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アラン戦記  作者: 夢物語草子


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同盟暦512年・三姉妹の拵え編15 

ポーが崩落に巻き込まれて三日目を迎えた里では戦士達による捜索活動が続いていた。

「やっぱり生き埋めかもしれませんねぇ」

背中をクーリーに蹴られながらカーリーは平然と言う。

「母様馬鹿。母様馬鹿。母様馬鹿」

「しょうがないでしょう。つい力んじゃったんですから」

と言いつつ反省の色は全く見られないカーリーだが、捜索活動に関しては注意を向けていた。

「(風に濁りが混じってますね。すこしばかり手を焼くような…)」

戦士としての嗅覚が未知の危険を嗅ぎとった。

ーーーーーーーーーーーーーー

崩れた崖の底に降りたアーネスト、レオリックス、そして牙の牛の戦士を含めて八名が捜索をしていた。

「ポー!どこいるのよー!ポー!」

誰よりも声を張り上げながら必死に探すアーネスト。

「この高さから落ちて無事って信じられるか?」

上を見上げて呟いたレオリックスにアーネストは睨み付けた。

「無事に決まってんでしょ!」

「族長の一振を受けた方が命はないだろう。それにここら辺の苔は厚く柔らかい。落ちた場所次第で無傷だ」

年長の戦士が説明すると、アーネストも落ち着きを見せた。

「ずれたら?」

「死んでいるだろう」

「もう!うるさい!ちゃんと探してよ!」

ぷんすかと怒るアーネストは一人で奥を探しに行こうとする。

「娘。急ぐな」

「だから!急がないと!」

「この先は封域だ」

曲刀(タルワル)を抜いて年長の戦士、ダーフー・ウーはアーネストの足を止めた。

「封域?」

「恨まれ憎まれ呪われた人間を押し込めた呪詛溜まり。それを封印した場所の事だ。我が里には一つしかないが、お前達の国には数多くあると聞くぞ」

「……もしかして幽閉地のことを言ってるの?」

通常の罪人より重罪を犯し大罪人を一生幽閉する場所を幽閉地と呼ぶ。

「ちょっと違うんじゃないか。どっちかというと、もっと悲惨な感じがするぜ」

弦を鳴らしてレオリックスは矢をつがえた。

「レオ?」

「感じたか?」

「おう。狩りが本業なんでな。殺気には敏感なんだよ」

「捜索している戦士の数人が戻っておらん。どうやらここのようだ」

残りの戦士達も曲刀を身構えた。

ようやく異変を察したアーネストも剣を抜いて闇が満ちた奥に目を向けた。

よく耳を澄ませば、足音が聞こえた。一人分の足音、のはずなのに違和感がある。他にも誰かいるような気配がするのに、足音が全く聞こえない。

緊張が否応なく高まる。ポーなのか。それとも別人。

その答えはすぐに分かった。

暗闇から現れたのは、三つの生首を手にぶら下げたルグラン。もう片方の手には異様な剣を握り締めていた。

「なんと…」

年長の戦士は冷や汗をかいた。

「ようやく出口に着いたか。やはり殺す前に聞いておけばよかったな」

生首を地面に投げ捨てて、ルグランは身嗜みを整えた。

「キッド卿、生きて…」

「うん?お前は誰だ?顔は…見覚えがあるが…」

顔を向けたルグランの目を見たアーネストは強烈な怖気を覚えた。

暗い。それ以上に濁っている。まるで魔薬(麻薬の事)を使った人間のよう。

アーネストは騎士ではない。ベアトリス専属の侍女だ。その為、騎士団に関わる事も多く名のある騎士の名前と顔は覚えており、調べてもいる。

ルグラン・キッドは気位が高く傲慢。平民を見下す典型的な貴族の息子。それでも実力は高く、王室に対する忠誠心は強い。なによりベアトリスを敬愛している。

何度か見かけたが、純粋な目をしていた。こんな目などしていなかった。

「思い出せないな…まぁ、どうでもいいか」

黒い剣をアーネストに振るう。

剣で防御したアーネストだが、予想以上の力に吹き飛ばされた。

岩に激突して、血を吐く。今ので肋骨が折れたのは確かだ。

「アーネスト!」

力なく横たわるアーネストに駆け寄るレオリックス。

ルグランは不満げな顔を浮かべた。アーネストを殺せなかった事に不満だった。

「ダーリー」

「…なんだと?」

「ガーフー。オーガー。三人の戦士の名前だ」

「……だからどうした?」

「覚えなくていい。聞くだけ聞いておけ」

ダーフーは一気呵成に斬りかかる。

黒い刃と白銀の刃が火花を散らす。

「お前が誇りある北の大地の騎士であるならな」

「蛮族が誇りを語るな」

足を止めて全力で斬り合う二人。

凶暴な野生の獣が食い殺し合うような光景だ。周囲に血が飛び散り雄叫びが轟く。

アーネストが生きている事を確認したレオリックスはえんごすべく弓を引くが、弦を離せない。

「(……くそ!狙えねぇ!)」

機微に動き回るルグランを狙い打つのは殆ど不可能だ。

「(それ以前になんなんだ!あの動き!人間じゃねぇぞ!)」

ルグランの黒い剣がダーフーの胸板を切り裂いた。

派手に血を吹き出したダーフー。それを見て様子を伺っていた他の戦士が一斉にルグランに襲いかかる。

「ははっ!蛮族がいくらこようと!」

瞬く間に五人の戦士を斬り伏せた。

「無駄だっ!!!」

仲間が倒れる姿にダーフーは怒りの感情を爆発させた。

だが、致命傷を避けたものの出血は酷く肉体はいうことを聞かない。

「死ね」

ダーフーの首を刎ねようとしたルグランだが、そこにレオリックスが放った矢が腕に刺さる。

さらに重ねて矢を放つ。ルグランは剣を引き矢を防ぐ。

「キッド卿、あんた自分がなにやってるのか理解してんのか?あんたのせいで牙の牛部族と戦争になるぞ!」

「もとより蛮族と友好関係を築くこと自体がおかしい。陛下は寛大すぎた。蛮族を滅ぼし白雪国が北の地を統一する。それこそ正しいあり方だ」

「正気か?キッド卿、あんた狂ったのか?」

「全てはベアトリス王女殿下の為」

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