。彼女はオールを漕ぐのをやめ、しきりに頷いている。


「そういえば、聞いたことがありました。セレス先輩のお噂。的中率100パーセントだって」

「いえいえ、100パーセントなんてとんでもない。しかし、プリンセスにまで私の噂が流れているとは、いやはや嬉しいものです」


 セレス先輩ということはフィーナが2学年だから、彼女は3学年、最上級生ということだ。

 とてもそうは見えないとまではいかないものの、見た目から自分たちと同じか、もしくは1つ下だと思っていた。


「ふふっ。プリンセスと一緒に登校ということは、今日から貴方たちも学園に入学するのですね?」


 セレスが微笑を(たた)えながら、こちらへ尋ねてきた。

 ここはしっかりと設定を思い出しながら、正確に言わねばならない。


「はい、そうです。シルヴァニアから留学をしにやってきました。今日から学園には通うのでよろしくお願いします」


 先輩なのでちゃんと敬語も使用しておく。無用な事で反感を持たれても困るからだ。


「いえいえ、こちらこそよろしくお願いします。それと、そんなに無理に敬語を使わなくてけっこうですよ。私、そういうのあまり気にしませんから」

「それは、ありがたい。じゃあ、セレス先輩には敬語は使わなくてもよい。○と」


 手のひらに丸印を描く。

 敬語は疲れるので、使わなくてもいいと言ってもらえるのは、ジュンとしてはとても感謝感激、雨あられだ。


「ジュン……あなたって本当に切り替え速いよね」


 フィーナが自分を褒めているのが聞こえる。


「そこだけが、ジュンのいいところだしね……」


 後ろでシャーリーがヒソヒソ声で言うのも、もちろん近くにいるので聞こえる。

 そして2人で笑っているのも、無論知っている。

 それら全てを黙殺し、セレスのほうへ語りかける。


「セレス先輩は、占いをどこかでやってるの?」


 噂が流れるという事は、誰かを占っているという事だ。

もしくは、自分で流すという可能性もなくはないが、セレスにそんなことをしそうな印象はない。


「ええ、やっていますよ。学園の食堂近くのテラスで、毎日お昼休みの数分間やっています」

「おぉ、じゃあ今度行ってみるよ」

「はい、待っていますね。ジュンさん」

「オーケーっす」


 一瞬自分は名乗っただろうかと疑問に思ったが、フィーナやシャーリーの声が聞こえたのだと断定し、差して気に留めなかった。

 

 そんなことよりも今は、学園の大きな門がジュンの視界を独占していた方が大問題だ。

 

 この王立魔法魔装学園エルデリアは、実際は王都アトラティカの外にあるといっても過言ではない。

 どういうことかというと、エルデリアはアトラティカから独立した1つの浮き島として存在しているということだ。

 よって行き方としては、アトラティカの端に描かれている魔方陣から直接エルデリアの中へワープして入る方法と、ゴンドラに乗ってラグーナを走破してゆく方法の2つがある。

 そしてゴンドラでゆく場合は、エルデリアの大きな校門を(くぐ)って中へ入ることとなる。

 この門がそれだ。横に広く、縦に高い門の最上部にはこれまた巨大な時計が1つ取り付けられている。

 その(さま)はさながら、時計塔(ビッグベン)を想起させる。

 門は自身を中心に、エルデリアの丸い形を作る基礎となる外縁部を構築していた。形容そのものは、かの昔に存在した野球球場のイメージである。


「おぉ、すっげぇ~」


 学園はそれ自体が、1つの城と町を形作っているようにも見える。

 聖堂とおぼしき場所や、店屋、それからコロッセオのような建築物など本当に多種多様だ。


「ジュン、急ごうよ! 時間がヤバイの!」


 フィーナが時計塔を指差しながら、焦った声をあげている。

 本当である。ものすごくヤバイ。始業式の開始まで、残り10分もない。周りを見ると、ジュンたち以外の誰もそこにはいなかった。


「あれ、セレス先輩は?」

「もう! 何言ってるの。セレス先輩ならお先に行きますねって、行っちゃったよ!」

「え? 聴いてないんだけど……」

「ジュンがぼうっとしていただけだから!」

「す、すいません。急ぎましょうか、プリンセス……」


 この後、レオンと力とタイミングを合わせ、ものすごい速さで漕ぎまくり、何とか始業式の行われる聖堂へ辿り着く事ができたのだった。

 その速さを身をもって体験したフィーナが、「もうヴォーロンガ(舟漕奏)に出れるかも」と呟いていたのは男共の耳には聞こえていなかったことだろう。





昨日塾へ行ったら、3年生の記述模試が行われており、なんだか自分たち2年生もやってみろと言われ、大変でした。←行くんじゃなかったw

まず、数学がかなり難しかったです>< 私立高校では授業の進むスピードが半端なく速いので、すでに双曲線とかも終わっていますが、正直キツかったです。

物理はけっこう簡単でしたが、英語は死にました(笑)

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