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ATRATICA IN CAPITAL OF WATER   作者: Franz Liszt
第1章 『世界掌握編』
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間話 『この門をくぐる者は一切の絶望を捨てよ』




 ビュン――やはりこれも先刻聞いたワープ音に似ていた。自身の体にしっかりとした感覚が戻ってくる。それは体の組成を素粒子化して一瞬で他の場所へ飛ばすことが可能である、量子力学の世界そのものだ。

 それから眼に飛び込んでくるは、幻想的の一言。地球の中世ヨーロッパを思わせる城の造り、そして何も無いところから降り注ぎ、城をすっぽりと覆う滝水のヴェール。

 転移してきた場所から城へは一本の道になっており、その両端を水路とゴシック風のアーチがコーティングしている。


「この道は――」

「ウオォォ! すごい、すごいぞ! 遥か昔に滅びたとされるイスラム建築と似ている!」


 フィーナの声を完全にシャットアウトし、成るべくして暴走ケンジと成った機械オタクの叫び声がこの景観に、文字通り水を差した。

 ホログラフォン片手にすることは、他にないのだろうか……。


「……」


 その姿を四人は苦笑気味に見つめ、ヤレヤレと首を振った。


「あ、あのさ、フィーナ。今から女王様に会いに行くんだよね? いきなり、無礼者! って牢屋にぶち込まれたりしないよね?」


 普段は気が強く、負けず嫌いのシャーリーだが、その実態はかなりの怖がりで心配性だった。

 フィーナがいるのだから大丈夫だろうと思うのだが、彼女としてはどうしても確認しておきたい事柄だったようだ。その紫電の瞳が彼女の真剣さを物語っている。


「ふふっ。大丈夫よ、シャーリー。だって私が付いてるんだもん。それに、万が一のことがあったら……」


 最初は笑いながら語りだしたフィーナだったが、途中で少しだけイタズラ的な余韻を残し、言葉を切る。

 何かを思いついたようだ。


「……あったら?」


 ゴクリと生唾を飲み込む音が聴こえてきた。


(なんだか、嫌な予感がするんだけど……)


 なぜかシャーリーが言われているはずなのに、自分が蛇――いや小悪魔(リリム)に睨まれているかのように感じるジュン。

 

まさしくこれはデジャブ!!


「私たちの仲がいいよってことを見せてあげればいいんじゃない?」


 『ね?』と自分に微笑みかけられても困るジュンである。やはり自分の鋭敏な感覚はバカにならない。

 そうこうしている内に、本当にあっさりと城門へ到着してしまう。

 せっかく綺麗な景色だったのに良く味わえなかったと、少しだけ、ほんのちょぴっとだけ、自分中心に動いていた暴走ケンジが羨ましく感じられた。




 

 ギィィーと重い扉が開いてゆく音が響く。

 といっても誰か人が開けているわけではなく、感知式を採用してあるようで、ジュンたちが近づくと自動で開いていった。

 これも魔法またはラルクリアの効果の一種だとすると、本当に魔法やラルクリアの使い道は多いのかもしれない。


「さぁ、中に入って」


 その厳かな印象を強く受ける光景に、自然と足が止まってしまった四人にフィーナが声を掛ける。

 しかし一行は、一向に足を前には出さない。

 あの(きら)びやかな彫刻が施された扉の開かれていない天辺(てっぺん)には、何やら碑文が記されていた。

 そこを凝視している。


「……これって昔、地球で使われていたという『英語』ってヤツだよな?」


 ポカンと口を開けながら、発音するという荒業をジュンはやってのける。

 彼の努力の賜物だろうか、それとも……人間我も忘れたときには奇跡を起こすのだろうか。その判断はつきかねた。


「ああ、そうだな。『The person who passes under this gate must throw away all despairs.』――『この門をくぐる者は一切の絶望を捨てよ。』か……」


 レオンは考え込むように口に掌を当てた。

 ケンジとシャーリーもしきりに頷いている。

 その碑文は確かにそう記されていると、ケンジが握り締めているホログラフォンから宙に文字列が映し出されていた。

 『この門をくぐる者は一切の絶望を捨てよ』とは、遥か昔に実在したというダンテ・アリギエーリの叙事詩『神曲』地獄篇第3歌に登場する地獄門と反対の銘文である。


「……驚いたぁ~、よく読めたね。この門は『ポルタ・アルバ』って言って、アトラティカ王国が建国されたときから刻まれてある古代文字の1つなんだよ」


 フィーナが感心したような言いようをした。どうやらユーレスマリアでは英語は古代文字扱いのようだ。

 言語体系が似ているというか、同じだったことには驚いたものだが、古代までも同じものが使われているとは何らかの作為的な意思を感じずにはいられなかった。

 

 

 まるで『ピース』と『ユーレスマリア』――この二つの世界はかつて、(つな)がっていたかのように……。



「レオンさんは、考古学とかやるの?」


 『さん』付けで呼ばれるレオンは、すぐさま否定の言葉を口にした。


「いや。これは俺たちの世界の大昔で、割と一般的な言語だったんだ」

「へぇ~、そうだったの。この国ではこの古代文字を読める人は少ないから……」


 『学園の科目にもなっているんだよ』と付け足すフィーナ。

 まあ自分たちはほぼ完璧に使えるが、『ピース』でも『古典』のジャンルで英語を教えていたはずだ。


「この文に何かの意味……というか効果はあるのか?」

「え~と。たしか絶望を、『害ある感情』と見なして、王家に害意ある人は通ることができない魔法が掛かっているらしいわ」

「そりゃまた、凄いな」


 人の感情を読み取る魔法。

 それは凄いと感じると同時に、怖くもあった。

 なぜなら、この魔法使えば、他の誰かが、自分だけのものである心の内側を、簡単に覗ける可能性を秘めているのだ。


「さてと、そろそろ万神殿(パンテオン)へ行くとしますかぁ!」


 数瞬の思考の後、ドゥガーレ城の中を見つめながらジュンがそう声を掛ける。

 それを受けて、頷く一同。

 今、彼らの視界には何も写ってはいない。

 薄い水のヴェールが門と城内の間を隔てているせいだ。本来ならば透けて見えるほどの薄いもののように思えたが、水魔法の力で中は見えなかった。


 ふと、自分の手を誰かが握ってきた。

 フィーナだ。彼女はニコッと笑んでこちらを見ている。

 どうやら、ジュンが怖がっているかと思ったのだろう。

 不敵な顔つきを作り、『大丈夫だよ』とアイコンタクトを送りながら、その手を引っ張るようにして水のヴェールへ突き進んでいった。





ここいらで伏線を張っておきました。

振り替えが冬休みに決定し、とても沈んだ気分です><

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