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アラン戦記  作者: 夢物語草子


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同盟暦512年・三姉妹の拵え編17

夢の世界に精神を囚われたルグランは身動きせず立ち尽くす。

身体のあちこちに刀傷を負ったレオリックスとダーフー。

「あの娘は何をした?」

「治療を悪いことに使ったのよ」

アーネストの吐き出す吐息は薄い赤・薄い青・薄い紫の色を帯びている。

「お婆ちゃんは善き魔女よ」

「なるほど。祭司様と同じか」

アーネストの祖母は善き魔女コレという。

夢の力を操り心を癒す魔女術に優れていたが、人を嫌い身を隠すように暮らしていた。時折、気まぐれに人々を救う事はあれど、逆に人々から望まれ乞われても助ける事はなかった。

今、アーネストは祖母から伝授された魔女術を使い、ルグランを夢の世界に閉じ込めたのだ。彼が望む理想の幻想を見せることで。

「これで時間が稼げるでしょ」

「充分だ。戦士達が来た」

続々と戦士達が姿を現し、数十人に達する。

そして最後に側近を引き連れたカーリーとクーリーも現れた。

「レオリックス。アーネスト」

負傷した仲間を見てクーリーは駆け寄り塗り薬を取り出す。

「ありがとクー」

「けがひどい?」

「俺よりアーネストだ。骨が折れてんだろ」

「医者!アーネスト助ける!」

クーリーに呼ばれた薬師がアーネストの具合を診ると、すぐに戦士に命じて村に運ぶように指示した。

「あいつ敵?」

「ルグラン・キッドだ。…って、おい!」

突進したクーリーをレオリックスが止めようとしたが、その前にカーリーが拳骨をクーリーの頭頂部に命中させて有無を言わせず力ずくで制止した。

「思い出しました。その剣、魔法造りの剣の一振でした」

「か、カーリー族長様、あの剣の事を知ってんのか?」

「知ってますよ。今の今まで忘れてましたけど思い出しました」

レオリックスの問いかけにカーリーは笑顔で答えるなり、即座に棍棒でルグランに殴り付けた。

「「っ!?」」

岩を打ち砕く強打の連続。

ルグランは夢の世界に囚われ現実の出来事を認識できていない。故に防御など不可能。

正面からまともに受けて吹っ飛んだ。

「ひぃ~~~」

「レオが怖がるのも無理ないわ…」

岩壁にめり込んだルグランはぼろ切れのような姿になっていた。

「やっぱり力を出し切れないですね。いつもなら五体千切れとんでるはずなんですけど…」

困ったように微笑むカーリーにつられて笑う者はいなかった。

「さて、同胞を殺した報いは死をもって償いなさい」

カーリーの死の宣告にアーネストとレオリックスは敏感に反応した。

「(いや殺しちゃ駄目だろ!)」

「(キッド侯爵家は中央に影響力ある有力貴族。それに当主は排斥派に近い人物。嫡男を殺せば確実に排斥派に傾く。王様がいない今、排斥派が動き出したら誰も止められない)」

そして牛の牙部族と戦争になる。ダミートリアスの処刑で国内が混乱している中、それは国を揺るがすだけでは済まない致命傷になる。

貴族は面子と名誉を何より重んじる。それらは時として国の価値をも上回ると考える輩がいるのだ。

「「待って……!!」」

二人が同時に声をあげかけたが、カーリーの棍棒が威嚇するように二人めがけて振り下ろされた。

あえて外した一撃。次は無慈悲な一撃が二人の命を奪うだろう。

「う、ご、く、な」

底知れない冷酷な声色に二人は本能的に恐怖した。

そうして皆が見守るしかない中、唐突にカーリーはルグランに近づく足を止めた。

カーリーとルグランの間に姿を表した美貌の三姉妹。血肉を得ながらも生者の匂いを一切持たない彼女たちに、カーリーは目を細めた。

「初めてですよ」

凶悪に微笑んだカーリー。

「亡霊を挽き肉にするのは」

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