表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/84

同盟暦512年・脱出行9

一礼したベアトリスは青ざめた顔でふらついた。

アーネストは肩を支える。

「姫様!どうぞ馬車にお戻りを!お身体が!」

「だいじょうぶ……だから……おねがい……」

涙を流して懇願するベアトリス。

アグラオニケは殺意を静め、ベアトリスに歩み寄る。 

「よせ!」

「待ちなさい」

アグラオニケを止めようとしたポーをテュルパンが呼び止めた。

「でも!」

「様子が変わりました」

アグラオニケは睨みつけるアーネストを無視し、そっとベアトリスの頬に手を添えた。

魔力がベアトリスに流れていく。

おぞましい体験がアグラオニケの頭の中で鮮明に再現されていく。

「おぉ…おぉ…なんということ……」

ベアトリスの記憶を読み取るアグラオニケは嘆きだした。

「享楽と退廃と破滅の信徒め!」

アグラオニケは怒りの表情でここにいない誰かに叫んだ。

「許さぬ…許さぬぞ!妾を愚弄したものと思え!」

一通りの怒りを吐き出して、アグラオニケはベアトリスを抱き締めた。

「愛し子よ。その方の心臓は奪えぬ。穢れた魂は妾は触れられぬ」

「…………わたくしの魂は……穢れているのですね……」

「然り。妾は偽らぬ」

アグラオニケの胸に抱かれたベアトリスは空虚な声で呟き、アグラオニケは肯定した。

「……愛し子よ。苦しみの日より眠っておらぬな?」

「…………いえ………」

「欺くな。妾は欺けぬ」

ベアトリスはこくりと頷いた。

「眠れないんです…夢が……わたくしを……追いかけてくるのです……」

「妾が眠りを贈ってやろう」

「眠りを?」

「夢に邪魔はさせぬ。夜の神が、愛し子を守るであろう」

アグラオニケは甘い香りのする声色でベアトリスの耳元で眠りの呪文を囁いた。

ベアトリスは瞼を閉じ、脱力して意識を失った。

アグラオニケはベアトリスの額にキスをする。

テュルパン、それを見て眉をひそめた。

「下女よ。主人を休ませよ」

「は、はいっ!」

アーネストはアグラオニケからベアトリスを渡される。

そこにポーが手伝いに入り、二人でベアトリスを馬車に運び込んで寝かせた。

「新教の司祭よ」

「なんでしょう」

「あの愛し子の心を癒してやれ」

「無論です。我が神は"傷つく者に寄り添う神(パナケイア)"。私はその忠実な僕です」

「よい。では無断で森に踏み入った償いをせよ」

アグラオニケは背後に目を向けた。

そこにはゴドルドとその配下50人の姿があった。

「今すぐ貴奴らの首を刎ね、血を捧げよ。森もまた喜ぼうぞ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ